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158.スラの実とカハイ

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「ドラゴ····ピタの実は生で食べられるんですか?」
「もちろんだ。
ほら、持ってきた」

 例の猫耳少女がくし形に切ったピタをお皿に並べて持ってきてくれる。
事前に頼んでたみたいだね。

「ありがとう。
これ、いただいても?」
「ああ、食ってくれ」

 猫耳少女にお礼を言うと、はにかみながら奥に走って行っちゃった。
何、あの可愛いの?!
拐いたいんだけど?!
今すぐダッシュで追いかけて、もふりたおしたいんだけど?!

 なんて気もそぞろになりつつピタを手に取る。
外側は赤いドラゴンフルーツ、中身は熟した黄色のパイナップル。
緑色の葉っぱの反しも含めてどことなく蛍光色の色合いを纏ってるから何だかトロピカルな印象になるね。

「初めて見る果物だ」

 王子も初お目見えか。
僕も初めて見たし、まだこっちには出回ってないのかな?

『うわぁ、僕も初めてみたぁ!』

 初ピタのヤミーも興奮してる。
ピタの周りをピョンピョン跳ねてるのが小人のダンスみたいで可愛いらしいね。

 なんて思いながら一口。
食感は柔らかいパイナップル。
繊維質だけど、口当たりは悪くない。
味はやっぱりピーチパイン!

「繊維質だけど柔らかいし、芳醇な甘さの中に酸味がいいアクセントで美味しいです!」
「ああ、ジュースもいいが、このまま食べるのも食感が独特でいいな!」

 そういえば果物でパイナップルみたいな食感てこの世界でも初めてかもしれない。

「ピタは最初緑色なんだが、収穫して2週間くらいで赤くなると食べ頃になるんだ」

 なるほど、あっちの世界のバナナみたいな感じかな。
あれも最初は緑色で、数週間かけて黄色くなるんだったような?
ちなみにバナナによく似た果物のナナンは栽培しやすい品種らしくてこの国の王都から南側でちょこちょこ作られてる。
最初から黄色い実が木にニョキッと生えてくるよ。
遠くからだと鎌が刺さってるみたいなシルエットだけど。

「なるほど。
ピタはあまり出回ってない果物だと思うんですが、南国でも珍しいんですか?」
「いや、南国の中でも俺の育ったオギラドン国ではメジャーだぜ。
ただこの国や周りの国までは販売ルートがほとんどなかったんだ」

 オギラドン国か。
確か僕が巻き込まれ誘拐された時のあの国から更に南に位置する国だね。
南国の商品がこの国に入りにく理由の1つはあの国との国交問題だったからね。
直通での交易ルートがなかったんだ。
今回南国の商会がこうしてこの国の商業祭に出店してるのって、この国の国交から考えてもすごい進歩なんだよ。

「なるほど。
これからはこの国にも出回りそうですか?」
「この1年でこの国の南側の国との外交が周辺国含めて安定したからな。
今まで南国諸国は南西側のザルハード国を経由しねえと商品を持ち込めなかったんだ。
収穫して熟すまでにとてもじゃねえが間に合わなかった。
それが通行税がかかるとはいえ直通で通れるようになったのはでけえ。
俺達としちゃ売り込んでいきたいと思ってんだ。
ここ何年かでこの国の交易もかなり発展して東と西でそれぞれ有名になってる商会も出入りしてるしな。
この国の商会も他国では有名になってんだぜ。
こっちじゃ確かタコとかイカっつうんだっけ?」

 ····記憶を頼りに話してくれてるところ申し訳ないけど、タコとイカがいつの間にかこの国の言葉に認識されてる?!
あれれ?!

「タコとイカ····」

 ちょっと王子もこっちを複雑そうな目で見るのやめてくれない?!
僕にとってはタコとイカなんだってば!

「ああ、海の魔獣の事だろ?
それにチョコレートだ。
食い物だけじゃなくて化粧品や布製品もだな。
レースで作ってる扇子なんかは他国でも人気で品薄だ。
あと収納魔鞄もだな。
あれは年単位で待たされてるらしいが、かなり需要がある。
この国の商品が他国で人気出てっから、周辺国との外交も今じゃ安定してきてるだろ。
南の国々っつうのは他国みたいにはまだまだ発展してねえし、アボット商会みたく俺らチャガン商会もオギラドン国の平和と発展に一役買えたらって思ってんのさ」

 なんだかお話聞いてると僕が関わった商品がぽろぽろ出てくるな····。
まあ流行ってるのは良い事だね。

 このお祭りの商会の区分けはアデライド国からみた東西南北で大まかに分けた各同盟国の商会がまとまってブースとして構えられてるんだけど、最近カイヤさんやウィンスさん達と話してるとどうやら他国もそういう認識になってきてるみたいなんだ。
多分元々あったこの国の北の商会に加えて大きく動くようになって有名になってきた東西の2大商会もそういう認識で取引先とお話しするようになったからかなって勝手に思ってる。

 前は個人のお店に材料を卸すのが商会って認識だったけど、今では彼らの取引先も多様化してるから商会ギルドの在り方も変わっていくんじゃないかって言われてるらしいよ。

 商品が流通して持ちつ持たれつになれば外交が安定して巡り巡って戦争が少なくなるからね。
周辺国と友好的な関係を築ければ、どこか1つの国、例えば南の領の向こうの国がこの国を侵略しようとしてもそれ以外の国が抑止力に働くから、そういう意味でもこの国がかなり前から商業祭と銘打って自国だけじゃなくて他国の商会を招き入れてたのは悪くない政策だったと思うよ。

 去年の例の誘拐事件があった後で南側のあの隣国を飛び越えてオギラドン国を含めた南の国々と国交を深めたのは隣国の牽制に繋がったと言えるんだ。

 そう思うとチャガン商会には色々頑張ってもらいたいね。
平和大事!

「なるほど。
外交と流通というのはそのように繋がっていくのだな。
知識としてはもちろん知っているが、こうして生の声を聞けるとは思えなかった」

 誇らしげな顔のおじさんに、うんうんと頷く隣国の王子。

「何か照れちまうな!
それより嬢ちゃん、これがカハイの元になってる実だ。
南国ではスラの実って言ってな、中の種を炒って砕いて煮出した汁をカハイって言うんだ」

 おじさんはガハハと笑うとチラリと奥に向かって目配せした後、並べられた商品の中なら蛍光ピンクの実と炒って商品化されてる焦げ茶色の種を指さす。

「ど、どうぞ!」

 タイミング良くあの猫耳少女が真っ黒な液体が入った、温かいそれを僕達の前に並べ、僕がお礼を言う前にささっと消えた。

 くっ、どもる猫耳少女も····たまらん!

「飲んでみてくれ」

 もちろんいただきます!

「ふぐっ」
「····苦いですけど、これがいいんですよね」

 直前に甘いピタを食べたのもあって苦味が余計に感じられるけど、隣で呻いた王子を横目に僕はにこにこだ。

「「えっ」」

 おじさんと王子は予想外の反応だったのか、驚愕の顔を僕に向けてくる。
そんな2人を無視してマジックバッグから一口焼きを取り出す。
目を丸くしている2人にもどうぞと声かけして、それを頬張りながら全てを飲み干した。

「美味しかったあ」

 ほうっと至福のため息をつく。
そう、やはり間違いないない。
これぞ僕が長年求め続けたあの飲み物。

 コーヒーきたぁぁぁぁぁー!!



※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新作を明日から投稿します。
全4話完結のホラージャンルです。
同時進行中の小説【溺愛中】~のお話の関係者が登場しますが、そちらを知らなくても問題ない作りとなっています。
タイトルは【かくしおに】です。
恐怖を自家発電しようとしましたが、怖くありません。
ホラーは難しいですね。
お暇な時に読んでいただけると幸いです。
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