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第二章 ヴァンパイアの呪い

13 クラリス『村長の家、金持ちだな』

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 スワロウテイルの村長は、変な帽子をかぶっていた。
 よく見ると、村の看板にあった、いびつな果物にそっくりだ。
 
 ──なんか、まずそうだな……。

 村長は、五十代のおじさんで、人が良さそう。 
 ミイヒが、王都ペンライトから来ました、と名乗る。
 すると、どうぞ、どうぞ、と言って家に招き入れてくれた。
 応接室の椅子にすすめられ、座る。
 しばらくして、若い女性がお茶を持ってきた。
 
「桃の香りをつけた緑茶です」

 綺麗な娘だった。
 彼女の横顔を見つめていると、ミイヒが目を細めて、俺をにらむ。
 
 ──ん? ミイヒが嫉妬してるな……。

 俺は、とっさに目線を村長にうつす。

「娘のニナです」

 村長がそう紹介すると、娘は、ペコリと頭を下げた。
 そして顔を上げた瞬間、ドキッとした。
 柔らかそうな茶髪を、丁寧に編み込んでいる。とてもいい女だ。
 こんな田舎にいるのは、もったいない。
 王都に行って、夜の街で働けば、すぐにナンバーワンになれそう。
 どうぞ、と言って茶をすすめる村長が、さらに話を続けた。

「王都にクエストを出したのは、娘のことなんです」
「と、いうと?」

 茶をすすっていたミイヒが、合いの手をうつ。
 俺も、ひとくち茶を飲む。
 うまい、と思った。お茶もミイヒも。
 思い返すと、ミイヒは変なやつだ。
 前職は、王宮の書記官で、王の左腕として活躍していたらしい。
 だが王と喧嘩して、辞めて、現在はうちの勇者パーティにいる。
 よく、処刑にならなかったな、と思う。
 ミイヒの特徴は、頭がキレて、口も達者。
 だから、こういう聞き込み調査は、すべて任せてある。
 
 ──ふぅわぁぁ、俺はお茶でも飲んでよう。

「つまり、夜道を歩いていたニナさんは、男に襲われそうになった……ということですね?」

 ミイヒの質問に、はい、と言ったニナはうなずいたあと、さらに続けた。

「襲ってきたのは、昨夜が初めてだったんですけど、以前から、つけられているような気がしていたんです」
「ふむふむ、襲ってきた人物の心当たりはありますか?」
「……さぁ、わかりません」

 ニナが首をかしげていると、横から村長が口をはさむ。

「あのぉ、わしが言うのもなんですが、娘のニナは村一番の美人でして、心当たりは山のようにあります」
「なるほど、たしかにニナさんの美貌は目立ちますね」
「わしが思うに、ストーカーの正体は、鉱山に行く冒険者かな、と思うとるんですが?」
「その可能性はあります。ただ特定するのは、よくありません」
「いやぁ、人口百人も満たない村で、そんな悪いやつは、おらん、と思ってもいるのですが……」
「それは偏見です。優しい人が、魔が刺す、ということもありますから」
「ほんなら、村の者がストーカーだと言うんですかぁ?」
「それを捜査するのが、わたしの仕事です」

 ふぅ、と一息つくミイヒは、もうひとくち茶をすすった。
 俺、村長、ニナは、ミイヒの次の言葉を待つ。

「ニナさん。つけられているのは、いつも夜ですか?」
「はい。そうです」
「なぜ、夜に外出を?」
「店から帰宅しているのです」
「どんな店?」
「宝石店です。祖母が経営していまして、そのお手伝いをしてます」
「ふむふむ、今日もいかれますか?」
「はい。いきます」

 わかりました、と言ったミイヒは、ポンっと手を叩いた。

「ではニナさん、襲われましょう」
「……え?」
「わざと襲われるんです、ストーカーから」
「えええええ!」

 ミイヒのとんでもない言葉に、驚きを隠せないニナと村長。
 ここで、俺は話に割り込んだ。

「それって、おとり捜査ってやつだよな?」

 ご名答! とミイヒは、元気よく言った。
 だが、村長は浮かない表情で、変な帽子を触る。

「そっ、そんなことして……娘は大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 積極的に襲われちゃいましょう! そうすれば、すぐに犯人が見つかる」
「……?」
「では、ニナさん着替えましょう。その花柄のワンピースを脱いでください」
「えええええ! なんで? なんで?」
「そのワンピを使うからです。ほら、手伝いましょうか?」
「……いえ、自分で脱ぎます」

 ぬぎぬぎ、とワンピースを脱ぎ始めるニナ。
 
 ──おいおい、ここで脱ぐのかよ……。後を向いておこう。

 村長は、手を帽子に当てて、悲痛な顔をしている。
 とうぜんだ、娘に何かあったら大変だもんな。
 しかし、ミイヒは得意げな顔で、俺のほうに手を向けた。

「安心しなさい、村の者! ここにおられる勇者クラリス様の剣の腕は、超一流! 見事にストーカーを退治してみせましょう!」

 おお、と村長が感嘆の声をあげた。
 するといきなり、娘を頼みます、と村長は言って、俺の手を握る。
 おいおい、娘と結婚するわけでもないのに、やめてほしい。
 ふと、横を見ると、ニナは腕で身体を隠しながら、クスッと微笑んでいた。
 ミイヒは、ニナさんからワンピースを受け取ると、

「まあ、わたしにまかせてください!」

 と言って、可愛げに片目だけ閉じて、ウィンクするのだった。
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