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413.職務怠慢な魔王

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「僕を呼んだのはあのエセ教皇でも、この国の側室でもない。
あの盗人が、かつて僕を産んだだけだったアレが、僕をここへ呼んだんだろうね」

 話した限り、あの教皇も上位神官達も、それに見合う教育は受けていない。
ただ権力にしがみついているだけで、何も考えていない。
恐らく権力を中途半端に与えられた傀儡に過ぎない。

「間違いなく、あの盗人は僕に的を絞って動いている。
そして何らかの理由で焦っているんじゃないかな。
随分と強引だもの。
だからベルヌも動いているように感じるんだ。
それが何かしらの弱みを握られての行動なのか、それとも自発的なものなのかはわからないけれど」

 少なくとも僕は他の誘拐犯2人に会っていない。

 僕の体質に興味津々で、血とを所望するような変態狂魔法学者マッドウィザードがこんなに大人しいのも気になる。

「そうである以上、もう引き返せない。
フェルも気づいているでしょう?
この国には権力に群がって足の引っ張り合いをする人間ばかりだ。
特に教会は腐敗しきっていて、中身の伴う人間がいない。
この国の王族がどうかまではまだわからないけれど、統治という側面からは不十分で弱い。
この国は教会も含めて、今では烏合の衆でしかないんだ」
「そうよ。
だからあの女に、悪魔につけ入られて、状況を更に面倒にされたわ」

 フェルが申し訳無さそうに目を伏せる。

「僕のお願いでこの国に残ってくれていたフェルが、この国を離れてすぐだね。
あの女は、隙を突いて動いた。
本当は、フェルが自分から進んでこの国を離れたんじゃないんでしょう。
フェル達精霊王は、僕を生かす為に、本来の力を封じてしまったから。
それにこの国の信仰心があまりに排他的すぎて、妖精としてのフェルの存在を弱らせた」
「……ええ。
ごめんなさい、アリー」

 あまりに落ちこんだ声を出すから、僕を抱きしめる腕と、密着する胸の隙間から顔と腕を出す。

 そのまま再びほっぺを両手で挟んで、目を合わせる。

「フェルが気にする事じゃない。
言ったでしょう?
僕は小さな偶然と奇跡が重なって、生きてるんだって。
あの時フェルが動いてくれなかったら、僕は間違いなく死んでたよ。
それに僕の選択がいくら気に食わなかったからって、大概、仕事をしてないも悪いんだから。
あの女が半端な魔族として産まれた時点で、放っておいたのは、彼なりに僕を生かす為だったのは、きっと本当。
でもそれから後は、人との古の盟約をまともに守っていないんだから、職務怠慢もいいところだ」

 右眼の魔眼に怒ってるんだぞと、意識を向ける。

 ややもして、僅かな熱を感じた。
伝わったみたいだ。

「そうね。
あの女がアリーの本来の眼を手にしなかったのは何よりだけれど、だからって、あなた達で交換するなんて」

 そう言いながら、フェルが僕の頬に片手を添えて魔眼がある右の瞼にキスを1つ落とす。

「あの女があの神殿で赤子だったアリーの精霊眼を抉り出したと聞いた時は、制約の罰を受けても干渉して、殺してやろうかと思ったんだから」

 申し訳なさ気なお顔が、凍える殺気を帯びたお顔に変わったぞ。

 本来は精霊眼だった僕の右目。
それが魔眼に変わった理由をフェル達が知ったのは、僕が喋れるようになってからだ。

「フェル、もう済んだ事だよ」

 挟んだ両手に少しだけ力を入れて、僕に意識を向けさせた。
何か反論しそうだから、先に僕が言葉を発する。

「それでも魔眼になったから、生きるのに少し助かっているんだ。
この世界の、それぞれのにいる僕と彼が、離れていても繋がっているのは、それはそれでプライベートが侵害されてるみたいで、ちょっと嫌だけどね」
「ふん、年頃の女子を覗き見するなんて、悪趣味なんだから」

 僕が年頃かどうかはこの際置いておくとして、女子2人でふんふんと頷き合う。

 それとなく熱を持つ魔眼は、何か反論しているのかな。
もちろん今は無視だ。

 けれど彼には感謝もしている。
彼が無理矢理にでもあの時現れたからこそ、盗人は僕の眼までは奪えなかったんだから。


※※後書き※※
いつもご覧頂きありがとうございます。

実は前々からアリーはずっと魔王の事を口にしていたんですが、あの時のアレかと思われた方、正解です(*´艸`*)
お気づきでない方は、義父様が魔王と揶揄されている時のアリーの反応を見ていただけるとわかるかと思います……多分。
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