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277.オペ後の食欲大暴走
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「なあ、これ・・・・色々と大丈夫なのか?
ずっとこっちに反応せずに、にこにこして食欲暴走させてるぞ····」
「この甘い匂いと見ているだけで····胸が····ぅぷ」
失礼だぞ、国王。
できる専属侍女のニーアが作った物が大丈夫じゃないわけがない。
それに何か反応させようとしてたの?
あと王子、それは手術の時の後遺症じゃない?
思い出して吐き気催すならさっさと自分の部屋に戻りなさい。
この素敵な甘い香りとキラキラした光景のせいにするなんて正気じゃないよ。
「ふっ、さすが俺の可愛い旅人だな。
ほら、これも」
差し出しされた黒く艶々した物を見た瞬間、本能的にパクリとする。
くどくないほろ苦いカカオの風味と甘みが口に広がる。
カカオじゃなくてカバオ瓜の子房だけど。
「僕の旅人さんは可愛いね。
ほら、このタルトも美味しいんじゃないかな」
同じく差し出された大人の男性にはちょうど良い一口サイズのタルトもパクリ。
手術が終わって久々の長時間集中で僕の中年脳は疲弊しきったんだろうね。
ほとんど無意識で半分以上食べちゃってたけど、残りのタルトにもカスタードクリームを台座にして様々に飾り切りした見目麗しいカッティングフルーツが鎮座してる。
さすができる専属侍女。
味だけじゃない、目にも美味しいタルトだ!
他にクッキー、お団子、お汁粉がテーブルに並んでいる!
でも何故かたくさんあった色とりどりのケーキとプリンがもうないんだ。
僕のお腹がぽっこりしているから、まさかここに収納されたのかな?
異世界不思議現象?
あ、中年太りなわけじゃないんだ。
胃下垂だから食べるとそうなりやすいだけだよ。
「待て、レイヤード。
旅人さんを膝に乗せるのは譲ったんだ。
給餌は俺がする」
「何言ってるの、兄上。
こっちの隅にあるのは手が届かないでしょ」
ふふふ、僕の姿が変わっても変わらず接してくれるのは正直嬉しいな。
ていっても僕はあえて鏡は見ていない。
久々にこっちの姿を見たら整理されてるこの姿の時の記憶と、その頃とは全く違う不安定真っ盛りな今の自分との違いに色々と混乱しそうな気がして見られないんだ。
だから傍目には僕の幼馴染の1人がハマって読んでたラノベに出てくるBとLなやつに見えるかもしれないけど、僕の40近い今の外見も含めてそこは特に気にしない。
気にしたら負ける気がする。
主に羞恥心が。
「旅人様、またお汁粉はいかがです?」
ニーアに提案されてコクコクと頷く。
ごめんね、まだタルトを飲みこんでないんだ。
無表情な事が多いけど、今日の彼女はにこりと微笑んで暖炉で炙っていた串に刺したお餅を入れて手渡してくれた。
さすができる専属侍女。
手際が良い。
本日何杯目か忘れちゃったお汁粉を啜り、お餅もカプリ。
この餡子の甘さに香ばしい風味と伸びる感じが好き。
ほぅ、と一息吐く。
昔から難しいオペの後ほど甘い物を爆食いしちゃってたんだよね。
正直元の世界ならこんなに緊張しなかったんだよ?
事前に画像診断も精密検査もできて、オペには人工心肺装置も人工血管も使えるし、医療器具だってもっと扱いやすい物が揃ってる。
それがあればアリアチェリーナの体でもオペできたし、あの子····ミレーネだって····。
今回のオペで試してみたけど、魔法があればより安全にオペできる場面もたくさんあるってわかった。
なのに、つくづくこの世界の医療は遅れてる。
治癒魔法があるからこその弊害かもしれないけど。
まあ、いいか。
僕は僕として死ぬ前には、もう医者を辞めてたんだから。
それに今は健康体の成人男性だからね。
今のうちに食べられるだけ食べちゃおう。
ロギは僕達と交代で向こうの寝室にいるよ。
契約していない僕のお願いを何も引き換えにせずに聞いてもらったから、疲れたみたい。
理由付けをして大きく理には抵触していないけど、やっぱり本来は人の世と無闇に混じり合えない理に生きる精霊さんだ。
こちら側に生きる僕のお願いを聞くだけでも力を削がれちゃうよね。
ごめんね。
ベッドで休んでもらいつつ、あの子にゆっくり力を注いでくれてる。
ロギにお願いしたのは彼の火の精霊さんとしての性質と、時の特殊精霊さんとしてのあの子の性質の相性が良いから。
本来なら僕の魂の記憶に沿って時間を戻すだけで既にいくらかヒビの入っていた精霊石本体が砕け散ってもおかしくなかったからね。
一気に注ぐと脆くなった本体が砕けちゃうんだ。
少し時間をかけてあの子の最期に備えてるよ。
おっと、ダメダメ。
その事を考えたら気持ちが暗くなる。
久しぶりの健康体を満喫できて嬉しかった、ありがとうって笑って見送るって決めてあるんだから。
「それで、説明をして貰う事はできないか?
あいつは、ラスティンが助かったかどうかだけでもいい」
お汁粉が空になって一息ついたタイミングを狙ったのかな。
緊張した面持ちの国王が切実そうに声をかける。
そういえば魔具で無菌状態にしてオペ室化した寝室から出てからの記憶が時々途切れてる。
確か誰にも何も話さないまま、先に出たニーアが準備したらしい甘い香りに誘われてソファに座って····無心で食べ初めたんだ。
ソファにいたロギが最初に僕のお口にケーキを放りこんでたんだったかな?
そうしたらレイヤード義兄様が来てモグモグしてる僕をお膝に乗せて?
あ、脳の保護の為に低体温にした大公の体温を戻したって言いながらバルトス義兄様が来てロギと交代した?
そういえば国王と王子が間で何か言ってたけど、ガン無視状態で食べてたから何言ってたかわかんないや。
「オペ····手術は成功したよ?」
「じゃあ····」
「でもまだ予断は許さない」
「どう、いう····」
ん?
何で愕然としたの?
····あ、そうか。
この世界の彼らの認識では手術したらそれで終わりなんだね。
ずっとこっちに反応せずに、にこにこして食欲暴走させてるぞ····」
「この甘い匂いと見ているだけで····胸が····ぅぷ」
失礼だぞ、国王。
できる専属侍女のニーアが作った物が大丈夫じゃないわけがない。
それに何か反応させようとしてたの?
あと王子、それは手術の時の後遺症じゃない?
思い出して吐き気催すならさっさと自分の部屋に戻りなさい。
この素敵な甘い香りとキラキラした光景のせいにするなんて正気じゃないよ。
「ふっ、さすが俺の可愛い旅人だな。
ほら、これも」
差し出しされた黒く艶々した物を見た瞬間、本能的にパクリとする。
くどくないほろ苦いカカオの風味と甘みが口に広がる。
カカオじゃなくてカバオ瓜の子房だけど。
「僕の旅人さんは可愛いね。
ほら、このタルトも美味しいんじゃないかな」
同じく差し出された大人の男性にはちょうど良い一口サイズのタルトもパクリ。
手術が終わって久々の長時間集中で僕の中年脳は疲弊しきったんだろうね。
ほとんど無意識で半分以上食べちゃってたけど、残りのタルトにもカスタードクリームを台座にして様々に飾り切りした見目麗しいカッティングフルーツが鎮座してる。
さすができる専属侍女。
味だけじゃない、目にも美味しいタルトだ!
他にクッキー、お団子、お汁粉がテーブルに並んでいる!
でも何故かたくさんあった色とりどりのケーキとプリンがもうないんだ。
僕のお腹がぽっこりしているから、まさかここに収納されたのかな?
異世界不思議現象?
あ、中年太りなわけじゃないんだ。
胃下垂だから食べるとそうなりやすいだけだよ。
「待て、レイヤード。
旅人さんを膝に乗せるのは譲ったんだ。
給餌は俺がする」
「何言ってるの、兄上。
こっちの隅にあるのは手が届かないでしょ」
ふふふ、僕の姿が変わっても変わらず接してくれるのは正直嬉しいな。
ていっても僕はあえて鏡は見ていない。
久々にこっちの姿を見たら整理されてるこの姿の時の記憶と、その頃とは全く違う不安定真っ盛りな今の自分との違いに色々と混乱しそうな気がして見られないんだ。
だから傍目には僕の幼馴染の1人がハマって読んでたラノベに出てくるBとLなやつに見えるかもしれないけど、僕の40近い今の外見も含めてそこは特に気にしない。
気にしたら負ける気がする。
主に羞恥心が。
「旅人様、またお汁粉はいかがです?」
ニーアに提案されてコクコクと頷く。
ごめんね、まだタルトを飲みこんでないんだ。
無表情な事が多いけど、今日の彼女はにこりと微笑んで暖炉で炙っていた串に刺したお餅を入れて手渡してくれた。
さすができる専属侍女。
手際が良い。
本日何杯目か忘れちゃったお汁粉を啜り、お餅もカプリ。
この餡子の甘さに香ばしい風味と伸びる感じが好き。
ほぅ、と一息吐く。
昔から難しいオペの後ほど甘い物を爆食いしちゃってたんだよね。
正直元の世界ならこんなに緊張しなかったんだよ?
事前に画像診断も精密検査もできて、オペには人工心肺装置も人工血管も使えるし、医療器具だってもっと扱いやすい物が揃ってる。
それがあればアリアチェリーナの体でもオペできたし、あの子····ミレーネだって····。
今回のオペで試してみたけど、魔法があればより安全にオペできる場面もたくさんあるってわかった。
なのに、つくづくこの世界の医療は遅れてる。
治癒魔法があるからこその弊害かもしれないけど。
まあ、いいか。
僕は僕として死ぬ前には、もう医者を辞めてたんだから。
それに今は健康体の成人男性だからね。
今のうちに食べられるだけ食べちゃおう。
ロギは僕達と交代で向こうの寝室にいるよ。
契約していない僕のお願いを何も引き換えにせずに聞いてもらったから、疲れたみたい。
理由付けをして大きく理には抵触していないけど、やっぱり本来は人の世と無闇に混じり合えない理に生きる精霊さんだ。
こちら側に生きる僕のお願いを聞くだけでも力を削がれちゃうよね。
ごめんね。
ベッドで休んでもらいつつ、あの子にゆっくり力を注いでくれてる。
ロギにお願いしたのは彼の火の精霊さんとしての性質と、時の特殊精霊さんとしてのあの子の性質の相性が良いから。
本来なら僕の魂の記憶に沿って時間を戻すだけで既にいくらかヒビの入っていた精霊石本体が砕け散ってもおかしくなかったからね。
一気に注ぐと脆くなった本体が砕けちゃうんだ。
少し時間をかけてあの子の最期に備えてるよ。
おっと、ダメダメ。
その事を考えたら気持ちが暗くなる。
久しぶりの健康体を満喫できて嬉しかった、ありがとうって笑って見送るって決めてあるんだから。
「それで、説明をして貰う事はできないか?
あいつは、ラスティンが助かったかどうかだけでもいい」
お汁粉が空になって一息ついたタイミングを狙ったのかな。
緊張した面持ちの国王が切実そうに声をかける。
そういえば魔具で無菌状態にしてオペ室化した寝室から出てからの記憶が時々途切れてる。
確か誰にも何も話さないまま、先に出たニーアが準備したらしい甘い香りに誘われてソファに座って····無心で食べ初めたんだ。
ソファにいたロギが最初に僕のお口にケーキを放りこんでたんだったかな?
そうしたらレイヤード義兄様が来てモグモグしてる僕をお膝に乗せて?
あ、脳の保護の為に低体温にした大公の体温を戻したって言いながらバルトス義兄様が来てロギと交代した?
そういえば国王と王子が間で何か言ってたけど、ガン無視状態で食べてたから何言ってたかわかんないや。
「オペ····手術は成功したよ?」
「じゃあ····」
「でもまだ予断は許さない」
「どう、いう····」
ん?
何で愕然としたの?
····あ、そうか。
この世界の彼らの認識では手術したらそれで終わりなんだね。
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