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第二章 ヴァンパイアの呪い
27 クラリス『呪術館、半端ないって……』
しおりを挟む「……というわけで、勇者様は呪われてませんか? 呪術師さん」
「ああ、これは完全に呪われているな」
「やっぱり、ですわね」
うむ、とつぶやく呪術師は、俺のほうを見つめた。
その瞳は、氷のように透明なブルーで、すべてを見透かしているようだ。
キャンディの話を、じっと真剣に聞いていたが……。
──いったい、俺にどんな呪いがあるっていうんだよ、まったく。
ここは、呪術館という場所で、なんと宮殿なみにでかい。
しかも王都の一等地に、デカデカと建っている。
実はこの建物は、前から気になっていた物件だった。
金が貯まったら買いたいなぁ、いつか俺も宮殿に住みたい……。
なんて、憧れていた建物だったのだが。
──まさか、このクソガキが住んでいたなんてな……。
呪術師ヌコマールは、紫の髪をかきあげると耳にかける。
その仕草は美しく、ガキのくせに色気あるな、と思った。
その他の特徴としては、少しだけ耳が尖っている。
おそらく、生まれは人間と魔族の混合種。
エルフあたりと間違いを起こした、人間のガキってところか?
あと不思議なのは、彼女の着ている服だ。
何なんだこれ? 薄っぺらくて、ふんわりとして、優雅に見える。
ただ動いているだけなのに、まるで踊っているようだ。
ふと、呪術師がまばたきをする。
そのまつ毛が長くて、俺は見惚れてしまった。
だが、興奮はしない。
心臓はいたって平常のまま、トクトクと鼓動している。
俺の身体は、やはりおかしい。いつもなら、ドキドキするはずなのに。
──だが、これが呪いというのなら、何とかしたい!
俺は、頭を下げた。
「呪術師、頼む! 俺の呪いを祓ってくれないか? 金ならいくらでもだす」
「金はいらない」
「え?」
「見ての通り、俺はもう金持ちだ。キララの友達なら無料で構わない」
俺は、あたりを見回した。
敷き詰められた絨毯の色は、王者らしく赤く染まってる。
たしかに、宮殿のなかにあるのは、絢爛豪華な調度品の数々。
宝玉のついた家具、神々が描かれた絵画、壁にかけられた伝説の武器。
クリスタルソードにゴールデンハンマー。
あっちには異国の武器が、ズラリと並んでいる。
呪術師って仕事は、かなり儲かっているようだ。
──もしかして最強職って、呪術師なのかもしれない。
俺は、手を叩いて喜んだ。
「おお! 無料なのはありがたい」
「……にしても、ひどい呪いだな、俺と互角ぐらい」
「ん? 君も呪われているのか?」
「ああ、女に触れると気絶する呪いさ」
「おお、似てるぞ! 俺のほうは、女に触れても元気がでない呪いだぜ」
うむ、と言った呪術師は、俺のほうを向いて目を光らせた。
──な、なんだよ?
こいつに見られた瞬間、背中に氷を入れられたみたいに寒気がする。
もしかして、恐ろしい悪魔が俺に取り憑いているんじゃ……。
「この呪縛霊は、ヴァンパイアだな」
「……まじか!」
「ああ、おまえの背後には、血だらけのヴァンパイアがいるぞ」
ギャァァァァ! と怯えた俺は、頭を抱えてしまった。
不恰好に見えたかいキャンディ、すまん、これが今の俺なんだ。
かっこいい勇者は、ここにはいない。
ここにいるのは、ただの呪われた、哀れな男だ、笑えるだろ?
「そうかそうか、ヴァンパイアの呪いか、ははは」
呪術師は、そう言って笑っている。
キャンディは、泣きそうな顔をしていた。
すると呪術師は、人差し指を立てると、俺をにらんだ。
その眼光は、やはり氷のように冷たい。
「ひとつ、質問させてくれ」
「ん?」
「呪いが解けたら、おまえはどんな人生をおくる?」
「そりゃあ、前みたいにスローライフだな」
「スローライフとは?」
「冒険して、女を抱きまくって、美味い飯を食って、寝る! こんな感じだ」
「おいおいおいおいおいおいおい!」
「な、何だよ……?」
「おまえ、よく聞けよ! 世の中にはな、女を抱けない男もいるんだぞぉ、このイケメンヤロー!」
「……?」
「モテない男はな、モテるために人一倍努力してんだよ!」
「……ん?」
「行ったこともない美容院で髪を切ったり、ムダ毛を処理したり、痩せるサプリメントを飲んだり、女を口説くメール術をネットで買って読んだり、もう大変なんだからな!」
「……え、何の話?」
「それなのに、おまえらイケメンときたら、なんの努力もしないで、ホイホイ女を抱きやがって! クソー!」
「……おい、呪術師? どした?」
「呪われてわかったかー! おまえにモテない男の気持ちがー!」
「……えっと、それはつまり女を抱けない男の気持ちってことか?」
「そうだ!」
「ああ、死にたくなったさ」
「そうだろ! 死にたくなるほどの絶望が、おまえの心に宿っただろ!」
「ああ、絶望したさ」
「よし! じゃあ呪縛霊となったヴァンパイアを具現化してやろう」
「え? そんなことできるのか?」
「ああ、こっちにこい!」
そう言った呪術師は、ふわりと服の袖を浮かせると立ち上がった。
歩みを進める、その方向には、太陽の光り輝く中庭がある。
そこは、だだっ広い空間のお花畑となっていた。
聞こえるのは、子どもの遊ぶ声。鳥に餌をあげているようだ。
──ん?
ピンク髪の女の子がいた。
あの子は、たしか……。
「キララ?」
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