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143.舌鼓と戻ってから4

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「受け取りはしましたが、読んではいません」

 ギディ様もわかってて聞いてるよね。

「開封すると差出人に知れるって、本当に呪いの手紙ですよ、ギディ様?」

 レイヤード義兄様の氷の微笑が凛々しい外見と相まって素敵だね。

「公の謝罪は既に陛下よりいただいた。
それに対しての賠償もグレインビル侯爵家とで話をつけただろう。
まだ幼い妹への両陛下からの個人的な書簡など負担でしかないからいらん。
何かしら用があれば侯爵家を通すよう父上から伝えて貰ったぞ、ギディ?」

 バルトス義兄様、優しい顔立ちなのに無表情とか、威圧感がはんぱないのもギャップ萌えだね。

「でもさあ、本当に良いの?
禁止期間5年て事は社交界デビューしないって事だよ?」

 そんな義兄様達を歯牙にもかけないギディ様もある意味ステキデスネ。

「表向きは生死関係なく14才になればデビューした事になりましたから問題ありませんよ?」

 ギディ様の背に隠れるように王子2人は背中を丸くしながら話に割って入る機会をうかがっている。
特にルド様はものすっごく何か言いたそうだね。

 いつの間にか僕の脇を固める義兄様達に気圧されて出て来れないみたいで何よりだ。

 そうだよ、5年後の僕は16才。
社交界デビューは14才で、国王陛下夫妻にご挨拶して社交界の仲間入りを果たすデビュタント式を経て社交界での仲間入りを認められる。
だけど各家庭の緒事情や急な病気や怪我で参加できない場合もある。
だから16才の冬までの3回がデビュタント式に出られる期間。
それ以降はデビュタントとしては式に出られない。

 つまり16才の春まではロイヤルと接近しない=デビュタント式には出ない。
そういう意思表示をこちらはしてる。

 だけどそれをさせるのはあんな事があったからこそ王家として体面が悪い。
デビュタントって貴族令息や令嬢にとっては人生の門出だし、ほら、僕一応高位貴族の端くれじゃない?
こっちからそれを放棄するっていうのは王家の面子がね。

 だから公式行事であった王妃様のお茶会にグレインビル侯爵家として出席した事、その上で体の弱い僕が王子の誘拐の際に体を張って王子を逃がした事を僕自身の功績としてある褒章を出した。

 それが僕の14才の年のデビュタント式には社交界デビューするに相応しい貴族令嬢であるとして、出席の有無は関係なく必ず名を読み上げると公表する事だった。

 貴族令嬢としては異例中の異例だけど、まあ誰も文句は言えない。
実は貴族令息でなら前例がないわけじゃなかったし、同じ事をしろって言われてもそこらの令嬢ではできない。

 僕が羽織ってたはずの、明らかに女物の小さなケープをピチピチに羽織った王子がお馬の長女にまたがってあれだけ目立つ動きしちゃったら、幼い令嬢を見捨てて我先に逃げ出した、なんて悪評も出かねない。
そうなる前に先手を打ったのもあるかもね。

 それに僕はあの時少しばかり生死の境をさ迷い気味だったからさ。
闇の精霊さんのお陰で苦痛はそうでもなかったけどね。
根本的な理由で14才のデビュタント式に参加できない可能性もあったんだよ。

 もちろん僕はその褒章を有り難く受け取ったよ。
公の場で国王陛下夫妻とお話····その上何かしらの思惑に巻き込まれかねない····考えるだけで回避本能が働くに決まってる。

 そりゃ巻き込まれるの前提で動くのもどうかとは思うよ?
だけどルド様の夏のお茶会に続いて今回の王妃様のお茶会でこれだよ?
その上ただでさえこのお城に留まってる間、僕個人にお見合いの釣書がそれなりに送られてきたんだ。
高熱出して生死の境をさ迷ってるって公表されてるにも関わらず、だ。

 だから何を隠そうこれが僕の1番喜んだ褒章だったのは言うまでもない。

 だけど深夜お部屋の暖炉に淡々と釣書をぶちこむニーアの殺気で何回目を覚ましたかわからない。
できる女は怒ったら怖かったんだぞ!
主に僕が!

「でも本当にそんな褒章で良いの?」
「今回の慰謝料代わりのあれこれは充分受け取りました。
公にはなってませんが、王家の私への5年間の接近禁止や不干渉についての約束も何故か広まってます。
しばらくは継続的に収益がでますから、その場だけ支払われる金銭よりずっと良いです。
かといって王家の懐も大きくは痛みませんよね。
王家から侯爵家への落とし所としては双方にとって悪く無かったんじゃないですか?」

 義父様と国王陛下との間で非公式ながら結んだ5年間のロイヤル接近禁止や不干渉は何故か広く知られてるんだ。
その場にいたのは国王陛下夫妻、義父様、リュドガミド公爵、各騎士·魔術師団副団長とその話し合いの場の護衛騎士達だけだったみたいなのにね。
まあ口外するな、とは誰も言わなかったからどう洩れたって仕方ないよね。

 それに王妃様とルド様からは個人資産から、三大筆頭公爵家からも今回の誘拐に巻き込まれた僕への慰労金が支払われた。
これは公表されてるし、僕が何故巻き込まれたのかは周知の事実だから慰労金という名の慰謝料だというのは皆察してる。

 それから僕の刺繍に使ったあの糸とレース編みの商品は継続的に王家で愛用してくれるって。
レイチェル様から感謝のお手紙が届いたよ。

 後はあそこで屋台巡りを楽しんでる従兄様のクラシックシリーズのケーキ。
そこのギディ様にいたくお気に召していただけたみたい。
例の婚約者との逢瀬にも持ってってくれたらしいし、国王陛下夫妻にも紹介してくれて、今では国内外から予約が殺到。
期間限定だった終了期間を後ろに伸ばして対応したんだって。
今は秋冬のクラシックシリーズを考案中だよ。

 それとこれにはフォンデアス領だけでなくカイヤさんの商会もうちの領もなかなかの収益になってるんだ。
あの酸っぱ過ぎてなかなか使い道が無かった実が良いお金になりました。
へへへ。

 あ、それと馬車。
伯母様がいたく気に入ってくれて、王妃様から国王陛下にもそれが伝わったんだった。
すぐに王家の馬車が改良されたみたい。

 痔にも優しい馬車みたいだね、て義父様がちらっと洩らしてたんだけど、そこはあえてつっこまない事にした。
義父様元気かな。
通信用の魔具でほぼ毎日お話ししてるけど、早く帰ってお顔見たいね。

 お尻に優しい馬車の技術的な部分に関してはうちの領のロイヤリティ扱いになってるよ。
今は国王陛下から他の貴族に広まってるみたいだけど····お尻仲間?
ガンさんと庭師のお爺ちゃん達も臨時ボーナス喜んでくれたみたい。
あの馬車内の空間魔法については義兄様がその気にならないから門外不出になるのかな?

 とまあそんな感じで僕個人やグレインビル領の関わる商品が王室御用達商品となったからね。
こちらで宣伝しなくても国内外の貴族達はこぞって買い漁ってくれるし、いくつかの領で収益が上がる結果となった。

 僕は実働は何もなくロイヤリティが懐に入るし、いくつかの領を介してるから労せず分散投資が出来た。
しかも他領だけでなく僕の懇意にする商会にも恩が売れるなんて、素敵か。

 だから王家の裏の思惑には目を瞑ってあげるよ?
ね、ギディアス王太子殿下?
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