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410.不躾な平民

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「平民と申されたか?」
「違いまして?」

 ヒタリと僕に凍えた目を向ける教皇に、微笑みながら問い返せば、ピリリとした空気が……。

「まだ言うか!」
「この罰当たり!」

 ああ、本当にそろそろ鬱陶しいし、見苦しいね。
上位神官だと言い張るなら、もっと落ち着くべきではないかな?
もうこの2人は自称神官でいいか。
ベルヌが押さえてはいるけれど、ちょっとイラッてしちゃうよ。

「ベルヌ、立場をわきまえない、その煩い平民達を追い出しなさい。
平民達がもし、他国の貴族であるわたくしに魔法も含め、これ以上の暴言はもちろん、何かしらの攻撃を行うようなら、その兆候を見せた時点で斬り殺す許可を与えます。
もちろん護衛であるお前に抵抗する場合も、同義としてかまいません」
「「な?!」」

 冷たく微笑んであげながら伝えれば、中年の男女は青くなって絶句した。
今更だ。
本来なら、僕に不躾な顔を見せた時点で退室させても良かったんだ。

 そしてそれに気づいていた目の前の、社会科の教科書で見た宣教師に激似な教皇がそれをすべきだった。
逆にそれをせず、暴言を許し続けた時点で、責任者だという教皇諸共追い出しても問題無かったんだよ。

 僕から退室?
する必要、ある?
気に入らなければ口先だけで相手を動かす。
それが本来貴族の身分社会だよ。

 ベルヌは軽く頷くと、そのままつまみ出してから、僕の背後に戻る。

 自称神官達は上司の顔をチラチラ見ながらも、さすがに抵抗はしなかった。

「何か話があって、私を呼び出したのでは?
気まぐれに応じてみたけれど、これ以上不快になる理由もないと、わかっているのかしら?」
「私はこのザルハード国の国教である、聖フェルメシア教の教皇ですぞ」
「それで?」

 顔を顰めるのを隠さなくなった教皇に、しかし僕は涼しい顔をしておく。

「この国の貴族も含めた崇高な教会の信者達が、令嬢の暴挙を許しません」
「だから?」
「態度を改めよ!」

 おや、突然カッと目を見開いて、威圧してきたね。

 ……ヤバい、記憶にある宣教師の絵がリンクして、笑いそうだ。

「改めるのは平民である、お前だと言っているのがまだわからない?」

 けれど、何とかとてつもない努力をして、貴族らしい冷たい微笑みを向ける。
でもきっと努力の方向性がおかしい。

「な、に……」

 自称神官達程ではないけれど、教皇はまったく意に介さない僕にたじろぐ。

 第3王子やティキー、お世話係の神官を連れて来なくて、正解だ。
あの3人は自国の国教と教皇という存在に縛られているから、これからの会話に何かと邪魔になる。

「まず、お前が教皇であろうと、何の信者であろうと関係ない。
私はアドライド国という他国の、それも公爵と同等の家格であるグレインビル侯爵家の令嬢であり、この身分を保証するとザルハード国の王妃、側妃の連名で書を交わしている。
そしてそれを教皇にも教会にも伝えたと一筆書いているけれど、これに覚えはない?」
「それは……」

 教皇……もうエセ教皇でいいか。
エセ教皇の強ばる表情を見て、覚えはあると確信する。

「無いなら無いと、はっきり言いなさい。
その時点でこれはザルハード国王家の失態。
当然、私と直接話した側妃、第3王子を1番に言及する事になるわ。
お前の発言1つで他国が介入する事になるけれど、その意味が正しく理解できている?
身分でいえば、私が王家より下にはなるけれど、他国の王族という立場の者が、その印章をもって保証したとなれば、話は違う。
更に言うならば、聖フェルメシア教はわが国の国教にあらず。
教皇という地位がこの国のいかなる地位であろうと、立場をもって礼を守っていたのならまだしも、先に礼を失したのはそちら。
突然連絡も無くお前達がこの教会に来たまでは、私と関わりない事。
とはいえ当然のように先ぶれも出さず、当日になって今から私にこの場へ来るよう指図した。
そこからして既にこちらを明らかに軽んじ、不躾を態度で示したと何故わからないの?
その時点で他国の高位貴族たる私が、お前達を不躾な平民だと判断するのは当然では?」
「……それは……いえ、聞いております。
しかし、ならば令嬢にも、それ相応の態度が必要では?
少なくともそれにより、コッヘル=ネルシス侯爵令息の待遇も変わりましょう」

 一瞬しおらしくなったかと思えば、人質がいるからこその強気発言かな?
僕には無意味だって解っていないみたい。
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