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487.2人の魔力不保持者〜ジルコミアside
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「アドライド国のグレインビル侯爵令嬢が、至上3人目の魔力不保持者だと知っているわよね?」
「どういう事だ」
ベルヌは嬢ちゃんを気に入っているからか、眉間に皺を深く刻んで聞き返す。
「まず1人目は女王だった私。
膨大な魔力と引き換えに結界を張って力尽きた。
生まれて1年しない娘を閉じこめて生を終えたわ。
2人目は200年前の聖女だった私。
結界を張り直した。
女王だった頃より魔力が劣るものの、最初にあった結界をベースにしたから魔力と引き換えに張り直せたわ。
あの時もまだ瘴気は半分程度残っていたから、私が張り直さなければ流出して、再び魔獣集団暴走が世界的に起こっていたでしょうね。
娘が生きているのはわかっていたのよ」
「獣人か魔人属だったのか?」
「いいえ、人属よ。
女王だった私もね。
ただ成長が遅れて若さを保てるくらいに膨大な魔力を持っていた。
魔力が多い者は人属でも長生きするでしょう。
グレインビル侯爵も見た目は若いじゃない。
世界を統べる女王とその娘だもの。
本来なら獣人並みには生きられる」
そんな事は初耳だったが、ヘルト=グレインビルとは仕事仲間として共に動いた時もあった。
あの頃から外見は、大して変わってなかったな。
「特に娘は時間を操れる魔具を持っていたんだもの。
自分の時間を止めて、生命維持を優先させていたわ」
「何でそんな事を知ってる?
結界に閉じこめていたんだろう。
まるで見たかのような言い草だ」
ベルヌの言葉に、王女は可笑しそうに笑った。
「ふふふ、だって見たもの。
この2人が私の眼を抉り出した後の話だから、認知した、が正しいかしら。
マーガレットが欲深く狙っていた聖騎士は、王配の生まれ変わりだったわ。
彼はそこの2人の策略にはまって、一時的に私から離れていたけれど、私が目を抉り出された直後に助けにきた。
私を救い出して、私が指示した通り結界の中へ入れてくれたのよ。
結界は張り直したばかりで、張ったのは私だった。
それもあったのと、全ての魔力を失っていたからこそ結界に弾かれずに中に入れた。
結界の張り直しで1番優先したのは、魔力のある何かの出入りを禁じる事だったから、できたのね。
もちろん聖騎士は入れずに弾かれてしまったのは残念だったけれど。
瘴気がどれくらい残っていたかも、その時に直接感じたのよ。
中の構造は良く知っているから、視界が真っ暗でも中に入れた。
幸い女王だった時、私は自分の魂を鍵として魔法に組みこんでいたから、娘を閉じこめていた部屋にも入れた。
そして眠りについていたあの子が抱えていた魔具を取り上げた。
そして眠りについたまま死んでいく、あの子には不要な両眼の存在を思い出した。
あの子の目は精霊眼という、魔眼よりもずっと貴重な瞳だったの。
だから片目を抉ったのに、邪魔が入ってしまった。
結局、私が手に入れたのは時間を操る魔具だけだったのは残念ね」
「最っ低な母親だな」
ベルヌが胸糞悪そうに吐き捨てたが、私も同じだよ。
無表情を保つのが難しいくらいだ。
自分も眼を抉られて痛い思いをしたくせに、その痛みを赤子に、それも100年も閉じこめて魔力を無理矢理奪った挙げ句に……母親として以前に、道徳心てもんがねえのかよ。
「娘は眠っていたんだし、眼がなくとも生きられるわ。
それにあと数百年で瘴気もなくなりそうだったから、魔具を失って止めていた成長が始まっても問題なかったもの。
何より娘の魔力は100年経っても大して減っていなかった。
どこまでの知能が備わっていたのかはわからないけれど、より効率的に瘴気を浄化する方法を見出したんでしょうね。
十分に浄化するのに耐えられるのが……」
「邪魔が入ったってのは?」
これ以上聞きたくなかったのか、ベルヌが苛ついた様子で王女の話を遮る。
しかし王女は呆れたような目をベルヌに向けた。
「順を追って説明してあげるから、待ちなさいな。
邪魔が入った後、魔具を持って命からがら逃れて、最後の力を振り絞った私は、ゲドグルにレプリカの作成を依頼したわ。
弱っている事を悟られないようにしてね。
そしてそこの2人で実験しろと伝えて、王配の生まれ変わりに自分を殺させた。
オリジナルとなる魔具は、100年後に転生して合流するまで王配が持つよう命じてね」
「どうしてその2人を?」
ベルヌは話の流れを邪魔しない程度に、間で問う。
王女はその質問を密かに待っていたのか、顔を愉悦に歪ませた。
「どういう事だ」
ベルヌは嬢ちゃんを気に入っているからか、眉間に皺を深く刻んで聞き返す。
「まず1人目は女王だった私。
膨大な魔力と引き換えに結界を張って力尽きた。
生まれて1年しない娘を閉じこめて生を終えたわ。
2人目は200年前の聖女だった私。
結界を張り直した。
女王だった頃より魔力が劣るものの、最初にあった結界をベースにしたから魔力と引き換えに張り直せたわ。
あの時もまだ瘴気は半分程度残っていたから、私が張り直さなければ流出して、再び魔獣集団暴走が世界的に起こっていたでしょうね。
娘が生きているのはわかっていたのよ」
「獣人か魔人属だったのか?」
「いいえ、人属よ。
女王だった私もね。
ただ成長が遅れて若さを保てるくらいに膨大な魔力を持っていた。
魔力が多い者は人属でも長生きするでしょう。
グレインビル侯爵も見た目は若いじゃない。
世界を統べる女王とその娘だもの。
本来なら獣人並みには生きられる」
そんな事は初耳だったが、ヘルト=グレインビルとは仕事仲間として共に動いた時もあった。
あの頃から外見は、大して変わってなかったな。
「特に娘は時間を操れる魔具を持っていたんだもの。
自分の時間を止めて、生命維持を優先させていたわ」
「何でそんな事を知ってる?
結界に閉じこめていたんだろう。
まるで見たかのような言い草だ」
ベルヌの言葉に、王女は可笑しそうに笑った。
「ふふふ、だって見たもの。
この2人が私の眼を抉り出した後の話だから、認知した、が正しいかしら。
マーガレットが欲深く狙っていた聖騎士は、王配の生まれ変わりだったわ。
彼はそこの2人の策略にはまって、一時的に私から離れていたけれど、私が目を抉り出された直後に助けにきた。
私を救い出して、私が指示した通り結界の中へ入れてくれたのよ。
結界は張り直したばかりで、張ったのは私だった。
それもあったのと、全ての魔力を失っていたからこそ結界に弾かれずに中に入れた。
結界の張り直しで1番優先したのは、魔力のある何かの出入りを禁じる事だったから、できたのね。
もちろん聖騎士は入れずに弾かれてしまったのは残念だったけれど。
瘴気がどれくらい残っていたかも、その時に直接感じたのよ。
中の構造は良く知っているから、視界が真っ暗でも中に入れた。
幸い女王だった時、私は自分の魂を鍵として魔法に組みこんでいたから、娘を閉じこめていた部屋にも入れた。
そして眠りについていたあの子が抱えていた魔具を取り上げた。
そして眠りについたまま死んでいく、あの子には不要な両眼の存在を思い出した。
あの子の目は精霊眼という、魔眼よりもずっと貴重な瞳だったの。
だから片目を抉ったのに、邪魔が入ってしまった。
結局、私が手に入れたのは時間を操る魔具だけだったのは残念ね」
「最っ低な母親だな」
ベルヌが胸糞悪そうに吐き捨てたが、私も同じだよ。
無表情を保つのが難しいくらいだ。
自分も眼を抉られて痛い思いをしたくせに、その痛みを赤子に、それも100年も閉じこめて魔力を無理矢理奪った挙げ句に……母親として以前に、道徳心てもんがねえのかよ。
「娘は眠っていたんだし、眼がなくとも生きられるわ。
それにあと数百年で瘴気もなくなりそうだったから、魔具を失って止めていた成長が始まっても問題なかったもの。
何より娘の魔力は100年経っても大して減っていなかった。
どこまでの知能が備わっていたのかはわからないけれど、より効率的に瘴気を浄化する方法を見出したんでしょうね。
十分に浄化するのに耐えられるのが……」
「邪魔が入ったってのは?」
これ以上聞きたくなかったのか、ベルヌが苛ついた様子で王女の話を遮る。
しかし王女は呆れたような目をベルヌに向けた。
「順を追って説明してあげるから、待ちなさいな。
邪魔が入った後、魔具を持って命からがら逃れて、最後の力を振り絞った私は、ゲドグルにレプリカの作成を依頼したわ。
弱っている事を悟られないようにしてね。
そしてそこの2人で実験しろと伝えて、王配の生まれ変わりに自分を殺させた。
オリジナルとなる魔具は、100年後に転生して合流するまで王配が持つよう命じてね」
「どうしてその2人を?」
ベルヌは話の流れを邪魔しない程度に、間で問う。
王女はその質問を密かに待っていたのか、顔を愉悦に歪ませた。
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