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489.魔王の狙い〜ジルコミアside
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「魔族として生まれて、50年も虐げられて無駄に過ごしたけれど、今から50年前に人界に渡り、50年待ってから結界を張り直せた。
魔族だったのが功を奏したのか、これまでと違って力も失わずにすんだ。
でも……」
そこで1度言葉を止める王女は、更に憎悪を燻らせたように見えた。
「それこそが魔王の狙いだったわ」
狙い……だかさっき複雑そうな顔をしていたのか?
「魔王は私に結界を張り直させる為に、わざと人界に渡らせていた。
それだけじゃない。
私をわざと見逃したくせに、魔界からはぐれた魔族として追放した挙げ句、私が結界を張り直したタイミングで、魔界との繋がりを断った。
そのせいで魔族としての力の大半が消し去られてしまったのよ」
「魔族は魔界との繋がりを断たれると、力を失うのか?」
ベルヌが問う。
そりゃ気になるよな。
もしも魔族がこっち側の世界に攻めて来たらって考えるのは、やっぱり元騎士団長として国を守ってきた性だ。
「ええ。
その権限を持つのが魔王だった。
魔族の中には何かしら断罪されて魔界から追放される者、そして魔王の許可なく自ら人界に赴く魔族がいる。
けれど孤王との不可侵協定が魔王と結ばれている限り、魔王はどちらもはぐれ魔族として認定する。
繋がりを断ち切って、人族に及ぼす影響を最小限に留めるの。
そして時折、思い出したかのように魔王は幹部達に命じて、人界にいるはぐれ魔族を狩らせるわ。
もちろん私のような自ら人界に赴いた魔族を中心にね。
私も結界を張り直す前に、その2人を殺そうとした。
けれどその2人を狙う度、運悪く別のはぐれ魔族を狩りにきていた幹部の1人に見つかりそうになって断念し続けていたの。
その2人からすれば運良く、という事になるのでしょうね」
獲物となっていた2人を見つめる王女は、実に残念そうだ。
「結界を張り直す事を考えても、狩られる危険をあれ以上冒せないと思った私は、ゲドグルとコンタクトを取ったわ。
ゲドグルは50年の間にレプリカをある程度仕上げていた。
もちろん私の助言通り、教皇とマーガレットに取り入り、実験体にしていたみたいね。
魔力を失う前に偶然だったけれど、出会ってゲドグルの才能を見出しておいて良かったわ。
あの時点では、まだ王配とは会えなかった。
これは予想通りね。
けれど王配は人属の寿命分である40年程を生きた後、レプリカを完成させる為という名目でオリジナルの魔具である本をゲドグルに預けていたの。
半分は賭けだったかもしれないけれど、偶然にも私は魔族として人界に渡り、10年後に再びゲドグルから本を受け取れたのだから、次に王配と会ったら褒めてあげようと思ったわ。
これで50年待って結界を張り直した後に魔力を失っても、時間を巻き戻して元の状態まで戻せると考えていたもの」
「だが、それは叶わなかったって事か」
ベルヌが言う通りだ。
王女からは異質さを感じても、畏怖するような魔力の力は感じられない。
「そうよ。
魔具の力を完璧に引き出せたなら、或いは可能だったかもしれない。
けれど魔具には娘と契約している精霊が宿った精霊石が使われていた。
十分な力を引き出せないばかりか、娘以外が使えば、精霊石に宿る精霊が拒絶してしまう。
それでも私が何度か使えたのは、娘の母親だった魂を持っているからのようね。
幾らかの親和性が在ってこそだけれど、魔族となってしまったせいか、質の異なる魔力を流し続けた負荷で、あの魔具を使えるのもせいぜいあと1度が限界。
ああ、父親だった聖騎士には、そもそも使えなかったわ。
私がお腹の中で娘を育んでいた時、娘が得た精霊石だった事が関係しているんじゃないかしら。
身の内で親和性を培ったかどうかね」
「聖騎士、いや、王配とは結局会えず仕舞いか?」
「そうね、王配との繋がりは、結局断ち切られたまま、今も繋がっていない。
魔王が私の魂に干渉して魔族として転生した時、王配との繋がりも断たれたけれど、魔王は王配の魂にまで干渉していない事が救いだったの。
だって転生しても、王配には記憶が残っているはずだから、王配は転生しても私が結界を張り直すタイミングで現れると信じていた。
それくらい女王であり、聖女でもあった私を2度の人生で崇拝してくれていたもの。
なのに王配は……現れなかった。
いえ、結果的にあのタイミングで現れるのは、無理だったと言うべきかしら」
王女はベルヌの問いに、どことなく哀愁を漂わせた?
魔族だったのが功を奏したのか、これまでと違って力も失わずにすんだ。
でも……」
そこで1度言葉を止める王女は、更に憎悪を燻らせたように見えた。
「それこそが魔王の狙いだったわ」
狙い……だかさっき複雑そうな顔をしていたのか?
「魔王は私に結界を張り直させる為に、わざと人界に渡らせていた。
それだけじゃない。
私をわざと見逃したくせに、魔界からはぐれた魔族として追放した挙げ句、私が結界を張り直したタイミングで、魔界との繋がりを断った。
そのせいで魔族としての力の大半が消し去られてしまったのよ」
「魔族は魔界との繋がりを断たれると、力を失うのか?」
ベルヌが問う。
そりゃ気になるよな。
もしも魔族がこっち側の世界に攻めて来たらって考えるのは、やっぱり元騎士団長として国を守ってきた性だ。
「ええ。
その権限を持つのが魔王だった。
魔族の中には何かしら断罪されて魔界から追放される者、そして魔王の許可なく自ら人界に赴く魔族がいる。
けれど孤王との不可侵協定が魔王と結ばれている限り、魔王はどちらもはぐれ魔族として認定する。
繋がりを断ち切って、人族に及ぼす影響を最小限に留めるの。
そして時折、思い出したかのように魔王は幹部達に命じて、人界にいるはぐれ魔族を狩らせるわ。
もちろん私のような自ら人界に赴いた魔族を中心にね。
私も結界を張り直す前に、その2人を殺そうとした。
けれどその2人を狙う度、運悪く別のはぐれ魔族を狩りにきていた幹部の1人に見つかりそうになって断念し続けていたの。
その2人からすれば運良く、という事になるのでしょうね」
獲物となっていた2人を見つめる王女は、実に残念そうだ。
「結界を張り直す事を考えても、狩られる危険をあれ以上冒せないと思った私は、ゲドグルとコンタクトを取ったわ。
ゲドグルは50年の間にレプリカをある程度仕上げていた。
もちろん私の助言通り、教皇とマーガレットに取り入り、実験体にしていたみたいね。
魔力を失う前に偶然だったけれど、出会ってゲドグルの才能を見出しておいて良かったわ。
あの時点では、まだ王配とは会えなかった。
これは予想通りね。
けれど王配は人属の寿命分である40年程を生きた後、レプリカを完成させる為という名目でオリジナルの魔具である本をゲドグルに預けていたの。
半分は賭けだったかもしれないけれど、偶然にも私は魔族として人界に渡り、10年後に再びゲドグルから本を受け取れたのだから、次に王配と会ったら褒めてあげようと思ったわ。
これで50年待って結界を張り直した後に魔力を失っても、時間を巻き戻して元の状態まで戻せると考えていたもの」
「だが、それは叶わなかったって事か」
ベルヌが言う通りだ。
王女からは異質さを感じても、畏怖するような魔力の力は感じられない。
「そうよ。
魔具の力を完璧に引き出せたなら、或いは可能だったかもしれない。
けれど魔具には娘と契約している精霊が宿った精霊石が使われていた。
十分な力を引き出せないばかりか、娘以外が使えば、精霊石に宿る精霊が拒絶してしまう。
それでも私が何度か使えたのは、娘の母親だった魂を持っているからのようね。
幾らかの親和性が在ってこそだけれど、魔族となってしまったせいか、質の異なる魔力を流し続けた負荷で、あの魔具を使えるのもせいぜいあと1度が限界。
ああ、父親だった聖騎士には、そもそも使えなかったわ。
私がお腹の中で娘を育んでいた時、娘が得た精霊石だった事が関係しているんじゃないかしら。
身の内で親和性を培ったかどうかね」
「聖騎士、いや、王配とは結局会えず仕舞いか?」
「そうね、王配との繋がりは、結局断ち切られたまま、今も繋がっていない。
魔王が私の魂に干渉して魔族として転生した時、王配との繋がりも断たれたけれど、魔王は王配の魂にまで干渉していない事が救いだったの。
だって転生しても、王配には記憶が残っているはずだから、王配は転生しても私が結界を張り直すタイミングで現れると信じていた。
それくらい女王であり、聖女でもあった私を2度の人生で崇拝してくれていたもの。
なのに王配は……現れなかった。
いえ、結果的にあのタイミングで現れるのは、無理だったと言うべきかしら」
王女はベルヌの問いに、どことなく哀愁を漂わせた?
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