12 / 84
2 新しい人、新しい世界
2ー2 男の子?女の子?
しおりを挟むその少年の名は、フランシス・アリア・カスケード。
なんでもこの魔の森があるカスケード王国の第2王子であり騎士団長なんだという。
マジか。
こんな子供が戦場に出てるのかよ?
僕は、すごくひいていた。
王国の大人たち、何やってるの?
何はともあれ、カスケード王国は、今、虚無の魔王と戦っているのだという。
「数日前、この付近で魔王軍と交戦し、敗残をきわめて撤退していたところだった。私は、その殿をつとめていたのだ」
ええっ?
僕は、さらに驚いていた。
こんな子に殿させてたの?
うん。
どうやらこの少年は、殿をつとめるうちにこの魔の森へと迷い込んでしまったらしい。
「ここは、魔の森だ」
僕は、フランシスに告げた。
「一度、迷い込んだら、決して抜け出すことはできない」
「そうか・・」
僕の言葉に気のせいか、フランシスは、ホッとしたような安堵の表情を浮かべているように思われた。
そりゃ、そうだよね。
この年で、騎士団長で、殿つとめたりしてるんだから、しんどかったよね。
うん。
この森で、ゆっくり暮らせばいいよ。
とにかく僕らは、フランシスの鎧を脱がせて風呂に入らせることにした。
なにしろ、戦場から命からがら逃げてきたというフランシスは、全身が薄汚れていてかなり臭っていた。
僕は、家に連れ帰ると彼を風呂場へと連れていった。
「ここは、風呂場だ。すぐにお湯を用意するから」
僕は、そう言うと、浴室へと向かい浴槽に水を入れた。
この家の風呂場は、広い。
浴槽も大きかった。
兄さんたちのために、大きめの風呂場にしたんだ。
みんなで入れるしな。
僕は、浴槽に水が溜まっていくのを見つめていた。
上下水道は、すでに設備していた。みんな、家で蛇口を捻ると水が出るのを驚いていた。
「もう、水汲みに行かなくてもいいのか?」
オルガが信じられないというように僕にきいた。
オルガは、僕と同じホブゴブに拾われて育てられた。ホブゴブの家の大切な働き手だった。
といってもホブゴブが働けと言っているわけではない。
オルガがすすんで家族のために働いているのだ。
僕が、もう水汲みはしなくていい、というとオルガは、すごく嬉しそうに笑った。
「お湯よ、沸け」
僕は、浴槽の水が溜まると言った。
本当は、言霊を使わなくても風呂の湯を沸かすことはできる。特殊な魔法回路を刻んだ魔石を水の中に入れておけば、すぐにお湯は沸くのだが、魔石を使うのがもったいないので僕の家では言霊で湯を沸かしている。
魔石は、とっても貴重なものなのだ。
僕は、お湯に手を入れて温度を確かめるとフランシスの方を振り向いた。
フランシスは、まだ、鎧も脱いではいなかった。
なんで?
僕がフランシスに問うと、フランシスは、僕にきいた。
「ふろ、とは、なんだ?」
はい?
僕は、はっと気づいた。
そうか、この国には、風呂の文化はないんだ。
そういえば、ラック爺も初めて風呂を見たとき、「これは、なんだ?」ってきいてたしな。
マジか。
みんな、どうやって体を清めているんだ?
「これは、風呂といって服を脱いでお湯で体を洗うものだ。わかったら、服を脱いで」
僕がフランシスに言うと、フランシスは、なんか、急にモジモジし始めた。
ええっ?
今度は、何?
僕は、しばらくフランシスの様子を見ていたが、くすっと笑ってしまった。
この子、たぶん、鎧も自分では脱げないぐらい、いいとこの子なんだよ。
王子とかいってたしな。
うん、うん。
僕は、服を脱ぐのを手伝ってやろうと手を伸ばした。
「いやぁあぁっ!!」
フランシスは悲鳴をあげてその場に座り込んでしまった。
はい?
僕が驚いていると、カピパラ、じゃなくってカヅキ兄さんが僕に言った。
「オルガを連れてきた方がいい」
「なんで?」
僕の問いにカヅキ兄さんがふっと笑った。
「しょうがないなぁ、ユヅキは」
僕は、しばらくフリーズしていたけど、はっと気づいて、オルガを呼びに走り出した。
フランシスは、男の子じゃない。
あれは。
女の子だ!
10
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。
大前野 誠也
ファンタジー
ー
子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。
しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。
異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。
そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。
追放された森で2人がであったのは――
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる