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43.競技場から今まで~sideゼストゥウェル5

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「リューイ、私はどれほど愚かだったのだろう」
「····今さらですか」
「····酷い····」

 リューイは昔から口数が少ない上に常に無表情で笑った顔の想像がつかない。
顔立ちは中性的で美しい部類に入るだろう。
身の回りに無頓着で髪を伸ばしっ放しな時は女性と間違えられ、獣人の新人騎士にナンパされる事もあったけど、獣人だけに背が高く、細身だが体格もしっかりしているのに、解せない。

「そなたは何故こうなったかわかるか?」

 リューイにだけは精霊殿が見えているのもあって、少女の事はふせて精霊殿の状況を伝えている。
藁にもすがるとはこういう事を言うのだろう。

「····さぁ」

 くっ、藁は藁だったか。
彼は基本的に何にも興味がない!
もちろん俺や精霊殿だけじゃなく、恐らく自分にすらもだ。
どんな状況でも守ってくれた最強の護衛だけど、側近と言えないのはそのせいだが、もう少し興味を持ってくれても良いのではないだろうか。

 明日は学園が休みだった為、私は離宮のいつもの部屋の前で脱力して膝をつきそうになったが、何とか気力で持ちこたえ、リューイと別れた。
リューイは隣の部屋を用意されている。

 部屋に戻ってしばらくギディアス殿との会話を反芻していた。

 無関係のあの少女に死の危険を招いた。
魔力もなく、体の弱いあの少女に。
直接の謝罪など受けたいわけがない。
あの大会の時レイヤード=グレインビルが手加減無しに放った雷撃は、間違いなく彼の怒りそのものだったのだろう。

 このような私が王位継承権をもつなど、おこがましいにもほどがあると、痛感せざるをえない。
もし弟が生きていれば····1つ下の頭脳明晰な弟だった。
当時まだ4才だったけど、まさに神童。
魔力は私よりずっと少くても、4才にして自国以外の言葉や文字を覚え、王族としての誇りを持っていた。
精霊も見えていて、あの指輪の石をどこからか見つけたのも弟だ。
誰よりも王位継承に近いとされ、私はそんな弟が誇らしかった。

 ザルハード国には建国の聖女の伝説がある。
諸説あるが、弟はその石を眺めながら教えてくれた。

「聖女様ははじめ闇と光の精霊王様と一緒にこの国にきたんだって。
だけどながい争いで民の心は争いをやめられないほど傷つけあってたから、闇の精霊王様に心を癒してもらったんだって。
その後他の国にも争いが起こって、聖女様は光の精霊王様をこの国をまとめられる強い信念を持った指導者に預けて、争いがある国に行ったんだって。
だからね、教会は光の精霊が一番すばらしいって言うけど、本当に民の心を癒したのは闇の精霊王様で、建国の精霊は闇の精霊王様でもあるんだよ」

 舌足らずな言葉で精一杯教えてくれた。
そして弟はある日の深夜、私の目の前で刺客に刺されて息を引き取った。

「に、さま····せいれ····さま、まもっ、て····おとも、だ、ちに、な····」

 弟が最後に遺した言葉だ。
弟は私に黒曜石を手渡しながらこと切れた。
その後はリューイが来て一瞬で刺客10人を殺した。
私が精霊殿が見えるようになったのは、弟の葬儀を終えて改めて黒曜石を握りしめた時だった。

 ふと我に返ると日は落ち、部屋は暗くなっていた。
部屋に明かりをつけ、懐に入れていた小箱から指輪を取り出し、絶句した。

 指輪の黒曜石が、光を失いくすんでいた。
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