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171.カスカス~ギディアス

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「随分とやらかしてくれたね。
わが国の祭りで招いた他国の商人への恐喝、ブース内を荒らした挙げ句に暴行未遂。
そしてわが国の祭りの為に国として孤児院へ要請して手伝いに来ていた幼い民への暴言、暴行」

 彼らがやらかしたその夜、西の商会ブースで氷漬けになった2人と、南の屋台近くの飲食スペースで固まる1人を回収して執務室に連行させた。
私は椅子に腰かけているが、問題児達は当然起立させている。

 西で凍る2人は私達が到着するまで見張りの騎士に喚いていたし、固まる王子も帰りの馬車に乗せた途端動き始めたけど一緒に乗る2人を見捨てたのを責められると逆ギレして騒いで大変だったらしい。
連行した騎士達には後で特別手当でも出しておこう。
もちろんザルハード国に請求する。

「怪我は事故のようなものだし、婚約者が代わりに治癒魔法をかけてやろうとした」

 どこまでもバカな俺様王子にはほんっとうに苛々するよ。
そもそも王子だ俺様だとふんぞり返るなら、婚約者と側近候補を置いて逃げるな。

 しかも逃げ出したこの俺様につけておいた影に逃げた先での、あの飲食スペースでの一部始終を聞いた瞬間、肝が冷えた。

 何でピンポイントにアリーにちょっかいかけてんだよ?!

 状況から言ってレイヤードは少なくともアリーが飲食スペースでゼストと闇の精霊にそこの俺様王子から引き剥がされた後に合流したんだろうけど、もしそこでそんな事してたら間違いなく雷撃されてたよ!!
気配消しと目眩ましのあの外套のせいで実際にいつ合流したかはわからないけどさ。

 まあそうなっても私が庇うのはレイヤードだっただろうけど。
でもあの時の魔法技術大会の時の俺様兄のように証拠を残さない気もする。

「それで君の婚約者はいたいけな少年に土下座と謝罪の強要にさらなる暴行未遂か」
「でも実際にはさせてません!
それに獣人の孤児ですわ!
本来なら私の治癒魔法は大金を払わなければ受けられませんのよ!」

 この俺様にしてこの婚約者ありだ。
言っても無駄な人種にはもう関わりたくもないんだけど?
こいつの生家はどんな教育してるんだよ。

「何者かが止めに入って先に治癒されて出来なかった、の間違いだな。
そもそも傷つけたのは君が共にいた君の婚約者と君の言うところの貴族子息だ」
「そんな!
それにおわかりなら私は傷つけて····」

 おいおい、あらゆる意味でこの俺様にしてこの婚約者ありだな。
責任転嫁しようとしてるし。

「後から来た何者かが部屋に入って治すまでにかかった時間はほんの数秒だ。
君があの場に行って何十分経っていた?
それにわが国の王宮魔術師団副団長の苦言は全く頭に残っていないのか?
君は全くそれを止めなかった。
薄笑いを浮かべていたという証言の真偽はともかく、諌めようとすらしなかったのなら、それは君も傷つける事を同意したのと同じと見なされる」
「そ、それは····」

 どんどん顔色を悪くしていく婚約者とやらにため息が出る。
バルトスのした話なんかこの子のカスカスの脳ミソには残ってないんだろうな。

「留学中とはいえ、ここは君達からすれば他国だ。
そして君達は自らの身分を自らでひけらかし、王族や貴族の子供としての対応を求めた。
責任も取れない外交問題などという愚かな言葉を用いてだ。
だとすれば君達にはそれに相応しい義務を負うのは当然だろう。
それでもあの場にわが国の王宮魔術師団副団長が居合わせたから表向きの外交問題にはならずにすんだ」
「だとすればあの者こそ他国の王族やその婚約者、そして側近候補に対する言動ではありません」

 橙頭のコッヘル=ネルシス侯爵子息も脳ミソがカスカスだな。

「まず婚約者とはいえ留学中の彼女のこの国での身分は?」
「ザルハード国伯爵令嬢です」
「君は側近か?
側近候補か?」
「側近候補です」
「側近でもない君のこの国での身分は?」
「····ザルハード国侯爵令息です」

 さすがに少しはバルトスの言葉が残っていたのか、何を言いたいかはわかったようで顔を羞恥に染める。

「わが国のグレインビル王宮魔術師団副団長は個人に与える魔術師爵としてその功績も鑑み、侯爵相当を認めている。
そして君達2人は貴族の子息令嬢という身分は持っていても爵位はない。
口の利き方を強要するならば自らの口の利き方を謝罪してから主張すべきだと判断する。
そして彼の話の内容は覚えているか?」
「な、何のことか····」

 おいおい、ここにきて側近候補とやらは白を切ろうとすんの?
それこそこの国の王太子に不敬だけど、俺様は諌めもしないとか、本当に外交問題にしてやろうか。

「そうか。
『何が真実かはすぐわかる。
それからたかが一介の他国の貴族子息が口の利き方に気をつけろ。
爵位を持つのは親であってお前ではない。
そんな初歩的な事も理解してないのか?
そんなんで留学なんかして大丈夫か?』
彼が君に言った言葉そのままだ。
その通りだと思うし、仮にわが国の爵位のない貴族子息としてであっても言葉遣いは相応だ」
「それなら王族への言動としては相応しくないはずだ」

 何の反論かな、この俺様?
こいつも頭カスカス過ぎで嫌になる。
これにはつい声が低いものになった。

「侯爵相当の爵位持ちだと言わなかったか?
君の婚約者だ、側近候補だという発言に対してこう発言している。
『結局のところアドライド国ではただの貴族の子供という事をやはり理解できないのか?
そんなんで留学なんかして大丈夫か?』
君をばかにしているという発言に対してはこうだ。
『お前達には全くの興味はない。
普通に国を心配しているだけだが?』
確かに他国とはいえ王族の君にお前という表現は不適切だが、それまでの君の王族らしからぬ物言い、君達の獣人や孤児への蔑視発言を認めるわけにはいかないという立場をはっきり表明させた事、そしてそれこそ外交問題とならないようにする為の言動と考えれば丸きり不適切とも言い難い。
『王族だと言うのならば一々いきりたつな。
余裕のない物言いをするのがザルハードの王族なのか?
そもそも何故そんな初歩的な事を俺が説明するんだ?
この国の留学中の後見となっているギディアス王太子やルドルフ第2王子から教わらなかったのか?』
私もルドルフもこれに関しては留学して以来何度も説明したはずだし、感情をもっとコントロールするようにとも言い続けていたよね。
まさかこれも聞いていないと言うのかい?
それこそこの国の王太子である私の政務時間を使って何度も話したのに、この国に対しても失礼を働いてるよ?
そういう事ならそれこそ外交問題になるけど、いい?」
「「「····いえ(いや)」」」
「ならちゃんと聞いてたんだよね?」
「「「はい」」」

 青い顔も返事もお揃いだ。
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