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23.来い来い、金運

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「介抱できる者も場所もございません。
ご自分のお連れになった者達はご自分でお引き取り下さいね。
他に無ければこれで。
見ての通り、賠償も頂いてからでなければ何もおもてなしもできませんし?」

 ダダ漏れる覇気に当てられて倒れる女官が数名。

 ここ、土くれの紛うことなき地面です。
衣が汚れてしまいますよ?

 陛下のお付きの方々はお流石、と言うべきでしょう。
些か顔色は悪いですが、しっかりお立ちでらっしゃいます。

「他にはない。
重ねて伝えるが、その者達が何かしら粗相をすればお前の責任となる。
夢々忘れるな」
「もちろんに。
ではその者達への命令権もそれに準ずる全てが私と致しますがよろしいかしら?
という事は、この後宮全体とそれ以外の場での貴妃が関わる事全てを確実に私の耳に入れねば何かあっても私の責任とはできませんが、それでよろしくて?」
「そなたは!」
「認めてやるから勝手にせよ!
本日よりお前は正式にこの宮の主となった。
好きな時に出ていけ!」
「まあ、素敵なお話ですね」

 流石の皇貴妃もお顔の色が優れぬままに何やら言いかけたのを陛下が遮ってしまいましたが、よろしいのかしら。

 けれどそんな事よりも、ついつい嬉しさがこみ上げて両手をパン、と叩いて顔にも態度にもしっかり出して喜んでしまいました。

「……何でそんなに嬉しそうなのだ……そうやって笑ってるとガキ過ぎて怒りが削がれる」

 あらあら、覇気が一瞬で霧散しました。
最愛の皇貴妃にとってもそれがよろしいでしょうね。

「おすまし顔の方が陛下のお好みでしたか?
ですが陛下よりこの丸一日で賜ったお言葉の中で、1番に嬉しいものでございましたので、つい」
「なんと……」
「ぶはっ」

 顔を顰めるご夫婦はともかく、丞相はどうして吹きだしたのかしら?
この方、氷の麗人と呼ばれておられたはずですが、もしやそこそこの笑い上戸?

「お気の変わらぬ内にお帰り後、すぐに一筆お書き下さいませ。
ああ、ここに紙とペンが無いのが悔やまれますね。
そうそう、出て行く際には国家予算1年分の持参金を引き上げますから、どうぞいつでもできるようご準備下さいませ。
ねえ、丞相?」
「国家予算?」
「チッ」
「ぶふぉっ」

 初耳らしく目を丸くする皇貴妃に、舌打ちする陛下はわかりますが、丞相はまたも吹き出してらっしゃいます。

 お付きの方々も何やらザワザワと……。

 ですが気にしてはいられません。
やる事ができましたもの。

「それでは陛下方、ご機嫌よう」

 正式な礼を取り、にこりと微笑む。

「できるのか。
しかも洗練されてて無駄がない」
「はあ。
貴妃、できるなら初めからなさいませ」
「くっくっ。
後で証文をお持ちしますよ、貴妃」

 さあさあ、各自何かしら言ってらっしゃいますが、そんなのは些末な……。

 はた、と動きを止めて丞相に向き直ります。

「証文はお早めにお願い致しますね、丞相」

 そう、証文だけはきちんとせねばなりません。

 今度こそ、まずは俸禄何名分かが懐に転がってくる事に想いを馳せましょう!

「んっふふ~。
おっ金、お金~、おっ金っ様~」

 喜びの舞を天に向かって奉納です!

「待て、下世話な言葉を吐きながら無駄に上手い舞を舞うでない!
せめて全員いなくなってからにせぬか!
腹が立つ守銭奴娘が!」
「……綺麗な舞ですこと」
「ほう、なかなか」

 舞を褒めて下さるお2人と違って、私の夫はなかなか悪辣ですね。

「お気になさらず~」

 ですが既に礼をもってご挨拶致しましたもの。
外野は無視です、無視。
もちろんお三方の後ろの刺すような視線も同じく無視!

 微笑んでそらへと手を上げては引き寄せる動作を入れておきましょう。
金運は自ら招き入れねばなりません。

「来い来い、金運~」

 タタン、タタン、タタン、と跳ね、からの決め姿勢!

「ふむ、決まりました。
むふふふ、楽しみですね、お金様。
あら、まだいらっしゃいましたか。
それでは皆様ご機嫌よう」

 そのまま先人のいらっしゃる小屋へ戻ります。
相変わらず戸は閉まりませんでしたね。
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