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482.200年前〜ジルコミアside
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「ジルコ、ベルヌの事を今は気にしなくて良いのよ。
そう、可愛い子」
女王が私に向ける言葉が、放たれる何かが己の意志を霧散させる。
女王の言う通りにすれば、私はもちろん万人が幸せになるのだと信じられる。
「ベルヌも静かにね。
話が進まないわ。
それで……そう、孤王がもたらす変革がどの程度のものかは、本来古王にもわからないの。
だって孤王が変革をもたらした後に次の世代の古王が生まれ、孤王の力を世界に定着させるから。
けれど私は違った。
先代の孤王が生み出した最後の古王だったのも、影響していたのかもしれない。
或いは次代となる孤王をこの世に生み落とす役割を担っていたのが私だったからかもしれないわ」
「それで、どの程度だったんだ」
ベルヌが不快そうに口を挟む。
「私もこれまでの孤王を知っているわけではないけれど、きっと過去最強よ。
せっかく安定しているこの世界の価値観を、魔法が無くても発展できるよう完全に壊して、塗り替えられるくらいのね。
お腹の中で人としての形となる前から、世界を統べる女王にして、古王でもある私に畏敬の念を抱かせるほどに、強大で恐ろしかった」
途端、女王の表情は憂いを帯びる。
「もちろん可哀想だと同情もしたわ。
それでも私は自分が安定させた世界の崩壊だけは、女王として認められない」
「装置とやらに自分の子供を取りこむような母親が何を言ってる」
ベルヌは何故そんな事も理解できないんだ?
全ては安定した女王の世界の為……本当に?
女王のエゴでは……いや、違う。
打ち消し合い、または合い反する奇妙な葛藤が少しずつ大きくなる。
「だから私も自分を装置の一部のように使ったんじゃない。
孤王であるあの子の力を、あの子の代わりに使いながら力を消滅させる。
その責任を取り、100年毎に全ての魔力を使いきって死ぬ事を選んだ。
私を崇拝する王配だった男には、全ての事がもっと早く風化するよう、当時の時点で200年程前の出来事になるよう情報操作した。
つまり私達が生きている現在から500年以上前に起こった事として有耶無耶にさせた」
「だが寿命が300年以上ある魔人属や、200年はある獣人属なら、そんな操作には気づくんじゃねえのか」
「そうよ。
だから魔人属の大半や、当時の王都近くに住む全ての獣人属、そして王都以外に住む若くて後に情報操作を邪魔しそうな獣人属は、ほぼ死に絶えるように仕向けたの。
彼らを王都に呼び寄せ、孤王ごと封鎖して巨大な魔具とする事でね」
「500年前……まさか俺達ががアドライド国を離反する理由は……お前が見せたあの裏切りの光景は……」
私とベルヌの見た500年前の裏切りの光景……シルヴァイト=ルーベンスの祖父と、アドライド国の王妃の祖先が手を組み、私の祖父を筆頭とした戦士を惨殺した、あの光景……。
「最後まで聞いて判断しないと、また真実を見失うわよ?」
「…………話せ」
また?
ギリギリと歯噛みして女王を睨みつけるベルヌに、女王は涼やかな声で告げる。
……もしかして私も何か見失って……いや、あり得ない。
私は女王を信頼している。
「そして300年前、私は装置を起動して生命と魔力の全てを使い、王都の中心を結界で閉じこめて1度死んだ。
同じ事を100年毎に、3度繰り返す必要はあったけれど、それだけ時間をかけないと孤王は死んでくれないし、私が安定させてきた世界の為ですもの。
仕方ないと自分を納得させたわ」
女王は当時を思い出したのか、女王の崇高な理想郷に思いを馳せて、陶酔した表情でベルヌの方へ視線を向ける。
「それから100年後。
今からなら200年前になるわ。
生まれ変わった私は、王配が本当に歴史から事実を消し去った事を確認し、聖女としてこの教会に入った」
女王は牢の中で未だベルヌに押さえつけられる教皇と、座りこむマーガレットを冷たく見やる。
2人は同時にビクリと体を揺らせ、目に見えて冷や汗をかきながら、怯えた眼差しを女王に向けた。
「あの時はグレインビル領にほど近い場所に転生したわ。
女王として死ぬ前に自らにかけた魔法で、転生前の記憶も全てあった。
予想通りとはいえ、魔力量が女王だった頃の半分もなかったのはガッカリしたけれど、歴史も王配と示し合わせていた通りに改編されていたから、良しと思えた」
女王は口調も表情も朗らかながら、怯える二対の視線と交錯させる瞳には、どこか憎しみが宿っていると感じた。
そう、可愛い子」
女王が私に向ける言葉が、放たれる何かが己の意志を霧散させる。
女王の言う通りにすれば、私はもちろん万人が幸せになるのだと信じられる。
「ベルヌも静かにね。
話が進まないわ。
それで……そう、孤王がもたらす変革がどの程度のものかは、本来古王にもわからないの。
だって孤王が変革をもたらした後に次の世代の古王が生まれ、孤王の力を世界に定着させるから。
けれど私は違った。
先代の孤王が生み出した最後の古王だったのも、影響していたのかもしれない。
或いは次代となる孤王をこの世に生み落とす役割を担っていたのが私だったからかもしれないわ」
「それで、どの程度だったんだ」
ベルヌが不快そうに口を挟む。
「私もこれまでの孤王を知っているわけではないけれど、きっと過去最強よ。
せっかく安定しているこの世界の価値観を、魔法が無くても発展できるよう完全に壊して、塗り替えられるくらいのね。
お腹の中で人としての形となる前から、世界を統べる女王にして、古王でもある私に畏敬の念を抱かせるほどに、強大で恐ろしかった」
途端、女王の表情は憂いを帯びる。
「もちろん可哀想だと同情もしたわ。
それでも私は自分が安定させた世界の崩壊だけは、女王として認められない」
「装置とやらに自分の子供を取りこむような母親が何を言ってる」
ベルヌは何故そんな事も理解できないんだ?
全ては安定した女王の世界の為……本当に?
女王のエゴでは……いや、違う。
打ち消し合い、または合い反する奇妙な葛藤が少しずつ大きくなる。
「だから私も自分を装置の一部のように使ったんじゃない。
孤王であるあの子の力を、あの子の代わりに使いながら力を消滅させる。
その責任を取り、100年毎に全ての魔力を使いきって死ぬ事を選んだ。
私を崇拝する王配だった男には、全ての事がもっと早く風化するよう、当時の時点で200年程前の出来事になるよう情報操作した。
つまり私達が生きている現在から500年以上前に起こった事として有耶無耶にさせた」
「だが寿命が300年以上ある魔人属や、200年はある獣人属なら、そんな操作には気づくんじゃねえのか」
「そうよ。
だから魔人属の大半や、当時の王都近くに住む全ての獣人属、そして王都以外に住む若くて後に情報操作を邪魔しそうな獣人属は、ほぼ死に絶えるように仕向けたの。
彼らを王都に呼び寄せ、孤王ごと封鎖して巨大な魔具とする事でね」
「500年前……まさか俺達ががアドライド国を離反する理由は……お前が見せたあの裏切りの光景は……」
私とベルヌの見た500年前の裏切りの光景……シルヴァイト=ルーベンスの祖父と、アドライド国の王妃の祖先が手を組み、私の祖父を筆頭とした戦士を惨殺した、あの光景……。
「最後まで聞いて判断しないと、また真実を見失うわよ?」
「…………話せ」
また?
ギリギリと歯噛みして女王を睨みつけるベルヌに、女王は涼やかな声で告げる。
……もしかして私も何か見失って……いや、あり得ない。
私は女王を信頼している。
「そして300年前、私は装置を起動して生命と魔力の全てを使い、王都の中心を結界で閉じこめて1度死んだ。
同じ事を100年毎に、3度繰り返す必要はあったけれど、それだけ時間をかけないと孤王は死んでくれないし、私が安定させてきた世界の為ですもの。
仕方ないと自分を納得させたわ」
女王は当時を思い出したのか、女王の崇高な理想郷に思いを馳せて、陶酔した表情でベルヌの方へ視線を向ける。
「それから100年後。
今からなら200年前になるわ。
生まれ変わった私は、王配が本当に歴史から事実を消し去った事を確認し、聖女としてこの教会に入った」
女王は牢の中で未だベルヌに押さえつけられる教皇と、座りこむマーガレットを冷たく見やる。
2人は同時にビクリと体を揺らせ、目に見えて冷や汗をかきながら、怯えた眼差しを女王に向けた。
「あの時はグレインビル領にほど近い場所に転生したわ。
女王として死ぬ前に自らにかけた魔法で、転生前の記憶も全てあった。
予想通りとはいえ、魔力量が女王だった頃の半分もなかったのはガッカリしたけれど、歴史も王配と示し合わせていた通りに改編されていたから、良しと思えた」
女王は口調も表情も朗らかながら、怯える二対の視線と交錯させる瞳には、どこか憎しみが宿っていると感じた。
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