82 / 491
5
81.馬車の中の辛辣2
しおりを挟む
「フォンデアス公爵家という家名にただ胡坐をかき、自身の能力や公爵令嬢、いえ、ただの貴族令嬢としての立場や考え方すら身に着けていらっしゃらない。
貴族として、貴女の大好きな公爵家という家門のご令嬢として、貴女はどのように義務を果たされていたのです?
そもそもフォンデアス公爵家が侯爵家から陞爵するに至った経緯や政治的な思惑、その為に治める領がその時どのような状態でその後の当主達が何をしてここ10年でやっと安定してきたのか正しく理解していらっしゃいますか?
外部から招いた講師なら詳しい実情までは知らなかったかもしれませんが、私が数年前に伯父様に一言尋ねればすぐに答えは返ってきましたから秘匿されてはいらっしゃらないでしょう。
公爵令嬢である貴女につけられた講師ならば事前に伯父様から聞いていた可能性もあるでしょうが、貴女はどちらにも自分から聞いてはいらっしゃらないのですね。
聞けば貴女にも教えて下さったでしょうし、従兄様ももちろん知ってらっしゃいます。
実際淑女教育以外にも学ばれていたとお聞きしていますから、表向きな話だけでなく実情を知る機会はありましたよね」
そう告げると今度はカッと彼女の顔が怒りで赤くなった。
「馬鹿にしないでちょうだい!
お父様にお聞きした事はありませんが、貴族令嬢は淑女教育以外の教育は講師が教える範囲で十分でしてよ!
わざわざ聞く必要などありませんわ!」
やれやれ、今度はちゃんと聞かなかった事を棚に上げて反論してきちゃった。
「単なる貴族令嬢であればそれもよろしいかもしれません。
しかし貴女は公爵令嬢という立場を常に声高々に誇示されていたのではありませんか?
それに貴族令嬢の最低限の義務で良いとするのなら、権利もその立場をわきまえたものにされるべきでしょう。
そうすれば前回や今回のような貴女のせいで起きた損害は発生しませんでした」
「損害って····」
端的な現実的言葉に口ごもる。
でもまだ自覚が足りなそうなお顔してるね。
「領主の一族からすれば前回の慰謝料や今回の直接売上にも関わる取引額の上乗せなど完全なる損害でしょう。
損害というより、むしろこれは人災ですね。
ただの淑女教育の範囲内での義務を主張なさるのならば、少なくともでしゃばらずに口をつぐんで会話の内容に耳を傾けるよう淑女としての言動を取って然るべきでした。
そうすれば従兄様はなぜ私にあの新作のケーキを手土産として持っていらっしゃったのか、なぜ感想を求めたのかその意味も理解でき、こちらに知らせもなく訪れた他家でその場をかき乱した上に他家の娘を罵った挙げ句、次期公爵閣下の最終決定を格下の私達の前で告げさせるなんていう恥を晒さす現実はどう間違っても引き寄せなかったでしょう」
僕の言葉に反論できず、唇を噛んで俯いた。
「あなたの与えた人災に対しての補填と今後の人災を予防する行為が早急な貴女の婚姻です。
自分が与えた人災に対しての義務は果たされるべきでしょう?」
今度は再び青くなっていく。
お顔の色がころころ変わって面白いなぁ。
「そもそも貴女が暇さえあれば手当たり次第に出席しようとするお茶会や夜会に出る為の衣装、家同士の勢力関係など考慮もせずに自分をもてはやす者だけを招くお茶会を開きたいと要望するならその費用。
それには税を納める領民の働きが不可欠だとお分かりですか?」
ちなみに意味のない自己満足のお茶会は公爵夫人が企画の段階で握り潰したんだって。
従兄様情報だよ。
「そもそも何故グレインビル侯爵家の次男になど嫁ごうと思われたのです。
貴女が産まれてからこれまでに消費した領民の捻出した領税に対して発生する領主の令嬢としての義務を果たさずして何が公爵令嬢なのですか?
まさかとは思いますが、義務と権利は別々の物なんて子供じみたお考えをお持ちでしたか?
そんなだからあなたは数日以内に私より家格の劣る伯爵夫人へと身分が変わるはめになるんです」
うん、どんどん顔色の悪さに拍車がかかっているから怒りの方は落ち着いたのかな。
「ただし、私個人への貴女の悪感情については正直興味はありません」
「····は?」
僕の言葉が理解できなかったんだろうけど、随分間抜けな声だね。
義母様の面影が従兄様と違ってあまりなくて良かったよ。
義母様に似てたら僕にも罪悪感が生まれちゃう。
「だって、私にとって貴方はどうでも良い他人なのですもの。
公爵令嬢だろうと平民だろうと関係ありません。
私は貴方に全く興味がない。
そもそも普段何の交流も無い人間が私を悪し様に誹謗中傷したからといって、なぜ私が一々気にするのです?
貴女が私を忌み嫌おうが、逆に晴天の霹靂で大好きになろうが正直どうでもよいのです。
自分が思う分だけ相手も同じように自分を思うなんて考えているならそんな気持ちの悪い考えは改めた方がよろしいですよ。
炉辺の石と同じです。
石が自分にどんな感情を向けるかなんて気にしますか?
貴方が思うほど私の中の貴方の存在は大きくありません。
むしろ存在すらしていないんですよ」
僕は水筒のお茶を1口飲んで言葉を理解しただろう顔色を白くした令嬢ににっこり微笑んでむ。
「私が個人的な何かを貴女に思ったとすればそれは、相手にすらされていないのに勝手に暴走して自爆したんだなあ、くらいのものです。
今そこで通り過ぎているただの風景よりどうでも良い他人事なんですよ」
令嬢からは完全に表情が抜け落ちた。
そうして僕は再び本に目を落とした。
貴族として、貴女の大好きな公爵家という家門のご令嬢として、貴女はどのように義務を果たされていたのです?
そもそもフォンデアス公爵家が侯爵家から陞爵するに至った経緯や政治的な思惑、その為に治める領がその時どのような状態でその後の当主達が何をしてここ10年でやっと安定してきたのか正しく理解していらっしゃいますか?
外部から招いた講師なら詳しい実情までは知らなかったかもしれませんが、私が数年前に伯父様に一言尋ねればすぐに答えは返ってきましたから秘匿されてはいらっしゃらないでしょう。
公爵令嬢である貴女につけられた講師ならば事前に伯父様から聞いていた可能性もあるでしょうが、貴女はどちらにも自分から聞いてはいらっしゃらないのですね。
聞けば貴女にも教えて下さったでしょうし、従兄様ももちろん知ってらっしゃいます。
実際淑女教育以外にも学ばれていたとお聞きしていますから、表向きな話だけでなく実情を知る機会はありましたよね」
そう告げると今度はカッと彼女の顔が怒りで赤くなった。
「馬鹿にしないでちょうだい!
お父様にお聞きした事はありませんが、貴族令嬢は淑女教育以外の教育は講師が教える範囲で十分でしてよ!
わざわざ聞く必要などありませんわ!」
やれやれ、今度はちゃんと聞かなかった事を棚に上げて反論してきちゃった。
「単なる貴族令嬢であればそれもよろしいかもしれません。
しかし貴女は公爵令嬢という立場を常に声高々に誇示されていたのではありませんか?
それに貴族令嬢の最低限の義務で良いとするのなら、権利もその立場をわきまえたものにされるべきでしょう。
そうすれば前回や今回のような貴女のせいで起きた損害は発生しませんでした」
「損害って····」
端的な現実的言葉に口ごもる。
でもまだ自覚が足りなそうなお顔してるね。
「領主の一族からすれば前回の慰謝料や今回の直接売上にも関わる取引額の上乗せなど完全なる損害でしょう。
損害というより、むしろこれは人災ですね。
ただの淑女教育の範囲内での義務を主張なさるのならば、少なくともでしゃばらずに口をつぐんで会話の内容に耳を傾けるよう淑女としての言動を取って然るべきでした。
そうすれば従兄様はなぜ私にあの新作のケーキを手土産として持っていらっしゃったのか、なぜ感想を求めたのかその意味も理解でき、こちらに知らせもなく訪れた他家でその場をかき乱した上に他家の娘を罵った挙げ句、次期公爵閣下の最終決定を格下の私達の前で告げさせるなんていう恥を晒さす現実はどう間違っても引き寄せなかったでしょう」
僕の言葉に反論できず、唇を噛んで俯いた。
「あなたの与えた人災に対しての補填と今後の人災を予防する行為が早急な貴女の婚姻です。
自分が与えた人災に対しての義務は果たされるべきでしょう?」
今度は再び青くなっていく。
お顔の色がころころ変わって面白いなぁ。
「そもそも貴女が暇さえあれば手当たり次第に出席しようとするお茶会や夜会に出る為の衣装、家同士の勢力関係など考慮もせずに自分をもてはやす者だけを招くお茶会を開きたいと要望するならその費用。
それには税を納める領民の働きが不可欠だとお分かりですか?」
ちなみに意味のない自己満足のお茶会は公爵夫人が企画の段階で握り潰したんだって。
従兄様情報だよ。
「そもそも何故グレインビル侯爵家の次男になど嫁ごうと思われたのです。
貴女が産まれてからこれまでに消費した領民の捻出した領税に対して発生する領主の令嬢としての義務を果たさずして何が公爵令嬢なのですか?
まさかとは思いますが、義務と権利は別々の物なんて子供じみたお考えをお持ちでしたか?
そんなだからあなたは数日以内に私より家格の劣る伯爵夫人へと身分が変わるはめになるんです」
うん、どんどん顔色の悪さに拍車がかかっているから怒りの方は落ち着いたのかな。
「ただし、私個人への貴女の悪感情については正直興味はありません」
「····は?」
僕の言葉が理解できなかったんだろうけど、随分間抜けな声だね。
義母様の面影が従兄様と違ってあまりなくて良かったよ。
義母様に似てたら僕にも罪悪感が生まれちゃう。
「だって、私にとって貴方はどうでも良い他人なのですもの。
公爵令嬢だろうと平民だろうと関係ありません。
私は貴方に全く興味がない。
そもそも普段何の交流も無い人間が私を悪し様に誹謗中傷したからといって、なぜ私が一々気にするのです?
貴女が私を忌み嫌おうが、逆に晴天の霹靂で大好きになろうが正直どうでもよいのです。
自分が思う分だけ相手も同じように自分を思うなんて考えているならそんな気持ちの悪い考えは改めた方がよろしいですよ。
炉辺の石と同じです。
石が自分にどんな感情を向けるかなんて気にしますか?
貴方が思うほど私の中の貴方の存在は大きくありません。
むしろ存在すらしていないんですよ」
僕は水筒のお茶を1口飲んで言葉を理解しただろう顔色を白くした令嬢ににっこり微笑んでむ。
「私が個人的な何かを貴女に思ったとすればそれは、相手にすらされていないのに勝手に暴走して自爆したんだなあ、くらいのものです。
今そこで通り過ぎているただの風景よりどうでも良い他人事なんですよ」
令嬢からは完全に表情が抜け落ちた。
そうして僕は再び本に目を落とした。
6
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる