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第二章 ヴァンパイアの呪い
22 クラリス『報奨金をもらいに来た』
しおりを挟む「勇者様、娘のストーカーを退治してくれて、ありがとうございます」
村長はそう言って、頭を下げた。
頭には相変わらず、変な帽子をかぶっている。
──これ、本当になんなんだ?
俺は朝から、村長の家を訪ねていた。報奨金をもらうためだ。
と、いうのも昨夜、ヴァンパイアを退治してから、すぐに向かおうとした。
だが、マコが宿に帰って寝たいと言う。
剣が折れたことがショックだったようで、精神的に不安定らしい。
リクもミイヒもそれに賛同。はやく温泉に入って寝たいと言う。
一方、俺のほうも、なんだか身体がダルい。
昨夜は温泉に入らず、部屋のシャワーで済ませて寝た。
きっと調子が悪いのは、久しぶりに強い魔族を殺したからだろう。
そういえば、醜いヴァンパイアだったな。やつは死に際に……。
『血を吸って死にたい……』
そう言い残して、灰になった。
恐ろしいほど、この世に未練があるのだろう。
ミイヒも話していたが。
ふつうなら、ヴァンパイアはイケメンなので、女の血を好きなだけ吸える。
だが、やつはブサイクだった。きっと、一滴も血を吸えず、死んで……。
いや、俺が殺してしまったのだが。なんとも後味が悪い殺しだぜ、まったく。
──大戦乱世は、遠い昔のこと。
当時は、魔獣や魔族なんて、人間が殺して当たり前の世界だったらしい。
だが、今は平和となり、悪さをした魔の者しか殺せない。
そのような救済措置としての法律が、整備されているわけだ。
これは、神が王に告げたことだ。
もちろん、なかには性格の優しい魔獣や魔族がいるわけで。
例えば、猫耳族やハーフエルフなどがそれだ。
だから、なんでもかんでも人間が殺していいなんて、何様だ? ってこと。
神様も、人間のやることすべてを許しては、くれないだろう。
「勇者様、勇者様? 大丈夫ですかな?」
ふと、村長の言葉で我にかえる。
あ、大丈夫です、と俺はささやくように言った。
殺したものに雑念を抱くのはまずい……さあ、もう忘れよう。
「昨夜のストーカーは、かなり巨悪な魔族でした」
「そうですか、本当にありがとうございます。おかげで娘も安心して歩けます」
「でも、夜道はくれぐれも気をつけるように言っておいてください、村長の娘さんは美しいですから、変な虫がよってきやすいでしょう」
「実はそうなんです。もういっそ婚約者がいたらいいと思っておるのですが、なかなか……」
「なるほど」
「はい、勇者様のような強い男性が婚約者なら安心なのですがね~」
「……それは、もったいないお言葉、光栄です」
「わはは、まあ冗談はこれくらいにして、報奨金のほうを……」
よっこいしょ、と言った村長は、足元に置いてある袋を持ちあげた。
「一万ペンラです」
「ありがとうございます。平和のために使わせていただきます」
「いやぁ、本当に素晴らしい青年だ、わはは」
いえいえ、と言って俺は頭を下げ、袋をいただく。
袋のなかをのぞけば、たしかに、千ペンラ金貨が十枚入っていた。
そして俺は踵を返し、出口に向かう。その途中、村長から、
「あ! ぜひフルーツ温泉に入ってくださいねー」
と、言われた。俺は、ここぞ、とばかりに口を開く。
「あの、その帽子って温泉に浮かんでいるフルーツですよね?」
「んあ? これは村の名物、モッコリです」
「モッコリ? それ、果物の名前ですか?」
「はい、元気になれますよ!」
「え? 元気って?」
「モッコリを食べてアレが元気にならなかったら、病気ですね。ワハハ」
「……あはは、アレ……ね」
俺は微笑みで返し、家を出た。
「うーん! 清々しい朝だな」
森の朝というのは、空気が綺麗だ。
人であふれる王都では、味わうことができない、自然の香りがする。
風に揺れる木々、鳥の鳴き声、川のせせらぎ。
そのどれもが、俺の耳を優しくなでてくれる。
──さて、もうひとつ用事を済ませるか。
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