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1.お茶会

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「君みたいな魔力0令嬢が、かの誉れ高い侯爵家の息女とは嘆かわしい」
「とはいえお情けの貰われ子。
仕方ありませんわ」

 明らかな蔑みに僕は····振り返らず無視して歩調を早める。
反動で首元の色違いの3連石のネックレスがしゃらしゃらと揺れる。

「ちょっと、聞こえておりますの!」
「下等な人間が何様だ!」

(えー、子供の相手?
めんどくさい)

 もうじき夏に移行する頃の麗らかな陽気、少し先にはガーデンパーティーに集う10~15才くらいの男女が談笑している。
ちらほらとケモミミ、ケモ尻尾の獣人ちゃんもいる。
モフりたいが、侯爵令嬢として招待を受けたので我慢だ。

 薔薇の庭園というだけあって、庭まであと少しのこの距離でも薔薇のほのかな香りが鼻をくすぐる。
声から察するに、後ろの2人も庭の子供達と同じ年頃だろう。
大人は主催者であるこの国の王と王妃の両陛下、給仕中の使用人以外ほとんどいない。
トイレから戻ろうとして物陰でからまれた僕への助けは絶望的か。

 そのまま会場へと続く庭に一歩踏み出そうとした所で、手首を掴まれた。

「聴力まで0か!」
「生意気でしてよ!」

 仕方なく振り返る。
随分身長差を感じるから年上だろうし、男女差もあってか掴まれた手首がちょっと痛い。

「どちらさま?」

 今気づきました的な、とぼけた顔してコテリと首を傾ける。

「くっ····ちょっと顔がこましな方だからって調子にのらないで!」
「君みたいな後ろ楯と顔だけの者がこの国の王子主催のパーティーに参加するなど、恥をしれ!」

 うん、とりあえず顔を褒められたようだ。

「お褒めいただいてありがとうございます。
それでは失礼致します」

 ニコリと笑って捕まれたままの手を引いてみるが、離す気配がない。
更に力をこめてくる。
これ、魔力で筋力増強したよね····まぁまぁ痛くなってきてるんだけど。

「このまますぐに帰るなら、手を離してやる」
「殿下にお声かけする方が不敬でしてよ!」

 金髪青目の男の子がニヤリと笑う。
同じ色見の女の子は敵意むき出しだ。

「主催される殿下へお声かけせず帰る事は許されませんし、手を離されたくないのであれば、このままあちらまでお付き合いいただけますか?」

 あくまで無邪気にニコニコと話す。
つうかそろそろ指先痺れてきてるんだけどなぁ。

「お前ごときがふざけるな!
ブルグル公爵家令息の僕に下等な女をエスコートしろと言うのか!」
「将来有望なレイヤード様の義妹とはいえ、顔だけのあなたが家格も上の公爵家令息であるお兄様に何て物言いなの!」

(えー、顔も名前も知らない上にそっちからからんできといてそれ言うの?)

「そういえば、突然の事態に自己紹介を忘れておりました。
グレインビル侯爵家令嬢、アリアチェリーナ=グレインビルと申します。
社交界デビューもしておらず、自領より出ることもない為どなたか存じ上げず失礼致しました」

 右手は捕まれているため左手だけドレスの裾をもって略式挨拶だ。
頭を下げた時に両サイドの銀髪が顔にかかるのがうざったい。

「よろしいですわ。
私はブルグル公爵家令嬢、レイチェル=ブルグルでしてよ」

「····」

「····お兄様?」

「····はっ!
お、俺はアルノルド=ブルグルだ!」

 顔を上げる時にやや上目使いにふわりと微笑めば、思ったようにバカがひっかかる。
紫暗の瞳が光に反射してアメジストのように光ったことだろう。
僕は自分の顔を過大評価はしないが、過小評価もしない主義だ。
魔力0でこうした実力行使の愚か者への遭遇率が高い分、使える武器は使うに限る。
前世享年40オーバー、中身を合わせれば300才を軽くオーバーだ。

(あざとさは武器!)

「あの····お力が強くて····」

へにゃりと八の字眉で目を附せる。

「····くっ!
下等な者は弱いから嫌いだ!
····あ、後で冷やしておけ」

「え?!お兄様?!」

 やっと離したか。
手首にはくっきり指の跡。
それを見てそそくさと脇をすり抜け会場に行く兄を妹が追いかける。

「いやいや、せめて冷却か治癒魔法かけろ~。
ん?
····できないとか?
···うっわ、あり得る」

 ついついそれを目で追いかけながらため息混じりに自己完結。

「ぶはっ!」

 後ろから吹き出す声にびくりと視線を移す。
黒髪に金目の将来ワイルド系に進みそうな美少年が護衛らしき騎士達と共に忽然と姿を現した。
認知阻害の魔法使ってたのかな。
気配がなかったから、透明化じゃないよね。

「初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルと申します、殿下」

 今度は正式なカーテシーを取る。
昨日2番目の義兄に見せてもらった姿絵で確認したから間違いない。
ルドルフ=アドライド第二王子、13才だ。
高貴な身分の彼はお腹をよじらせ絶賛大爆笑中だが、認識させたって事はこっちから挨拶しても良いよね。
涙目で残念になってるお顔は見なかった事にしよう。

「ふっ、くっ····よ、よい。
楽にせ、よ····くくっ····」

 許可が出て顔を上げるがなかなか笑いのツボから抜け出せないご様子。
僕はもちろんポーカーフェイスのニッコリ顔を張り付かせたままだ。

 何がそんなにツボにはまったのかはわからないが、これがその後この王子にからまれ続ける引き金になったと思い知るのは、まだ少し先の話。
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