308 / 491
8
307.お久しぶりはカツアゲから
しおりを挟む
「従兄様?」
「それ!
それ飲ませて、可愛いアリー!!」
んー、んー、んー····ん?
ある晴れたお昼過ぎ、僕はできかけたアリリアの蕾達を眺めに何日ぶりかに外に出た。
といっても場所はグレインビル邸の裏手。
そこに植えてあるアリリアの木陰で敷物を敷いた僕は靴を脱いでちょこんと座り、まだ先、けれど確実に訪れるだろう春の息吹をほんのり肌で感じてた。
どこかからブヒヒィーンと複数のお馬さん達の嘶きが聞こえてくるから、きっと僕の愛馬のポニーちゃんやお馬さん3兄妹達の自由散策が始まったんじゃないかな。
ポニーちゃんが草をむしゃむしゃしている姿は僕の癒しだ。
お年頃な彼女は最近、お馬さん3兄妹の長男といい感じな雰囲気なんだよ。
長男のポニーちゃんへの慈しむようなつぶらな瞳は、僕を度々ほっこりさせてくれる。
可愛らしい愛馬達の嘶きにそれを思い出してはほっこりしながら、この時間を楽しむ。
そんな僕の片手には自家製ジュース、もう片方の手には自家製酵母で作ったパンに僕がエビカツと呼ぶバリーフェのフライを挟んだサンドイッチが握られている。
いわゆる超近場でお一人様ピクニックだ。
「えっと、これ?」
飲ませてって、この自家製ジュースの事かな?
グラスを持ち上げて小首を傾げてみる。
「そう、それ!」
そんな僕の前に走りこんで来た従兄様に、戸惑う。
どうしたんだろう?
とっても興奮していて目が爛々として鼻息が荒い。
彼の名前はガウディード=フォンデアス。
金髪翡翠目の彼は伯父様似で、優しげな印象を与えるんだ。
スイーツやカフェで自領を盛り立てる次代のフォンデアス公爵で、僕達は義理の従兄妹だよ。
普段は彼の叔母にあたる僕の義母様にもどことなく似ているのに、今はかけ離れたオッサンみたいになっている。
でもそういうお年になってきたんだよね。
僕は数ヶ月後に15才、従兄様はまだ先だけど今年26才になるんだもの。
約1年をあのヒュイルグ国で過ごしてから帰国した僕は、このグレインビル領で心身の調子を取り戻すべく、悪戦苦闘しながら更に1年過ごしたんだ。
元々が虚弱体質だった僕は、あの国で死にかけたからかな?
この冬は義父様や義兄様達が付きっきりで僕の体調管理をしてくれたにも関わらず、しょっちゅう高熱で寝込んでいる。
決してムササビでの屋外初フライトを失敗して泣きべそかいて、どこぞの王子の護衛である竜人のリューイさんに僕のムササビヒップを救出してもらい、きっとそれがバレたせいで義父様から屋外フライト禁止期間を引き延ばされたショックからではない。
····多分。
でもこれから暖かくなるからね。
去年の秋の商業祭には参加出来なかったけれど、今年こそ参加する為に今から体調を整えていくんだ。
そうそう、本来なら成人する貴族の子供が参加するお城で開かれるデビュタント式。
成人の儀とも言うんだけど、それはもちろんブッチしたよ。
でも何年か前のお約束通り、王家は僕のお名前を読み上げてくれたって要人警備の任務に就いてたバルトス義兄様が教えてくれた。
行ってないけどデビュタント済みとなった僕は、成人貴族の仲間入りだ。
だからかな。
知り合いや取り引き先各所からお祝いが沢山きた。
仲良くしてもらってる人達には体調を見ながら少しずつ、手づからお返ししていってるんだ。
匿名だけど、どこぞの王太子にどこぞの王子達2人、それとどこぞの国王からも個人的に何かしらが贈られて来たよ。
もちろんお返しはしておいた。
特産品を沢山作っておいて良かった。
そして今。
冬で体力がガクンと落ちてしまったから、まずは体調の良い時にお邸周りのお散歩から始めようと熱が落ち着いたタイミングでピクニックしてるところだったのに。
「嫌」
プイッとそっぽを向く。
「そんな!?」
ショックを受けたようなお顔をして敷物に両膝を着いてもダメ。
義母様に似ていない従兄様に興味は無い。
「それにこれと同じ飲み物は贈ってあったでしょ?
何ヶ月かぶりに会って第一声がカツアゲなんてひどい!
これは私の!」
「うっ、た、確かに」
そう、従兄様からもお祝いを受け取ったからお返ししておいたんだ。
多分ここ数日以内に従兄様の手元にこれと同じやつ届いたよね?
それに会ったのは雪に閉ざされる前、ううん、商業祭が始まる前じゃなかったかな?
氷の入ったグラスの中で気泡を発生させる自家製ジュースを、グビッと一気飲みする。
「ああっ」
「ぷはっ」
悲痛な悲鳴を上げ、とうとう四つん這いになってショックさを体現する従兄様と、シュワッとした喉越しに満足する僕。
あ、そのお顔は義母様に似てて好き。
「それで、この果実水の為にわざわざ来たの?」
義母様に似ている従兄様には優しくするよ。
「あ、うん、いや、それだけの為じゃないけど、でもそれも大きいかな」
何だろう?
歯切れが悪いな?
「従兄様、アレをやってくれたら感激して私のとっておきジュースを飲ませてあげたくなるかもしれないなあ」
「え、本当に?!
やるやる!」
パアッと笑顔を見せた従兄様はとってもお手軽に頷くと、正座したような形で姿勢を正す。
そうしてあざとい角度で僕を見て、ループが始まった。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新章始まりました。
お休み中もお気に入り登録していた方もいて、大変喜んでおりますm(_ _)m
明日までは午前と午後に1日2話更新しようと思っています。
お休み中も応援いただいたささやかなお礼の気持ちです。
よろしければご覧下さい。
同時進行中の下の作品もよろしければ。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
「それ!
それ飲ませて、可愛いアリー!!」
んー、んー、んー····ん?
ある晴れたお昼過ぎ、僕はできかけたアリリアの蕾達を眺めに何日ぶりかに外に出た。
といっても場所はグレインビル邸の裏手。
そこに植えてあるアリリアの木陰で敷物を敷いた僕は靴を脱いでちょこんと座り、まだ先、けれど確実に訪れるだろう春の息吹をほんのり肌で感じてた。
どこかからブヒヒィーンと複数のお馬さん達の嘶きが聞こえてくるから、きっと僕の愛馬のポニーちゃんやお馬さん3兄妹達の自由散策が始まったんじゃないかな。
ポニーちゃんが草をむしゃむしゃしている姿は僕の癒しだ。
お年頃な彼女は最近、お馬さん3兄妹の長男といい感じな雰囲気なんだよ。
長男のポニーちゃんへの慈しむようなつぶらな瞳は、僕を度々ほっこりさせてくれる。
可愛らしい愛馬達の嘶きにそれを思い出してはほっこりしながら、この時間を楽しむ。
そんな僕の片手には自家製ジュース、もう片方の手には自家製酵母で作ったパンに僕がエビカツと呼ぶバリーフェのフライを挟んだサンドイッチが握られている。
いわゆる超近場でお一人様ピクニックだ。
「えっと、これ?」
飲ませてって、この自家製ジュースの事かな?
グラスを持ち上げて小首を傾げてみる。
「そう、それ!」
そんな僕の前に走りこんで来た従兄様に、戸惑う。
どうしたんだろう?
とっても興奮していて目が爛々として鼻息が荒い。
彼の名前はガウディード=フォンデアス。
金髪翡翠目の彼は伯父様似で、優しげな印象を与えるんだ。
スイーツやカフェで自領を盛り立てる次代のフォンデアス公爵で、僕達は義理の従兄妹だよ。
普段は彼の叔母にあたる僕の義母様にもどことなく似ているのに、今はかけ離れたオッサンみたいになっている。
でもそういうお年になってきたんだよね。
僕は数ヶ月後に15才、従兄様はまだ先だけど今年26才になるんだもの。
約1年をあのヒュイルグ国で過ごしてから帰国した僕は、このグレインビル領で心身の調子を取り戻すべく、悪戦苦闘しながら更に1年過ごしたんだ。
元々が虚弱体質だった僕は、あの国で死にかけたからかな?
この冬は義父様や義兄様達が付きっきりで僕の体調管理をしてくれたにも関わらず、しょっちゅう高熱で寝込んでいる。
決してムササビでの屋外初フライトを失敗して泣きべそかいて、どこぞの王子の護衛である竜人のリューイさんに僕のムササビヒップを救出してもらい、きっとそれがバレたせいで義父様から屋外フライト禁止期間を引き延ばされたショックからではない。
····多分。
でもこれから暖かくなるからね。
去年の秋の商業祭には参加出来なかったけれど、今年こそ参加する為に今から体調を整えていくんだ。
そうそう、本来なら成人する貴族の子供が参加するお城で開かれるデビュタント式。
成人の儀とも言うんだけど、それはもちろんブッチしたよ。
でも何年か前のお約束通り、王家は僕のお名前を読み上げてくれたって要人警備の任務に就いてたバルトス義兄様が教えてくれた。
行ってないけどデビュタント済みとなった僕は、成人貴族の仲間入りだ。
だからかな。
知り合いや取り引き先各所からお祝いが沢山きた。
仲良くしてもらってる人達には体調を見ながら少しずつ、手づからお返ししていってるんだ。
匿名だけど、どこぞの王太子にどこぞの王子達2人、それとどこぞの国王からも個人的に何かしらが贈られて来たよ。
もちろんお返しはしておいた。
特産品を沢山作っておいて良かった。
そして今。
冬で体力がガクンと落ちてしまったから、まずは体調の良い時にお邸周りのお散歩から始めようと熱が落ち着いたタイミングでピクニックしてるところだったのに。
「嫌」
プイッとそっぽを向く。
「そんな!?」
ショックを受けたようなお顔をして敷物に両膝を着いてもダメ。
義母様に似ていない従兄様に興味は無い。
「それにこれと同じ飲み物は贈ってあったでしょ?
何ヶ月かぶりに会って第一声がカツアゲなんてひどい!
これは私の!」
「うっ、た、確かに」
そう、従兄様からもお祝いを受け取ったからお返ししておいたんだ。
多分ここ数日以内に従兄様の手元にこれと同じやつ届いたよね?
それに会ったのは雪に閉ざされる前、ううん、商業祭が始まる前じゃなかったかな?
氷の入ったグラスの中で気泡を発生させる自家製ジュースを、グビッと一気飲みする。
「ああっ」
「ぷはっ」
悲痛な悲鳴を上げ、とうとう四つん這いになってショックさを体現する従兄様と、シュワッとした喉越しに満足する僕。
あ、そのお顔は義母様に似てて好き。
「それで、この果実水の為にわざわざ来たの?」
義母様に似ている従兄様には優しくするよ。
「あ、うん、いや、それだけの為じゃないけど、でもそれも大きいかな」
何だろう?
歯切れが悪いな?
「従兄様、アレをやってくれたら感激して私のとっておきジュースを飲ませてあげたくなるかもしれないなあ」
「え、本当に?!
やるやる!」
パアッと笑顔を見せた従兄様はとってもお手軽に頷くと、正座したような形で姿勢を正す。
そうしてあざとい角度で僕を見て、ループが始まった。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新章始まりました。
お休み中もお気に入り登録していた方もいて、大変喜んでおりますm(_ _)m
明日までは午前と午後に1日2話更新しようと思っています。
お休み中も応援いただいたささやかなお礼の気持ちです。
よろしければご覧下さい。
同時進行中の下の作品もよろしければ。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
0
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる