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268.過去の妬みとロリコン拒否〜ルドルフside
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『許せない!
許せないんだ!
全部!
全部許せない!!』
あの時の少女が心から叫んだ声は今でも頭にこびりついている。
現ヒュイルグ国国王が辺境領主だった頃に拐われそうになり、当時の少女の専属侍女が少女を守って爆死していた。
その痛ましく無惨としかいえなかっただろう遺体。
それをたった1人で目の当たりにした少女。
10年以上鬱屈した感情を抱え、心身を追い詰められた事でやっと外に向けて爆発させた少女。
感情を顕にした事の無さそうな少女が気を失うまで許せないと泣き叫び続けた。
少女の心にその過去がいかに根深く突き刺さっていたのかが察せられ、ひどく胸が痛んだ。
どれほど苦しみ続け、自身を無力だと苛み続けていたのか。
恐らく少女の家族はこうなる事を狙って元凶たるこの国の滞在延長の要請を渋々ながらも認めたんだろう。
あれ程の激情だったのだ。
少女がこの国に来なければ、この先もずっと感情が燻り続けて心に何かしらの歪みを与えていたかもしれない。
グレインビルらしい荒治療だったとは思うが。
権力も財力も魔術師としての実力もある家族に守られ、ひたすら溺愛され、貴族でありながら常識に捕らわれない自由を与えられ、虚弱な体質ながらも生きられている。
不自由など程度の知れた、幸運な養女だとどこかで思っていた偏見は、見事に打ち砕かれた。
「王子として産まれてその責務を背負う俺にとって、アリアチェリーナ=グレインビルのもつ庇護も、貴族の養女に迎えられてなお自由に生きる様も、眩しく映った。
俺を見ようともしない、友にと望むレイに慈愛の眼差しで見つめられ、ともすればそんなレイを振り回す義妹という立場のその子が羨ましくもあって、少しばかり妬ましくもあった」
「····そう」
レイは再び妹へと視線を移す。
その手は絶えず上掛けの上から小さな背を撫でている。
「だが今は苦しむ事なく、笑って生きて欲しいと思っている。
羨んだり妬む気持ちももうない。
今ならアリアチェリーナ=グレインビルが抱えた苦悩も、生きるのに懸命なくせに家族を優先してできる限りの大きな愛情を与え続けているのもよくわかったからな」
『なるほど、良く見ているね。
これはあくまで私の主観だけどね。
グレインビル嬢の気質は他人に興味関心のない冷淡なものだと思う。
だけど、冷酷ではないんだ。
むしろ数少ない執着している者にはその反動のように惜しみなく愛情を注ぐんだろうね。
そしてグレインビル嬢が執着しているグレインビル家が温かな家庭で自分を大事にしてきたからこそ、自分も家族を何よりも大事にしているんだと思う。
それには家族が大事にしている者達も含まれていて、彼らの為になら大嫌いなこの国の王や重鎮達に手を貸すくらいには温かいものだ』
あの大公が温室で話した通りだと俺も思う。
そう、少女が施す全ては家族への規格外に大きな愛情からだ。
恐らく少女がこの国に来たのも、滞在を延ばしたのも、明らかに嫌っている国王やその周辺を助けているのも、愛する家族とその家族が大切にする人や物すらも愛して尊重しているから。
「俺はこの子を守る者の1人になるつもりだ」
「なりたい、ではなく?」
覚悟をして友に話す。
今までのように雷撃はされない。
「そうだ。
レイ達が否定しても、そうなる。
王子として、1人の人としてな。
だが今は明らかに力不足だ。
実は誘拐された時にあの洞窟でニーアにもそのような事を忠告された。
アリアチェリーナ=グレインビルはその生い立ちや持って産まれた体質からも、築いた功績からも目立ち過ぎている。
俺は兄上やバルトス殿、レイのような頭脳もなければ、魔法や剣の腕も遠く及ばない。
王子としての立場も王族の中では1番弱い。
今の俺では逆にその子を危険に晒す。
だから力をつける」
「ねえ、ルドルフ王子。
君はアリアチェリーナに男として惚れているのかな?」
赤い目が再びこちらを捕らえる。
表情はなく、ただ見ているだけ。
けれどその赤い目が、嘘やはぐらかす事を許さないと語る。
「わからない。
人としては間違いなく惹かれているし、守りたい存在だ。
だが男として惹かれているのかは····すまない、わからない」
だから本心をそのまま伝えた。
「それに····ロリコンはちょっと」
「····ぶふっ、ふっふふ、た、確かに」
レイが吹き出す。
何故だろう?
考えてもみてほしい。
いかんせん少女はまだぎりぎりとはいえ未成年の13才なのだ。
俺は既に成人した17才。
本来はよくある年の差だが、政略的な意味もない関係の10代でのこの年の差はそれなりに大きいだろう。
しかもこの子は小柄で童顔、まだ体つきも膨らみのない細くて華奢なだけの10才でも通じそうな体躯なんだ。
正直婚約の打診を幼児にしてしまえたり、堂々と成人前の子供相手に求愛するヒュイルグ国王は心から凄いと思う真正のロリコンだ。
「その、そう思うのは駄目だろうか。
妹というものがいた事がないから構いたいとか、構われたいとか、守りたいとか、傷ついて欲しくないとか、言葉にするならそういう感情でだな····」
上手く説明できないからか、何とはなしに焦ってしまう。
「いいよ。
ルドにはまだそういうのが早いみたいだし」
笑わせたからか、雰囲気がいくらか柔らかくなったようだ。
しかしまだ早いって····。
それにしても向こうのシルが微動だにしない。
護衛に徹しているからか?
「僕の可愛いアリーもいつか····」
レイはひとしきり笑い、不意に眠る妹へ視線を落として呟く。
どこか自嘲するような声だが、俯いた拍子に少し長くなった前髪が顔にかかって表情までは窺えない。
と、不意に上掛けがもぞもぞと動いた。
許せないんだ!
全部!
全部許せない!!』
あの時の少女が心から叫んだ声は今でも頭にこびりついている。
現ヒュイルグ国国王が辺境領主だった頃に拐われそうになり、当時の少女の専属侍女が少女を守って爆死していた。
その痛ましく無惨としかいえなかっただろう遺体。
それをたった1人で目の当たりにした少女。
10年以上鬱屈した感情を抱え、心身を追い詰められた事でやっと外に向けて爆発させた少女。
感情を顕にした事の無さそうな少女が気を失うまで許せないと泣き叫び続けた。
少女の心にその過去がいかに根深く突き刺さっていたのかが察せられ、ひどく胸が痛んだ。
どれほど苦しみ続け、自身を無力だと苛み続けていたのか。
恐らく少女の家族はこうなる事を狙って元凶たるこの国の滞在延長の要請を渋々ながらも認めたんだろう。
あれ程の激情だったのだ。
少女がこの国に来なければ、この先もずっと感情が燻り続けて心に何かしらの歪みを与えていたかもしれない。
グレインビルらしい荒治療だったとは思うが。
権力も財力も魔術師としての実力もある家族に守られ、ひたすら溺愛され、貴族でありながら常識に捕らわれない自由を与えられ、虚弱な体質ながらも生きられている。
不自由など程度の知れた、幸運な養女だとどこかで思っていた偏見は、見事に打ち砕かれた。
「王子として産まれてその責務を背負う俺にとって、アリアチェリーナ=グレインビルのもつ庇護も、貴族の養女に迎えられてなお自由に生きる様も、眩しく映った。
俺を見ようともしない、友にと望むレイに慈愛の眼差しで見つめられ、ともすればそんなレイを振り回す義妹という立場のその子が羨ましくもあって、少しばかり妬ましくもあった」
「····そう」
レイは再び妹へと視線を移す。
その手は絶えず上掛けの上から小さな背を撫でている。
「だが今は苦しむ事なく、笑って生きて欲しいと思っている。
羨んだり妬む気持ちももうない。
今ならアリアチェリーナ=グレインビルが抱えた苦悩も、生きるのに懸命なくせに家族を優先してできる限りの大きな愛情を与え続けているのもよくわかったからな」
『なるほど、良く見ているね。
これはあくまで私の主観だけどね。
グレインビル嬢の気質は他人に興味関心のない冷淡なものだと思う。
だけど、冷酷ではないんだ。
むしろ数少ない執着している者にはその反動のように惜しみなく愛情を注ぐんだろうね。
そしてグレインビル嬢が執着しているグレインビル家が温かな家庭で自分を大事にしてきたからこそ、自分も家族を何よりも大事にしているんだと思う。
それには家族が大事にしている者達も含まれていて、彼らの為になら大嫌いなこの国の王や重鎮達に手を貸すくらいには温かいものだ』
あの大公が温室で話した通りだと俺も思う。
そう、少女が施す全ては家族への規格外に大きな愛情からだ。
恐らく少女がこの国に来たのも、滞在を延ばしたのも、明らかに嫌っている国王やその周辺を助けているのも、愛する家族とその家族が大切にする人や物すらも愛して尊重しているから。
「俺はこの子を守る者の1人になるつもりだ」
「なりたい、ではなく?」
覚悟をして友に話す。
今までのように雷撃はされない。
「そうだ。
レイ達が否定しても、そうなる。
王子として、1人の人としてな。
だが今は明らかに力不足だ。
実は誘拐された時にあの洞窟でニーアにもそのような事を忠告された。
アリアチェリーナ=グレインビルはその生い立ちや持って産まれた体質からも、築いた功績からも目立ち過ぎている。
俺は兄上やバルトス殿、レイのような頭脳もなければ、魔法や剣の腕も遠く及ばない。
王子としての立場も王族の中では1番弱い。
今の俺では逆にその子を危険に晒す。
だから力をつける」
「ねえ、ルドルフ王子。
君はアリアチェリーナに男として惚れているのかな?」
赤い目が再びこちらを捕らえる。
表情はなく、ただ見ているだけ。
けれどその赤い目が、嘘やはぐらかす事を許さないと語る。
「わからない。
人としては間違いなく惹かれているし、守りたい存在だ。
だが男として惹かれているのかは····すまない、わからない」
だから本心をそのまま伝えた。
「それに····ロリコンはちょっと」
「····ぶふっ、ふっふふ、た、確かに」
レイが吹き出す。
何故だろう?
考えてもみてほしい。
いかんせん少女はまだぎりぎりとはいえ未成年の13才なのだ。
俺は既に成人した17才。
本来はよくある年の差だが、政略的な意味もない関係の10代でのこの年の差はそれなりに大きいだろう。
しかもこの子は小柄で童顔、まだ体つきも膨らみのない細くて華奢なだけの10才でも通じそうな体躯なんだ。
正直婚約の打診を幼児にしてしまえたり、堂々と成人前の子供相手に求愛するヒュイルグ国王は心から凄いと思う真正のロリコンだ。
「その、そう思うのは駄目だろうか。
妹というものがいた事がないから構いたいとか、構われたいとか、守りたいとか、傷ついて欲しくないとか、言葉にするならそういう感情でだな····」
上手く説明できないからか、何とはなしに焦ってしまう。
「いいよ。
ルドにはまだそういうのが早いみたいだし」
笑わせたからか、雰囲気がいくらか柔らかくなったようだ。
しかしまだ早いって····。
それにしても向こうのシルが微動だにしない。
護衛に徹しているからか?
「僕の可愛いアリーもいつか····」
レイはひとしきり笑い、不意に眠る妹へ視線を落として呟く。
どこか自嘲するような声だが、俯いた拍子に少し長くなった前髪が顔にかかって表情までは窺えない。
と、不意に上掛けがもぞもぞと動いた。
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