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2.お茶会後

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「アリー、今日のお茶会は災難だったみたいだね」

「お帰りなさいませ、レイヤード兄様。
何かお聞きになったの?」

 自室のドアがノックされ、帰宅した6才上の義兄にい様が入ってきてソファに座る。
ちなみに僕は9才ということになっていて、10才上にもう1人義兄様がいる。

 ベッドで寝転んで読んでいた本に栞を挟んで脇机に置き、僕は向かい合うようにベッドへ腰掛ける。
彼がこの部屋に来て話す時の互いの定位置だ。

 実は殿下の笑いが落ち着いた後、彼は痺れていた僕の腕に掌を当てて治癒魔法をかけてくれていた。
赤黒い指の跡もなくなり、何事もなくお茶会をこなして帰ってこれた。

 あの兄妹との一部始終を見ていた殿下には見なかった事にしてとお願いしておいたし、当然僕は誰にも話していない。
少なくとも今日は国立魔法技術学園にいたはずの義兄様が、何故こんなことを言ってきたのだろう。
からかわれる事はよくあるから、かまかけかな?

「ふふ、いつもの話し方でかまわないよ。
もうお茶会用の言葉の練習はしなくて良いでしょ。
帰る時に殿下と生徒会室で鉢合わせてね。
ブルグル兄妹との事を聞いた。
ねぇ、アリー。
黙っておくつもりだったのかな?」
「····からかわれる事はよくあることだし、その程度で僕が動じないのは兄様も分かってるでしょ」

 お言葉に甘えて素の話し方にする。
あの兄妹の名前が出たなら、もめた程度の話は聞いたのだろう。

「実害がなくて戯れ言程度なら黙っててもかまわないよ。
でも、今回のは違う。
相手の家格が上であっても、侯爵家として黙っておくことじゃない」

 白金の前髪で隠れ気味の切れ長な赤い目に剣呑さが宿る。
眉目秀麗な顔が眉をしかめてそんな目するとちょっと怖いよ。
それにしても殿下のやつ。

「兄様が怒ってくれてるのは嬉しいけど、それこそ家格が上の公爵家でしょ?
証拠もなく文句をつければ単なる言いがかりと取られ····兄様?」

 義兄様が不意にニッコリ笑う。
先ほどまでの顔つきからのこの笑顔。
世の令嬢と一部のBL信者はギャップ萌えを感じるのだろうけど、目が笑ってないよね。

「僕が今朝アリーに渡したネックレスだけど、ちゃんと着けてくれてたみたいだね」
「····えっと、映像保護の魔具だったとか····」

 あらかじめ予想して罠張っといたのか。
殿下関係なしでどのみちバレてたやつだった。

 ちなみに魔具とは、何かしらの魔法が発動させられるよう魔力を込めておく魔石入りの道具のことだ。
今回のネックレスはあちらの世界でいうところの小型監視カメラかな。

「アリーに危害が及ぶ何かが起こったら、自動でその風景を記録保存するようにしてあったんだ。
ちなみにアリーがネックレスを外したら自動で僕の手元に転移するように細工もしといたから、映像は確認済みだよ」

 あ、それで魔石が3個ついてたのか。
今の技術では魔石1つに指示魔法は1つしか付与できないらしい。
あのネックレスへの付与は記録、保存、転移の3つとみた。

「僕達兄妹の目の色と同じ色見のシンプルな3連石だったから、気に入ってたのに」

 ポソリと呟く。
ちょっと不貞腐れた顔になるのは許して欲しい。
少人数の殿下と同年代の子供ばかりとはいえ、主催者側の目的に初めて1人で出席するお茶会だったこともあり、少なからず緊張していた。
そんな僕に義兄様が用意してくれた緑、紫、赤の順に配列された石は優しい義兄様達が見守ってくれてるようで単純に9才の子供として嬉しかった。

 まさか本当に、物理的な意味で見守ってるだなんて。
過保護も過ぎれば一種のストーカーだよ?

「う、ごめんね。
何事もなければアリーがそつなくお茶会をこなして帰ってくるって信じてたよ?
でも子供ばかりだったからこそ、暴力とか心配だったんだ。
実際バカブルの兄がやらかしたでしょ?
怒ってる?
大好きだよ、アリー」

 ソファから立ち上がり、大股3歩で近づいたと思えば床に膝立ちになって僕をぎゅうぎゅう抱き締めた。
細身の15才ながらもすでに背が170中頃に到達したこの義兄様に対して僕は小柄な9才····膝立ちだろうが圧が違う。

「むぅ····兄様苦しい。
怒ってないよ。
ただ先に言っておいて欲しかっ、ちょっ、ホントに絞まってるってば!」
「本当に怒ってない?
ありがとう、アリー!」

義兄あによ、わざとか?!
とりあえず脇をコショコショとくすぐって離してもらった。

「くすぐるの反則。
映像は父上に確認してもらってから抗議してもらうから。
今日はもうおやすみ、アリー」
「おやすみなさい、兄様」

 仮にもブルグル公爵家は由緒ある上位貴族だ。
これまで何度も家格の昇格を打診されてきたとはいえ、侯爵家では証拠があってもやり方1つで不利になる。
特に今回は盗撮だから、義父とう様に頼むべきだろう。

「無駄に大事になっちゃった」

 大きくため息をついて、そのままベッドで眠りについた。
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