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第二章 ヴァンパイアの呪い

25 クラリス『スローライフしたい!』

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「マコ、リク、ちょっといいか?」

 宿に戻ってくるなり、俺は二人を呼んだ。
 荷造りしていたようで、部屋はスッキリしている。
 チェックアウトまで、あと一時間……。

 ──やれるだけやろう。

 というのも、ついさっき。
 ニナと、男と女のいい感じになったが、不完全燃焼で終わり。
 俺は、今、猛烈にやりたい気分なのだ! 

「なんっすか?」

 と聞いてくるリクの赤い唇に、俺はいきなりキスをした。
 んんっ、と少し抵抗を見せたが、すぐに俺を受け入れる。
 ああん、とだらしない声が、リクの喉から漏れ始めた。

「ああん……クラリス、朝っぱらから何やってんの?」

 そうやって、俺をからかうマコが、そばに寄ってくる。
 昨夜は、剣が折れてヘコんでいたが、寝たら気が晴れたようだ。
 俺は手を伸ばして、マコを抱き寄せる。
 
「あんっ、強引じゃん……すきっ」

 マコが、甘えた声を出す。
 俺はリクからキスを離し、今度はマコにキス。
 
「やだぁ、もっとしてほしいっす」

 と言って、もじもじするリク。
 
「じゃあ、触ってくれ」

 俺はリクの手を握ると、自分の身体に持ってこさせる。
 まるで蛇のように、リクの手はみだらに動き始めた。

「あ、でもいいんすか? あたいたちだけで……」
「何が?」
「ミイヒがいないと、あいつ嫉妬するっすよ。来るまで待つっすか?」
「ん? ミイヒのやつ、今どこにいる?」
「温泉っす」
「……いや、いいや、このままやろう」

 おけっす、と言ったマコは、俺にすり寄る。
 だが、俺の身体は反応しない。
 変だな、心臓が、まったくドキドキしない。
 上目使いのリクも、おかしい、と思ったのだろう。
 俺の胸に、耳をあてた。
 
「あれ、あれ? ドキドキしてないっすね……あれぇ、おかしいっすね」

 俺の首にキスをしていた、マコが唇を離し、
 
「どうしたのぉ?」

 と、リクに聞く。いや、俺に聞けよ。
 するとリクは、シュン……と残念そうな顔をした。

「いや、クラリスが元気にならないっす」
「え? クラリス……昨日、一人でやった?」

 マコの質問に、してないしてない、と否定した俺は首を振った。
 病気じゃない? とマコはさっぱりと言う。
 
「まじっすか?」

 と言ったリクが、俺から離れる。
 
 ──もうちょっと、してくれたら元気になったかな……。

「クラリス、あそこを直に回復魔法してもらったらどうっすか? ミイヒに」
「え? ミイヒにそんなこと頼んだら、ぶん殴られそうだが……」
「んん~じゃあ、温泉に浮かんでいる気持ち悪い形のフルーツあるっすよね」
「ああ、モッコリのことか」
「それっす! モッコリ、きゃはっ! それ食べると、ヤバいらしいっすよ」
「何が?」
「グンって感じらしいっす!」

 そう言ったリクは、拳をつくると腕を曲げてガッツポーズ。
 わかった! と俺は言って駆け出す。
 急いで部屋を出て、温泉に向かう。
 幸い、朝の男湯には誰も入っていなかった。
 俺はすぐに服を脱ぎ捨て、湯船にダイブした。
 
「うぉぉぉ!」

 思いっきり、ジャブジャブと顔を洗い、潜りまくった。
 だが、なんの変化もない。
 そこで、浮かんでいる、変な形のフルーツをつかむ。
 
 ──こうなったら食ってやる!
 
 迷うことなく、口に運んだ。
 むしゃ、むしゃ、と音をあげて貪り食う。
 
「くっせー!」

 その味は最低で、匂いも生臭い。
 温泉に入っていたから、余計に不味いのだろう。
 でも、食った。食ったけど……。
 
「ダメだ……なんの変化もない……」

 その瞬間、村長の言葉が、頭のなかで再生された。
 
『モッコリを食べて元気にならなかったら、病気ですね。ワハハ」

 ──まじか、まじか、まじかぁぁぁ!
 
 焦りまくった俺は、温泉のなかで仁王立ちした。
 
「どうしよう……俺、おかしくなっちまった」

 だが、まだワンチャンある。
 たしかリクが言うには、ミイヒが温泉に入っているらしい。
 
「よし、行こう……」

 他の女がいたとしも、知ったことか。
 むしろ裸の女の悲鳴に興奮して、元気になるかもしれない。
 俺は、風魔法を使って飛び上がった。
 女湯はすぐ隣にあった。石垣を飛び越え、侵入する。
 そして上空で、ミイヒの姿を探すと……。
 
 ──いた!
 
 ミイヒはひとりで湯船に浸かって、ふぅ、と息を吐いている。
 俺は、速攻で飛んで、湯船に飛び込んだ。
 これは、ふつうに違法な犯罪行為だが、ここは田舎の村。
 聖騎士はいないから、捕まることはないだろう。
 もっとも、俺の方が強いから逃げ切るが……。
 てなことを考えながら、俺はミイヒの前に現れた。
 
「……え、なに入ってきてるんですか? クラリス……」
「すまん、ちょっと試したくて!」
「は? は?」
「ミイヒ、ここでやらせろ」
「え! ここ女湯ですよぉぉぉ!」
「いいから、やらせろ」
「キャァァァ!」
 
 ミイヒの強烈な拳が、俺の顔面をえぐる。
 グガッ! と血を吐いた俺は、湯船の上に浮かんだ。

「バッカじゃないのっ!」

 ぷんぷん、と怒ったミイヒは、湯船からあがっていく。
 俺はそのまま、たゆたう湯に身をまかせながら、青い空を見上げた。
 
 ──ああ、ダメだ……ぜんぜん興奮しない……。
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