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481.王配と神と魔族〜ジルコミアside

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「当時の私には、私を崇拝してくれる王配がいた。
顔も良くて機転も利いてね。
誰よりも私を優先してくれる、素敵な王配だったわ」

 当時を思い出しているのか、女王は陶酔した表情を見せる。

「その方法を見つけてくれたのも王配。
あの人はね、自分の魂を私の魂と紐づけ、転生しても生前の記憶を残す方法を提案してくれたの。
そうすれば幾らか離れた場所で転生していても、必ず私を見つけて保護できる立ち位置で生まれる事ができる。
もちろん紐づける強さは考えなければならないから、幾らか実験もしたわ」
「……実験」

 ベルヌの警戒した言葉に、女王は1度大きく頷いてから続ける。

「ええ。
その実験の過程で不純物が生じてしまったのは、予想外だった。
処分するのも骨が折れるし、手を焼いたわ。
けれどそれも含めて孤王に押しつける事ができると気づいてからは、実験も捗ったの。
ひとまず孤王が生まれるまでは結界を張って、外に出ないようにすれば良かったもの」
「ゲドが聞いたら憤慨しそうだな。
アイツは魔法狂いだが、実験で生じた後始末はちゃんと自分の責任として自分で処理していた」
「だってある意味、孤王のせいで発生したのよ?
誕生したら自分で処理してもらうのは当然ではない?」
「チッ、話すだけ無駄だな。
それで?
大体、それだと孤王が生まれる前から計画して、実験もしてたって話になるだろう。
孤王っつう存在のせいにすんのには、無理があるんだよ」
「そうね。
正確には世に誕生する前。
つまり私の腹に宿る少し前から方法を探していたの」
「おい、それじゃあ孤王はお前の子供って事か?
だったらお前は自分の子供に……」

 ゲドの表情がどんどん険しくなっていく。
私の女王に何とも不敬だ。

 思わずベルヌを睨みつける。

「関係ないわ。
私は世界を統べる女王だったの。
私の存在をおびやかせば、世界が不安定になるのだから仕方のない犠牲よ。
それに私も当初は自分が孤王を生むだなんて考えていなかったの。
ただ孤王は千年周期生まれる事が決まっているし、それは今も同じよ」
「千年周期だと?」

 ベルヌは更に

「そう、それがこの世界を創り出した神との約束。
古王として完全に覚醒したその時、古王は神との約束を知らされる。
孤王は約千年毎に現れ、世の中に何かしらの変革をもたらす。
そして魔族の住む魔界との境界を、次代の孤王はどの程度のものにするか選択する権限を持つ、とね」
「魔族……魔界?
本当に存在すると?」

 ベルヌが信じられないといった様子で女王を見やる。

 魔族や魔界の存在……それに神……初耳だ。
いや、魔族がいる魔界が存在する話も、寝物語程度には知られている。
この世界には宗教が存在し、同時に神と名のつく存在も数多あまた在る。

 けど魔界の境界なんて話は聞いた事がない。
何より人族の住むこの世界にどうやって魔族が入りこむのか、そもそも魔族などが存在している事も確かではない。

 魔力が豊富な魔人属は、あまりにも長命だ。
だから魔族と呼んで、人族から隔離しようとしたのではないかとの説まである。
その最たるが魔王という単語。

 アリアチェリーナ=グレインビルの養父が、人属でありながら魔王と呼ばれているのも、魔族がいない事が前提。
単に畏怖の象徴として認識されているからだ。

 なのに……神や魔族、魔界も実在していた?
いや、そもそも何故そんな言葉が昔から在るのに、その対象が無いと認識しているのは、どうし……。

「っぐ……」
「ジルコ?!」

 あの白銀の髪の令嬢を思い出しながら考えに没頭していれば、不意に頭を鈍器で殴られたような痛みを感じる。
うっかり呻いて頭を抑えた私に、相変わらず牢の中で教皇を抑えて動けずにいるベルヌが、慌てたように声をかけてくる。

「ふうん……効きが悪い?
……大丈夫よ、ジルコミア。
私の目を見て?
そうよ。
ほら、もう平気でしょ?」

 女王が私を思案するように見た後、私の頬を両手で包んだ。
効きが悪いとは、どういう……。

 言われた通りに瞳を見れば、思考が止まる。
吸いこまれそうな感覚と共に痛みが引き、何の衝動もないはずなのに、心が奇妙にも満たされたように感じてくる。

「ああ……はい、私の……麗しき女王」
「ジルコ……くそっ」

 ベルヌが私の名を呟くが、すぐに言葉を吐き捨てる。
どことなく悔恨の響きを含んでいるように感じたが、今はそんな事はどうでも良かった。
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