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457.最期から2番目〜ティキーside
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(そんなどうでもいい事で、僕が怒る事はない。
僕が怒るとすれば、それは僕が執着する者を誰かが害そうとした時だけだ)
強烈な痛みと苦しみの中、思い出すのはあの美しい獣人。
(知らなかったの!
ごめんなさい!
知っていたら、やらなかった!
だから、だから見捨てないで!
痛いの!
苦しいの!)
慌てて縋りつく。
もちろん今は意識の中の話だけれど。
(もう遅い。
僕の義兄様を君は意図的に傷つけようとしておいて、知らなかったで済ませるって思う?
都合のいい事、言われても知らないな)
その言葉に、ハッとする。
(だったら違う!
あの人は、女の人だった!
孤王が誰であっても、お兄さんじゃないもの!)
誤解を解けば、助けてもらえる。
私を今の状況から救ってくれるのは、この思念の主だけだと、本能が囁くままに叫ぶ。
もし見捨てられたら……そう考えて、どうしてかゾッとした。
怖い……ひょっとして私……消えてしまう?
(君、本当に不愉快だよ。
その人が僕の大事な人じゃなければ、君のした事は正当化されるって思っている?
君が愛している、大事だと言ってたコッヘル=ネルシスへを救いたい気持ち。
今君が感じている苦痛から逃げたい気持ち。
それを天秤にかけて、どちらに傾いたって、そんなものはどちらでもいい。
けれど君自身がしなかったくせに、それを他人のせいにしただけに留まらず、殺意を行動に移して自分の気持ちを消化させて良い理由にはならない)
(それは……)
図星だった。
見透かされた自分の本性が醜悪過ぎて、何も言い返す事ができない。
(それでも助けて欲しいの!
救って欲しいの!
つらい!
痛い!苦しい!
お願い、お願いします!)
それでも縋るのを止められない。
(まあ上手く孵化してくれたら、とは思わなくはなかったんだけど……期待通りにはいかないのが現実か)
どこか諦めたような、見放されたような口調に、焦りが募る。
苛立ちも……。
もちろん暴言なんて吐けないけれど……。
(まあ、コッヘル=ネルシスはわからないけど、今命を落としても、君の魂はまた生まれ変わるから次の生に……いや、それも無理か)
その言葉に、もし夢でなかったなら、冷たい汗が流れていたと思う。
孤王は……私が死んだ後の話を……しているの?
(君の中に入りこんだ、前任の孤王の粒子。
それ、ちょっと手を加えられているみたいなんだ。
多分、あの盗人がコッヘル=ネルシスを使ってある種の実験をしたんだろうね)
(つ、まり?)
(君が孵化しないまま、体に入れてしまった以上、それは君の魂を腐敗させ、駆逐する。
つまり本来なら古王として目覚めるまで、魂は何度でも転生する予定だったのに、消失する)
なに、それ?
本当に?
私はまた生まれ変わって、何度でもやり直せたのに?
終わるの?
(君はどこかで本能的に、またやり直せるって、人生舐めていたでしょう?
古王によくあるんだ。
それがわかっているから、好きにやって、駄目ならまた次がある、何度でもやり直せるって思ってる奴が。
盗人もそう。
だから終わりを目前にすると、現実を受け入れられなくなって、無駄な足掻きをして、事態を面倒にする。
でも今は僕の代だからね。
君は僕の代の古王の卵だった。
だからちゃんと孵化すれば、そんな粒子は魂が消化吸収して、逆に力に変えられたのに。
何度もチャンスをあげたんだよ?
救わなかったのは自分なのに、他人のせいにした挙げ句に孵化せず、中で腐った。
これじゃあ救いようがないでしょう)
くすりと嗤われて……けれど、その通りで……え、私、本当に?
恐怖が胸を駆け巡り、肉体の感じている苦痛を凌駕する。
(いやー!
助けて、助けて、助けてぇ!!
消えたくない!
そんなの認められない!
選ばれた魂なのに、こんなのあり得ない!)
(死刑宣告受けたようなものだから、パニックになるのも解るけど、どうしたって、次はない。
自ら不意にしちゃったんだから、どうしようもないよ)
孤王の言う事は正しいと本能が認める。
でも感情は認められない!
(人を呪わば穴2つ、だよ。
ああ、自業自得、因果応報とか、そんな意味。
でも僕は優しいから、最期まで観ていてあげる。
いい?
僕の言葉。
肝に銘じて、絶対忘れないようにするんだ。
これが僕の最期から2番目の、温情だ)
孤王の思念が遠ざかって行く。
(待って……)
僕が怒るとすれば、それは僕が執着する者を誰かが害そうとした時だけだ)
強烈な痛みと苦しみの中、思い出すのはあの美しい獣人。
(知らなかったの!
ごめんなさい!
知っていたら、やらなかった!
だから、だから見捨てないで!
痛いの!
苦しいの!)
慌てて縋りつく。
もちろん今は意識の中の話だけれど。
(もう遅い。
僕の義兄様を君は意図的に傷つけようとしておいて、知らなかったで済ませるって思う?
都合のいい事、言われても知らないな)
その言葉に、ハッとする。
(だったら違う!
あの人は、女の人だった!
孤王が誰であっても、お兄さんじゃないもの!)
誤解を解けば、助けてもらえる。
私を今の状況から救ってくれるのは、この思念の主だけだと、本能が囁くままに叫ぶ。
もし見捨てられたら……そう考えて、どうしてかゾッとした。
怖い……ひょっとして私……消えてしまう?
(君、本当に不愉快だよ。
その人が僕の大事な人じゃなければ、君のした事は正当化されるって思っている?
君が愛している、大事だと言ってたコッヘル=ネルシスへを救いたい気持ち。
今君が感じている苦痛から逃げたい気持ち。
それを天秤にかけて、どちらに傾いたって、そんなものはどちらでもいい。
けれど君自身がしなかったくせに、それを他人のせいにしただけに留まらず、殺意を行動に移して自分の気持ちを消化させて良い理由にはならない)
(それは……)
図星だった。
見透かされた自分の本性が醜悪過ぎて、何も言い返す事ができない。
(それでも助けて欲しいの!
救って欲しいの!
つらい!
痛い!苦しい!
お願い、お願いします!)
それでも縋るのを止められない。
(まあ上手く孵化してくれたら、とは思わなくはなかったんだけど……期待通りにはいかないのが現実か)
どこか諦めたような、見放されたような口調に、焦りが募る。
苛立ちも……。
もちろん暴言なんて吐けないけれど……。
(まあ、コッヘル=ネルシスはわからないけど、今命を落としても、君の魂はまた生まれ変わるから次の生に……いや、それも無理か)
その言葉に、もし夢でなかったなら、冷たい汗が流れていたと思う。
孤王は……私が死んだ後の話を……しているの?
(君の中に入りこんだ、前任の孤王の粒子。
それ、ちょっと手を加えられているみたいなんだ。
多分、あの盗人がコッヘル=ネルシスを使ってある種の実験をしたんだろうね)
(つ、まり?)
(君が孵化しないまま、体に入れてしまった以上、それは君の魂を腐敗させ、駆逐する。
つまり本来なら古王として目覚めるまで、魂は何度でも転生する予定だったのに、消失する)
なに、それ?
本当に?
私はまた生まれ変わって、何度でもやり直せたのに?
終わるの?
(君はどこかで本能的に、またやり直せるって、人生舐めていたでしょう?
古王によくあるんだ。
それがわかっているから、好きにやって、駄目ならまた次がある、何度でもやり直せるって思ってる奴が。
盗人もそう。
だから終わりを目前にすると、現実を受け入れられなくなって、無駄な足掻きをして、事態を面倒にする。
でも今は僕の代だからね。
君は僕の代の古王の卵だった。
だからちゃんと孵化すれば、そんな粒子は魂が消化吸収して、逆に力に変えられたのに。
何度もチャンスをあげたんだよ?
救わなかったのは自分なのに、他人のせいにした挙げ句に孵化せず、中で腐った。
これじゃあ救いようがないでしょう)
くすりと嗤われて……けれど、その通りで……え、私、本当に?
恐怖が胸を駆け巡り、肉体の感じている苦痛を凌駕する。
(いやー!
助けて、助けて、助けてぇ!!
消えたくない!
そんなの認められない!
選ばれた魂なのに、こんなのあり得ない!)
(死刑宣告受けたようなものだから、パニックになるのも解るけど、どうしたって、次はない。
自ら不意にしちゃったんだから、どうしようもないよ)
孤王の言う事は正しいと本能が認める。
でも感情は認められない!
(人を呪わば穴2つ、だよ。
ああ、自業自得、因果応報とか、そんな意味。
でも僕は優しいから、最期まで観ていてあげる。
いい?
僕の言葉。
肝に銘じて、絶対忘れないようにするんだ。
これが僕の最期から2番目の、温情だ)
孤王の思念が遠ざかって行く。
(待って……)
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