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第二章 ヴァンパイアの呪い

15 キララ『鉱山に着いた』

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「ここですわね、鉱山は……」
「うん、あっちに冒険者がいる」
「話しかけてみましょう」
「……え? キャンディ……本当に人見知りしないね」
「とうぜんですわ、舞踏会で何人もの王子と挨拶していますから……」
「す、すげぇー」

 ズンズン、と歩くキャンディは、迷うことなく冒険者のところへ。
 冒険者は、二人のおじさんだった。
 宝石を発掘していると、夢中になるのだろう。
 こんにちは、とキャンディが挨拶すると、驚いて振り向いた。
 いきなり現れたスタイル抜群の美女に、目を丸くしている。
 宝石はとれますか? とキャンディは、ニッコリと笑って質問をした。
 悩殺、だったみたい。おじさんたちの顔がゆるむ。
 
「うーん、もうここには小さい宝石しかないな」
「向こうに行くと、大きい宝石があるかもしれないが……」
「おいおい、あっちはやめといたほうがええ」
「あ! そうだな。そうだった……あはは」

 おじさんが、あっち、と言って顔を向いたほうを、キャンディが指さした。
 
「あっちは、なぜいけないのですか?」
「このあいだ、オークに食われた冒険者がいたんだ」
「後ろからバグって……ああ、怖い怖い」

 震えるおじさんの一人が、持っていたロックハンマーを落としてしまう。
 するとすかさず、キャンディが拾ってあげる。
 何か見えたのだろうか? おじさんの顔が赤い。
 
「悪いことは言わないから、あっちはやめて、おじさんたちと他に行こう」
「もっといい場所があるんだ」
「……あら?」

 数秒間、おじさんたちと目と目を合わせるキャンディ。
 にっこりと笑うおじさんの二人は、行こう行こうとせかす。
 キャンディは、おーほほほ、と笑った。
 
「お断りしますわ」

 え? とぼやくおじさん二人は、あっけにとられた顔をする。

「行きましょう! キララさん」
「あ、うん」

 おい! あっちはオークがいるって! と後ろから怒鳴り声がする。
 だけど、キャンディは知らん顔。
 ズンズン、と歩幅が広くなり、スピードをあげる。
 しだいに、森の茂みが強くなっていった。本当にこっちで大丈夫かな?
 
「これは、獣道ですわね」
「うん、キャンディー大丈夫?」
「足に草があたりますわ……わたくし飛びます」
「わかった」
「今日は、よく魔力を使いわすわ~よく寝れそう」

 ふわりと浮くキャンディ。風が強く吹いた。
 そのため、近くにいた小動物が、ザッと草を分けて逃げ出していく。
 驚かせてしまったみたい。ごめんね。
 私は、制服の下に黒タイツをはいている。
 多少の草があたっても平気。ズンズン、と前に進む。
 すると、道が開けてきた。
 
「ここ、ですわね」
「うん、山肌が見える。あと、誰かが岩を掘った形跡があるよ」
「……おや? あれを見てっキララさん!」
「ん?」

 キャンディが、サッと指をさす。
 そこには一つの岩があり、じっと見てみると、キラリと何かが光った!
 
「あ、なんかある!」
「掘ってみましょう!」

 よっしゃ! と気合を入れた私たちは、夢中で掘った。
 掘って、掘って、掘りまくった。
 最初、軽いと思っていたロックハンマーが、だんだん重く感じる。
 筋肉疲労だ。こんなとき、プリーズマッスルしたいんだけど。
 あいにく、今の私は魔法が使えない。ちくしょー。
 
「キララさん、わたくしにお任せください!」
「おお! いけいけ、筋肉姫ー!」

 うぉぉぉ! と叫んだキャンディの筋肉が、ムキムキっと盛り上がった。
 魔力が彼女の身体をめぐり、破壊的な力があふれている。
 ギンギン、カンカン、と岩を砕く音が響く。
 すると、次の瞬間。
 規則正しかったリズムが狂ってきて、ガキン! と大きな金属音が響いた。
 
「掘れましたわ!」

 おお! と喜びつつ宝石を見てみると、神秘的な輝きを放っていた。
 
「こ、これは……クリスタルですわ、キララさん!」
「すっごーい!」
「エクセレント……この大きさはレア。百万ペンラはしますわ」
「ひゃ、ひゃ、百万!」

 やったー! 喜びに舞う私は、キャンディに抱きついた。
 
「勇者様も喜びますわ~袋にしまっておきますぅ~」
「うんうん」

 と、浮かれているのも束の間。
 グルルルル、という魔獣のうなり声があがる。
 ん? と思い、振り返ると、鋭い牙が光っていた。
 
「あら、オークですわ」
「うん」

 ドス黒い肌、筋骨隆々の身体、それに伸びっぱなしの赤い髪。
 オークは、怖い顔をしてこちらを、きつくにらんでいる。
 戦闘態勢に入っているのだろう。
 両手を広げ、爪をより伸ばし、威嚇している。
 
「逃げましょう、キララさん」

 うん、と私が言った、その瞬間だった。
 ザザザッと草をかき分ける音が、そこらじゅうからあがる。
 オークの群れが、私たちを食おうと集まったみたい。
 おじさんたちの注意は、あたったようだ。
 
「どうやら、囲まれたようですわね」
「うん、逃げ道を作るためには、何匹か倒すしかない」
「では、わたくしが開きますわ!」

 ──風魔法 ウィンドカッター
 
 ザンッ、と草が切れる音が響く。
 キャンディーの手から、切れ味の恐ろしい風圧が放出している。
 まるで剣を振るうように、風のカッターが飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
 切れているのは、草だけではない。
 オークの一匹、二匹が切り刻まれ、ばったりと倒れた。
 
「あそこですわっ!」

 キャンディが開いた逃げ道を、私は迷うことなく走る。
 マコとリクが噂していた通り、オークの足は遅い。
 簡単に振り切ることができた。
 もう、大丈夫だ。そう思った、そのとき。
 
 ドーーン!
 
 と爆音をあげて、岩石が、どこからともなく落ちてきた。
 振動のショックで、私たちは身動きがとれない。
 バキバキ、と森の木々がなぎ倒されている激しい音。
 それに、耳をつんざく魔獣の鳴き声がこだまする。
 
「グォォォォ!」
 
 大地が揺れている。
 自然からの地震だと思いたいが、そうではない。
 荒ぶる魔獣が、こちらに接近しているのだろう。

「キララさん! ちょっとヤバそうな展開ですわ……」
「え? どうしたの?」
「わたくし、残りの魔力が少なくなっておりますの」
「はあ?」
「おーほほほ! 補助魔法って気を使いますわねぇ」
「ごめーん、キャンディー! 私のせいでー!」

 おーほほほ! と笑うキャンディ。
 私は、手を合わせた。ごめん、ごめーん!
 だけど、いくら謝っても現状は何も変わらない。
 ドズン、ドスン、と危険な足音が近づいている。
 
 ──逃げなきゃ!

 そう思ったとき。 

「キャァァァ!」

 と叫ぶキャンディの後ろから、大きな黒い影が飛び出してきた。
 
 ──キングオーク、鬼の王
 
 凄まじい迫力だ。その巨体は、森の木々よりも遥かに大きい。
 腕を振れば、一瞬で太い巨木が、バンッと弾け飛ぶ。
 キャンディの額から、ひとしずくの汗が流れた。
 こんな真剣な顔をしている姫を見るのは、二回目だ。
 私と戦闘したときの、あの目をしている。
 だけど、魔法が使えない私は、蚊帳の外。
 キングオークとキャンディの戦闘を、見守ることしかできなかった。
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