上 下
57 / 63
5 ダンジョン攻略と魔女の系譜(2)

5ー9 危険な生き物

しおりを挟む
 5ー9 危険な生き物

 その日は、みな、それぞれに体を休ませることになった。
 ルドは、僕を抱き上げると寝室へと連れていきそっとベッドに横たわらせると僕の鼻の頭にキスをした。
 「おやすみ、ルーシェ」
 「ルド」
 「詳しい話は、明日、だ」
 ルドは、僕を寝かしつけるようにして横になると目を閉じた。
 「おやすみ、ルド」
 僕も、ルドの温もりを感じながら目を閉じた。
 おやすみなさい。

 翌日、僕らは、朝食の後でリビングに集まった。
 もちろん母様も一緒だ。
 「で?ルーシェ。なぜ、私のもとを去ろうとした?」
 ルドが僕を膝の上にのせてソファに腰かけるときいた。
 いや、なんで膝の上?
 僕は思ったけどルドを拒むことはできなかった。
 僕はポツポツとみんなに自分が前世で『異界の魔女』の仲間であったことを話し始めた。
 「僕は、『マザー』の露払いとしてこの世界に来た。この世界を浄化し、それから『マザー』たちを呼び寄せることになっていた」
 だけど。
 僕は、吐息をついた。
 「僕は、この世界で『マザー』を受肉させるためのパートナーとして選ばれた人間のことを愛してしまったんだ。そのせいでこの世界を滅ぼすことができなくなってしまった」
 愛する人のいるこの世界を、僕は、滅ぼせない。
 僕は、ジレンマに陥った。
 「そのせいで、この世界を滅ぼすことができなくなってしまった。だから、僕は、ダンジョンを造りその中にこの世界を滅ぼすための神器を封じることにした」
 「それが我とその弟剣であるソード・イーガー、そして」
 「この『賢者の石』か?」
 ルドがテーブルの上に置かれた紫色に輝く美しい勾玉を見つめた。
 僕は、頷くと続けた。
 「『マザー』たちは、今、肉体を持たない魂魄となり行き場を失ってあの『異界の魔女』の森をさ迷っているんだ。僕が行って彼らの魂を導いてやらなくては」
 「『異界の魔女』たちと平和にこの世界で共存することはできないのか?」
 グイードが僕に訊ねてきたので、僕は答えた。
 「それは可能だと思う。もともと僕たち『異界の魔女』は争いを好んではいない。この世界を滅ぼそうとしたのは、この世界の人々が争いを好む危険な生き物たちだと思っていたからだし」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある名家の話

侑希
BL
旧家の跡取り息子と付き合っていた青年の話。 付き合っていて問題ないと言っていた跡取り息子と、別れさせようとした両親と、すべてを知っていた青年と。すこしふしぎ、少しオカルト。神様と旧家の初代の盟約。

航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?

ジャン・幸田
恋愛
 遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。  だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・ 予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。

花が散る、その夜に。

花の巫女
BL
佐原花街─そこは欲に溺れた人間たちが集う街。ある軍人は女で遊び、ある商人は男娼に囲まれる。 そこで一際有名な陰間茶屋の看板美少年、千里(センリ)はただただ金のためだけに見知らぬ人と夜を共にしていた。そんな少年に本物の愛を届けようとするのは軍隊の将校である、丞(タスク)。身分の違うふたりはお互いに愛を貫けるのか。 *オメガバースの設定を組み込んでいます。作中でも説明は致しますが、本来の設定を知りたい方は是非調べてみてください。 *時代の異なる設定があるかもしれませんが、気にせず読み進めてください。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女

ジャン・幸田
大衆娯楽
 引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!  そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

絶望の終わり

雪紫
BL
一応ファンタジー世界。 倹約家の警官×レイプ被害者(?) 初めの方は受けが可哀想です。 ハピエンいちゃらぶ完結済み!

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

処理中です...