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82.私の現実~クラウディアside1

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 お兄様に放逐宣言された私は半ば無理矢理この別荘の使用人に部屋に押し込まれ、あろうことか鍵をかけられましたわ。
これではレイヤード様に許しを請いに行く事すらできません。

 婚姻をもって公爵家から放逐····婚姻すればもう公爵家との関わりを完全に断たれてしまう。
私は恐怖に涙する事しかできませんでした。

 翌日、ほとんど一睡もしていない状態の私は部屋から出され、よりによってあの偽物と同じ馬車で辺境領へ向かう事になりましたわ。
しばらく走ってからこの馬車がとても快適な事に気づきました。
けれどそれ以外は不快な事しかありませんでしたわ。

 馬車に乗る前はお兄様が不安なお顔をされ、レイヤード様や侍女からはまるで私がこの偽物に危害を加えるかのような扱いを受けましたの。
いくら私でも公爵令嬢として偽物とはいえ他家の令嬢に直接的な攻撃など致しませんわ。

「危ないから持ってて」

 なのにあの偽物は私に向けられた事のないレイヤード様の優しげな微笑みと共に渡された護身用らしい魔具を素直に受け取り····思わず睨み付け、けれどそんな人間だと思われているのも悲しくなり、溢れそうになるものが治まるよう視線を外してしまいました。

 その後はお兄様や叔父様に謝罪と許しを得ようと思うものの無視され続けて機会をえられませんでした。

 本来ならば格下の偽物が私の世話をすべきですのに終始無視してこの快適な馬車の中で寛がれ、初めはこれまでの事を忌々しく思い出しておりましたが、今朝の叔父様やレイヤード様の微笑みが私ではなくこの偽物に向けられていた事を思い出しては妬ましくなりましたの。
心が弱くなっていっているのでしょうか。
昨夜のお兄様や叔父様、そして愛しいレイヤード様に、もっと違う言葉で尽くせばわかっていただけたのではないかとあの時の自分を悔いるようになりました。

 結局私は皆を騙しているこの偽物に負けてしまったのです。

「お前は何も言わないのね」

 せめてこの2人きりの時間の間に私の前でだけでも化けの皮を剥がしてやりたい。
無力感に苛まれる自分を叱咤しつつも口調は弱々しくなっているのを自覚してしまいます。
何とか睨みつけながら本音を暴こうと言葉を続けていきましたわ。

「私は家族からフォンデアス公爵令嬢については何も聞かされておりませんでした。
そのような状況では何かを思う事そのものがありませんよ」

 なのにすました返事ばかりで苛立ちがつのり、つい怒鳴ってしまいました。
それが良かったのか····。

「レイヤード兄様に付きまとった事、決まってもいない婚約者に成りすまそうとなさった事はグレインビル侯爵令嬢として、また兄様の義妹として今後は許しません。
調査資料を昨夜確認し、事実確認は致しました。
もちろんフォンデアス公爵家、グレインビル侯爵家の約3年前に取り交わした示談書にも目を通しております。
公爵令嬢であってもその言動はグレインビル侯爵家やその侯爵令息を社会的に貶めておりましたし、我が国の貴族法にも抵触しておりました。
家格が上であれば何でも許される事ではございません。
だから示談書という不名誉な公爵家からの書類が我が侯爵家に存在するんですよ」

 やっと本音を吐き出しましたわね。
けれど偽物があげ連ねる言葉に私がした事があまりに常識から外れているのを自覚しそうになって、もうやめて欲しくて睨みつけて、けれど止める素振りもなく最後は品位にかけているとまで言われてカッとなってしまいましたの。

「お前のような元は卑しい捨て子などに!」

 自分で張り上げた声に、けれどこれは人として言うできではないとこの時はまだどこかで冷静な自分もいましたが、徐々にそんな自分は消えていきました。
淡々と話すこの偽物の言葉が、今まで見ない振りをしていた物を突きつけてきます。

「だから何です。
元は何であれ、今の私はグレインビル侯爵閣下が認めたグレインビル侯爵令嬢です。
当然の事ですが、家格など関係なくたかが一介の令嬢が貴族家当主の決定に口を挟む権利はございません。
これが最下位とされる男爵家であっても同じです。
そのような事を平気でなさっているのですから、そう思われるのは仕方がない事でしょうね。
さしずめあなたは考え違いも甚だしい傲慢な小娘です」
「たかが一介の!?
傲慢な小娘!?」
「はい、私も貴方もたかが一介の貴族令嬢でしかありません。
貴族の身分など当主の意向でどうとでもなる、何の権限もない、先祖や親の威光に縋っているだけの貴族の娘なのですよ、フォンデアス公爵令嬢。
あなた自身に公の力や権限が何かございまして?
そのように考え違いも甚だしいから当主の気持ち1つで嫁がされるのです」

 もう止めて!
知りたくない!
自分の置かれた現実を受け入れたくないのに!!

 なのにこの偽物は更に辛辣に、そして淡々と私の現実を告げていくのです。
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