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74.偽物令嬢~クラウディアside3

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 そうして少しずつ外堀をある程度埋めていったある日、私は意を決してレイヤード様に助言と私という価値ある存在が味方になると、お慕いしているとお話ししたのです。
もちろん感激して愛を囁き返していただけると、そう信じておりました。
なのに····。

『君の兄であり、僕の従兄のガウディードに免じて今まで君の暴言や淑女らしからぬ振る舞いに耐えていたけれどもう限界。
そもそも君に何の価値があるの?
公爵家だから何?
君自身は何の貢献もしてない、価値なんか微塵もない世間知らずな小娘でしょ。
それに僕の妹を馬鹿にする割には勉強も魔術も公爵家の人間としては中途半端も甚だしい上に低レベルだよね。
そんな価値のない君が僕の大事な妹にくだらない独りよがりの貴族の価値観を押し付けるのも、嘘くさい噂で傷つけるのも大概にしてくれないかな。
とにかく気持ち悪いから二度と僕に近づかないで。
君と婚約なんてあるわけないでしょう。
はっきり言って君と話してるだけで虫唾が走るよ。
それと次に妹に何かしたら潰すよ。
噂1つ流すだけでも許さない。
この件はグレインビル家当主から君の家に直接報告してもらう。
泣いても僕には不快感しか与えないから無駄だ。
家族が止めてくれてる内にくだらないお嬢様の戯れはやめておくべきだったね』

 見た事のない凍り付くような表情と言葉にその場で崩れ落ちて号泣してしまいました。
そんな私を1人残して振り返りもせずに立ち去ってしまう愛おしい人。
誰もいない場所を選んで呼び出した私は本当に良い働きをしたと咽び泣きながら思いましたが、その後の事は今思い出しても悪夢としか言えませんわ。

 夜だというのに学園の女子寮に憤怒の形相のお兄様が迎えに来るし、連れ帰られてからは全く笑いかけてくれない両親から、もう2度とグレインビル家に関わらないという念書を書けと命令されました。

 最初は実の家族からのあまりの仕打ちに誤魔化そうとしましたが、レイヤード様が提出されたのだろう録画と録音用の魔具にあの時の一部始終が記録されていて家族の怒りに火を注いでしまいました。

 結局今回の騒動は我が公爵家からの正式な慰謝料の支払いと私が書いた念書で双方ので示談となりました。
私には侯爵家当主である叔父様への可愛い姪としての個人的な弁明の機会すら与えられませんでしたわ。
私は失恋の痛手と双方の家からの制裁であの偽物への憎しみを募らせながらもあえなく封印する事となったのです。

 そう、去年の大会で何年ぶりかに見た偽物令嬢、いえ、偽物が叔父様やレイヤード様達ご兄妹にそれはそれは大事にされているのを見せつけられたあの時までは····。

 何故ですの?!
私の方があんな卑しい娘よりも家柄、血筋、魔力、教育、全てにおいて秀でていますのに!
あのような無害な顔をして、いえ、そんな顔だからこそお優しいグレインビル家の皆様を騙しているに違いありません!
そうして今まで抑圧されていた分、私の中の憎しみはあの偽物へと一気に膨れ上がったのです。

 しかし勿論前回と同じ轍は踏みませんわ。
幸い私には公爵令嬢という立場上、取り巻きが多いのですもの。
取り巻きの、更にその下の下の者に人を使わせ、注意を促す手紙やあの偽物がやっているだろう悪行の証言をするよう計らいましたわ。

 それが功を奏したのでしょう。
今回の狩猟祭で直接偽物と対峙する機会を得ましたの。

 あの日以来、私と顔を合わせても何か言いたげな目をしながらも何もおっしゃって下さらなくなったお父様とお兄様。
全く笑いかけて下さる事もなくなり、学園がお休みの日の淑女教育を厳しい事で有名な先生に変え、ただお茶会や夜会の参加の際の必要最低限のお話ししかしなくなったお母様。

 そんな家族が揃うお父様の執務室に呼び出され、叔父様とレイヤード様が狩猟に出ている間に催される王妃様のお茶会に参加する間、あの偽物がお母様と私の側にいると聞かされたのです。
初めは何をおっしゃられたのか理解できず、その言葉を理解した時は天にも昇る気持ちになりました。
ようやく直接化けの皮を剥がす機会を得たのです!

「これはグレインビル侯爵家との信頼を取り戻す最後の機会だよ、クラウディア。
それからお前のこれまでの言動は既に知られていると心得るんだ。
その上で心からの反省をし、レイヤードにも心からの謝罪をした上で淑女として慎んだ言動を取れるなら我が公爵家令嬢とし王妃様の茶会に参加する事を許そう」

 当然わかっておりましてよ、お父様。
これまであの偽物に後手に回りました事は当然レイヤード様に謝罪しなければなりません。
けれど次こそ必ず秘密裏に証拠を作り、断罪してやりますわ!

「勿論ですわ、お父様。
このクラウディアにお任せ下さいませ。
公爵家の令嬢として恥ずかしくない振る舞いを致しますわ」

 お父様を安心させる為、にこりと淑女らしい微笑みを向けて差し上げると成長した娘に照れたのか視線を外されました。
照れ屋さんですわね。

「クラウディア、本当にわかって····」
「クラウディアの覚悟はわかりました。
それではもし今回の狩猟祭が終わるまでに公爵家を汚す行いをした時は、すぐさま我が家に益のある貴族に嫁がせます。
無論、グレインビル家ではありません。
下位貴族ながら経営の手腕は見事な分家であるコード伯爵の後妻です。
よろしいですね」
「····は?」

 お兄様の言葉を遮り、お母様が驚く事を言い放ちました。
私は言われた事が理解できず、間の抜けた声をだしてしまいました。

「もう1度申します。
此度の狩猟祭で再び我が公爵家の名を汚せば分家のコード伯爵の後妻にします。
公爵令嬢としての務めは果たせなくとも貴族令嬢としての最低限の務めは果たしなさい。
それともあなたはグレインビル家、ひいてはレイヤードともう1度縁を結ぶ機会を棒に振りますか?」

 そんな····まさか····何故ですの、お母様。

 すがる思いでお父様とお兄様に目を向けますが、お2人共にただ痛ましい顔をなさるだけ。
誰も否定してくれませんでした。
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