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307.お久しぶりはカツアゲから

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従兄様おにいさま?」
「それ!
それ飲ませて、可愛いアリー!!」

 んー、んー、んー····ん?

 ある晴れたお昼過ぎ、僕はできかけたアリリアの蕾達を眺めに何日ぶりかに外に出た。

 といっても場所はグレインビル邸の裏手。
そこに植えてあるアリリアの木陰で敷物を敷いた僕は靴を脱いでちょこんと座り、まだ先、けれど確実に訪れるだろう春の息吹をほんのり肌で感じてた。

 どこかからブヒヒィーンと複数のお馬さん達の嘶きが聞こえてくるから、きっと僕の愛馬のポニーちゃんやお馬さん3兄妹達の自由散策が始まったんじゃないかな。

 ポニーちゃんが草をむしゃむしゃしている姿は僕の癒しだ。

 お年頃な彼女は最近、お馬さん3兄妹の長男といい感じな雰囲気なんだよ。
長男のポニーちゃんへの慈しむようなつぶらな瞳は、僕を度々ほっこりさせてくれる。

 可愛らしい愛馬達の嘶きにそれを思い出してはほっこりしながら、この時間を楽しむ。

 そんな僕の片手には自家製ジュース、もう片方の手には自家製酵母で作ったパンに僕がエビカツと呼ぶバリーフェのフライを挟んだサンドイッチが握られている。

 いわゆる超近場でお一人様ピクニックだ。

「えっと、これ?」

 飲ませてって、この自家製ジュースの事かな?

 グラスを持ち上げて小首を傾げてみる。

「そう、それ!」

 そんな僕の前に走りこんで来た従兄様に、戸惑う。

 どうしたんだろう?
とっても興奮していて目が爛々として鼻息が荒い。

 彼の名前はガウディード=フォンデアス。
金髪翡翠目の彼は伯父様似で、優しげな印象を与えるんだ。
スイーツやカフェで自領を盛り立てる次代のフォンデアス公爵で、僕達は義理の従兄妹だよ。

 普段は彼の叔母にあたる僕の義母様にもどことなく似ているのに、今はかけ離れたオッサンみたいになっている。

 でもそういうお年になってきたんだよね。
僕は数ヶ月後に15才、従兄様はまだ先だけど今年26才になるんだもの。

 約1年をあのヒュイルグ国で過ごしてから帰国した僕は、このグレインビル領で心身の調子を取り戻すべく、悪戦苦闘しながら更に1年過ごしたんだ。

 元々が虚弱体質だった僕は、あの国で死にかけたからかな?
この冬は義父様や義兄様達が付きっきりで僕の体調管理をしてくれたにも関わらず、しょっちゅう高熱で寝込んでいる。

 決してムササビでの屋外初フライトを失敗して泣きべそかいて、どこぞの王子の護衛である竜人のリューイさんに僕のムササビヒップを救出してもらい、きっとそれがバレたせいで義父様から屋外フライト禁止期間を引き延ばされたショックからではない。
····多分。

 でもこれから暖かくなるからね。
去年の秋の商業祭には参加出来なかったけれど、今年こそ参加する為に今から体調を整えていくんだ。

 そうそう、本来なら成人する貴族の子供が参加するお城で開かれるデビュタント式。
成人の儀とも言うんだけど、それはもちろんブッチしたよ。
でも何年か前のお約束通り、王家は僕のお名前を読み上げてくれたって要人警備の任務に就いてたバルトス義兄様が教えてくれた。

 行ってないけどデビュタント済みとなった僕は、成人貴族の仲間入りだ。

 だからかな。
知り合いや取り引き先各所からお祝いが沢山きた。
仲良くしてもらってる人達には体調を見ながら少しずつ、手づからお返ししていってるんだ。

 匿名だけど、どこぞの王太子にどこぞの王子達2人、それとどこぞの国王からも個人的に何かしらが贈られて来たよ。
もちろんお返しはしておいた。
特産品を沢山作っておいて良かった。

 そして今。
冬で体力がガクンと落ちてしまったから、まずは体調の良い時にお邸周りのお散歩から始めようと熱が落ち着いたタイミングでピクニックしてるところだったのに。

「嫌」

 プイッとそっぽを向く。

「そんな!?」

 ショックを受けたようなお顔をして敷物に両膝を着いてもダメ。
義母様に似ていない従兄様に興味は無い。

「それにこれと同じ飲み物は贈ってあったでしょ?
何ヶ月かぶりに会って第一声がカツアゲなんてひどい!
これは私の!」
「うっ、た、確かに」 

 そう、従兄様からもお祝いを受け取ったからお返ししておいたんだ。

 多分ここ数日以内に従兄様の手元にこれと同じやつ届いたよね?
それに会ったのは雪に閉ざされる前、ううん、商業祭が始まる前じゃなかったかな?

 氷の入ったグラスの中で気泡を発生させる自家製ジュースを、グビッと一気飲みする。

「ああっ」
「ぷはっ」

 悲痛な悲鳴を上げ、とうとう四つん這いになってショックさを体現する従兄様と、シュワッとした喉越しに満足する僕。

 あ、そのお顔は義母様に似てて好き。

「それで、この果実水の為にわざわざ来たの?」

 義母様に似ている従兄様には優しくするよ。

「あ、うん、いや、それだけの為じゃないけど、でもそれも大きいかな」

 何だろう?
歯切れが悪いな?

「従兄様、アレをやってくれたら感激して私のとっておきジュースを飲ませてあげたくなるかもしれないなあ」
「え、本当に?!
やるやる!」

 パアッと笑顔を見せた従兄様はとってもお手軽に頷くと、正座したような形で姿勢を正す。

 そうしてあざとい角度で僕を見て、ループが始まった。




※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新章始まりました。
お休み中もお気に入り登録していた方もいて、大変喜んでおりますm(_ _)m
明日までは午前と午後に1日2話更新しようと思っています。
お休み中も応援いただいたささやかなお礼の気持ちです。
よろしければご覧下さい。

同時進行中の下の作品もよろしければ。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
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