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20.お出かけ
しおりを挟む数日後。
リビングの大きな窓からさんさんと降り注ぐお日さまの光を浴びて、ふわふわ心地よい気持ちでエルの腕に抱かれていた。
「外出の話なんですが」
その言葉に、フワフワしていた頭がすっきりする。
「カイルと話し合いまして、私の式に使うドレスや飾りを見に行ってはどうかという話になりました。
街歩きは無理ですが、少しでも楽しんで貰えたらな、と思いまして」
今、私の目はキラッキラになってると思う。
外出ってだけでも楽しみなのに、ドレス選びだよ!?
女の子の憧れだー!!
「絶対楽しいじゃない!いつ行くの?」
私の熱意に気圧されたように、エルが少し体を引く。
「私たちのメンツ的に、物理攻撃に対して弱いですから、騎士を手配します。3.4日かかると思いますよ」
「物理攻撃って……そんなたいそうなこと心配しなくても大丈夫じゃない?」
「イズミルは私たちの大切な奥さんですからね。万全の体制でないと」
そういうものか……
カイルもめちゃくちゃ心配してたしね。
「騎士って、エスサーシャさんみたいな人だよね?」
「そうです。彼のこと、気に入りましたか?」
「いや、別に?単純に知ってる騎士さんが1人しかいないから」
「カイルの結婚式の時にいた方ですよね?カイルに聞いておきますね」
「別に他の人でもいいよ?ホントに」
**********
お出かけ当日。
カイルとエル、それからカイルの結婚式の時に会ったエスサーシャさん。
ツィリムはお仕事があって来れないからってたくさん防御魔術を仕掛けてくれた。
行き先は前にエルが言ってたように、ドレスの仕立て屋さん。
結婚式のドレスは、旦那さんが選んだものを着る時と、自分で選ぶ時があるみたい。
女の人は人生で何度も結婚式をするけど男の人はだいたい1回しかしないから、基本的には旦那さんの希望通りに式をするみたい。
だから、カイルのときみたいに全部決めてもらって奥さんは式に出るだけ、ってこともある。
エルは私が自分でドレスを選んだ方がいいって思ってるし、なんなら私にエルの衣装も選んで欲しいんだって。
結婚式の準備はすごく楽しいって聞いたことあるし、楽しみだなー!
ワクワク顔で馬車の窓から外を眺めていたら、それをずっとエルはみてたみたい。
「イズミルは本当に、無邪気で好奇心旺盛ですよね。子猫みたいで可愛いですよ」
砂糖漬けのセリフと共に髪に口付ける。
ただの日常生活でそんな少女マンガみたいなことしなくていいよ!
私の心臓がもたないから!
「こんなに可愛い顔を見れるのに外に出れないようになっていて本当に申し訳ないです。
なるべくいろんなところに行けるように頑張りますから」
「私は基本インドア派だし、あんまり長い間じゃなかったら家の間でも平気だから。あんまり無理しないでね。
でも今日はすごく楽しい!
エルにとっては別に普通の街だろうけど、私にとってはすごく珍しいものなんだよ?」
興奮気味に喋っていると、向かい側に座ってるカイルとエスサーシャさんに笑われた……
子供っぽいと思われたよね……
***
お店の中はとってもシックで上品な雰囲気だった。
ふかふかの絨毯とオールドブラウンの内装、右の壁一面に布ロールが並んでいて、左側にはきらびやかなドレスを着たマネキンが並んでいる。
「うわあすごく綺麗!!」
思わずそう呟いた。
照明に照らされてキラキラしているドレスに夢中になる。
自分がなれないヒールをはいているのも忘れて。
ふかふかの絨毯と高いヒールのせいで、少しよろめいてしまった。
大したことはないんだけど、エルとカイルが両側から支えてくれる。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ありがとう」
「足をくじいてないか?」
「大丈夫、大したことないし、昔から運動神経にはあんまり自信がないから」
マヌケな自分に苦笑いしてると
「私の腕を持っててください」
そう言って左腕を差し出された。
エスコートされるお姫様みたいでちょっと恥ずかしいんだけど……
こけたのは自分だからしょうがないか。
「イズミルはどんなドレスがいいですか?」
「白いドレスかなぁ」
「なぜ?」
「私の故郷のウエディングドレスは白いのよ。だから白いドレスにちょっと憧れてて」
「えっ!?」
カイルの悲鳴に近いような驚きの声。
「イズミルは白いドレスが良かったのか……」
いや、そんなに落ち込まなくても。
「カイルの時の赤いドレスもすごく綺麗で好きだったよ。
それに私はカイルの選んでくれたドレスで良かったなって思ってるし」
「それならいいが……」
あんまり納得いってなさそうな様子のカイル。
要らないこと言っちゃったかな。
「それにエルの髪は白っぽいから、隣に居ててバランスいいかなって思って。
エル色に近づけるならちょっとグレーかアイボリーに寄ったみたいなくすんだ白の方がいいかな?」
「いえ、イズミルはとても明るい人ですから、真っ白なドレスの方が似合うと思いますよ」
「こちらの生地などいかがでしょうか?」
お店の人が生地を出してきてくれる。
サラサラしていて肌触りの良い生地だ。
「うん、こんな感じの色がいいなぁ。
どんな形のドレスかによって使う生地変わりますよね?」
「はい、そうですね。お色がある程度決まりましたら、ドレスのフォルムを決めましょうか」
店員さんに促されるけど。
「すいません、ちょっと待ってください」
カイルと、つい来てきてくれているエスサーシャさんの方に振り返る。
「多分今から結構悩むと思うんだよね。
時間かかるし暇なら付き合わなくて大丈夫だからね?好きにしてて」
女の買い物に付き合わされるのは嫌だろうからね。
「そんなわけないじゃないですか!何のためにイズミルに来てもらってると思ってるんですか?」
「なんで?」
キョトンとしてるとカイルが説明してくれる。
「結婚したら自分の妻と一緒に式の衣装を選びたいと言う男は結構多いぞ?
俺は逆に自分の選んだものを身につけてほしいと思う方だが」
「私はイズミルに選んで欲しいんですよ!ほら、こんなのも似合うんじゃないですか?」
むしろ私よりエルの方がテンション高いかもしれない。
そんなに楽しんでくれるなら私だってすごく嬉しいし、それからはとっかえひっかえドレスを試着していた。
ここでも魔術がすごくて、ドレスの色が魔術で書き換えられるのだ。
お店にあるのはサンプルで、魔術をかけることで好きな色に変えられる。
それを着てみて気に入ったものを仕立てるのだという。
「レンタルじゃないんだ?」
ウエディングドレスなんてレンタルが普通だと思ってたのに。
「夫の身分や収入なんかにもよるがレンタルはあまり多くないな。あるにはあるが」
「それにイズミルは今後、神殿や王宮に行く機会もあると思いますし、そういう時にも使えますのでドレスは必要ですから」
なるほど、ウエディングドレスとより成人式の振袖みたいだな。
使う回数が多いからレンタルより買う方が安い、みたいな。
まだまだ続くドレス選び。
本当にどれも綺麗で迷ってしまう。
オフショルダーのマーメイドドレスは綺麗で気に入ってるんだけど、私の童顔のせいでちょっと似合ってないかも。
「これどうかな?」
Aラインのザ・ウエディングドレスって感じのドレス。
光沢のある生地の上からオーガンジーのような透ける生地が二枚重ねられていて、それぞれに複雑な刺繍がされている。
銀糸の刺繍がキラキラ輝いてとってもきれい。
「それにこの裾の感じ、お日様の下で見るエルの髪みたいだなって思って」
一気にエルの頬が赤くなる
「あんまり外には出たことないけど、リビングのソファに座ってる時に光があたった時のエルの髪、キラキラしててすごく好きだから」
エルは真っ赤になって視線を彷徨わせる。
「ありがとうございます……私は、自分の容姿はあまり好きではありませんが、イズミルがそう言ってくれると、とても嬉しい、です」
こんなに改まって真っ赤になられると、私の方が照れちゃうよ……
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