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235.プランB、けれど囮

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「素晴らしい!
やはり貴女は13才とは思えない慧眼ですね」

 ひょろ長さんは歓喜のせいかパンッと手を合わせてテンションを上げている。

「ベルヌと逞しさんは比較的早めにここに戻ってきたんだよね?
うーん····少し違うね」

 言いながら更に考察を深めていく。
ひょろ長さんは実に興味深そうに目を輝かせてそんな僕を観察してるね。

 少なくとも北の諸国を渡ってからの彼らの目的が、実は一貫して僕だけだったとしたら?
守りの手厚い僕を手に入れる為に必要な事は?

「あなた達は何の為にお城に行って、あの2人は何の為にここに戻って、何をしていたのか、だよね」
「ああ、本当に貴女は素敵ですね。
もう察しはついているのでは?」

 怖い怖い。
相変わらず恍惚のお顔で僕を見るの止めてくれないかな。
もちろん断固としてポーカーフェイスを貫くよ。

「そんなにあなた達の雇用主は私が欲しいの?
どうして?」
「ああ、やはりおわかりでしたか」
「自分で言うのもなんだけど、私の守りは堅いもの。
少々の事では拐うなんて難しいでしょう?
前回はたまたま巻きこまれ誘拐に遭って、今回も大公が倒れたから運良く実現しただけ。
ただ、そうならないかと狙ってはいた。
それくらいには大公の発作は頻発しつつあったもの」

 ひょろ長さんの目がキラキラしてるから多分合ってるんだろうけど、誘拐犯的にそれは良いのかな?

「決行したのが今日になったのは、あなた達が巻きこんだ反王派達のコンプシャー嬢旗印が投獄されたから。
さすがに抑えられなかったのかな?
追放されてた元王太子だけじゃ不足だったんだよね?」

 そう、元王女なんてそもそも反王派のこの国の旗印にはならないし、この国の今の政権である国王達に全く恨みのない、無知のくせに我の強すぎる残念筆頭令嬢では政権を奪う程の旗印にもなり難く、後々邪魔になる。

 だとしたらそれらを満たすのに最も適しているのは追放された元王太子実の父親

 僕は死んだとか、処刑されたなんて一言も言ってない。
彼は追放後、妻子を見捨てて自分だけ行方をくらましていたはず。
贅沢三昧だった妻とまだ小さかった子供は他国のスラム街で亡くなってる。

 けれど元王太子は仮にも罪人認定されて王族籍を剥奪されてる。
まあそこは後々反王派が元王太子は冤罪だったとか、当時王子だった双子にはめられたとか、新たな証拠を捏造するだろうけど。

 それでも旗印は弱いから、実の父娘をセットにして、初めてギリギリの正当性を持たせて末長い利用価値が生まれる。

 もちろんこの国のトップであるエヴィン国王を亡き者にした上での、ごり押しだけどね。

 反王派にすれば幸いにも戸籍上の父親との関係は娘が一方通行に慕う形だ。
つけ入る隙は過分にあるし、彼女的には血縁を疑ってもいなかった父親が指示して今回投獄されたんだ。
もし今回の奇襲が失敗してもエヴィン国王に実の父親元王太子を殺させでもすれば彼女はバ、コホン、無知で単純だから血縁の無さを指摘して軋轢をガツッと生じさせてやれば、いくらでも負の感情は操れそうだよね。

「ええ、所詮は腐った時代の元王太子であり、今は罪人ですからね。
反王派からすれば、後もうひと押し欲しいのでしょうね」
「あなた達がザルハード国で目撃されたのは、元王太子の潜伏先がそこだったから?
よく見つけられたね」
「ふふふ、見つけてしまったんですよ」
「なるほど、

 ザルハード国だって誘拐犯については友好国のアドライド国から連絡を受けていた。
なのに、彼らはその国に足を踏み入れ、元王太子を見受けした。

 ヒュイルグ国が色々と慎重になってた理由はいくつかあるけど、あの国の治外法権は教会か。

 そこまで考えてふと我に返る。

 ····ああ、面倒臭いな。

 色々な思惑が見え隠れしすぎじゃない?
それに気づく僕も大概で、ちょっと同族嫌悪してしまう。

 本来なら王太子が追放処分を受けた時に手を回して殺すべきだったんだろうけど、彼が生かされたのにも理由があるしね。

 ····ああ、本当に····全てが面倒臭い。

「貴女は何者なんでしょうね。
しかし頭が良すぎるのをひけらかしては危険がつき纏いますよ?」

 一瞬彼の麦藁色の目に狂気が宿る。

「少なくともあなた達の目的が達成されるまで私の無事は保障されてるでしょ。
だとすれば、私はあなた達に比較的長く守られる事になるもの」
「········あはははははは!」

 ひょろ長さんは呆気に取られた顔をしたと思ったら、次いでけたたましく笑った。

「本当に!
貴女は最高です!
ああ、早く連れ帰りたい!
貴女ともっと多くを語らいたいですね!」

 ハイテンションに喋るけど、情緒不安定すぎない?

「それでコンプシャー嬢はどこに放逐したの?
元王太子は私を連れ去る為、彼女は逃げる為の囮にするんだよね?」

 誘拐犯達は今日の初動で奇襲の失敗を察した。
仕方ない。
残念筆頭令嬢の投獄は予想外だもの。
下手に罪人扱いされれば彼らの旗印としての価値は消失する。

 まあここで国王殺害計画プランAから、残念筆頭令嬢脱獄計画プランBに切り替えた。

 元王太子達奇襲組は処刑されるけど、恐らくそちらの方が反王派は都合がいいのかも?

 ひょろ長さん達誘拐犯の思惑はまた別かな。

 今晩ここに一泊する彼らの理由は囮に食いつかせる為もあるんだろうな。

 いくら転移用の魔具を使っても距離には制限がある。
囮を使うならいきなりこの国を脱出するのは不可能な代物って事か。

 あれ?
何処に設置していて、何処で使うのかな?

「それはさすがに秘密です」

 片目瞑って人差し指を口元に当てるひょろ長さん。

 それならまあ、いいか。

「なら反王派を色々都合良く使った、あなた達の目的は?
私に何をさせたいの?」

 僕に関して問うべきはこちらの質問だろうから。
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