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第二章 ヴァンパイアの呪い

11 クラリス『空を飛ぶと喉が渇く』

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「あれか、スワロウテイルの村は……」

 遠くから、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 久しぶりの空の旅は、気持ちがいい。
 俺たち勇者パーティは、風魔法を使って空を飛んでいた。
 眼下には、風が吹く涼しげな森のなかに、ひっそりと村が見える。
 温泉があるのだろう。
 家々の煙突から、もくもくと湯気が出ていた。

 
 ──よし、今夜はこの村に泊まろう。で、女たちを喜ばしてやるか……。

 ふと横を見れば、マコの手をとって、リクとミイヒが飛んでいる。
 マコは戦士なので、風魔法が使えない。
 よって魔法使いのリクと僧侶のミイヒが、マコの補助をしているわけだ。
 彼女たちは、俺が面接して選んだ、とびきり美女。
 みんなスタイル抜群で、男なら土下座してデートを申し込むレベル。
 
 ──ああ、勇者ってさいこ~。

 聖騎士を辞めた俺は、次の就職に勇者を選んだ。
 神殿に行くと転職ができる。いや、正確に言うとをもらえる。
 まあ、王都で勇者の適正があるのは、この俺クラリスとハヤテくらいだろう。 
 勇者になって正解だった。
 聖騎士のころにはなかった、がここにはある。
 誰にも縛られず、好きなクエストをやって、女を抱いて、うまい飯を食って寝る。
 まさに、スローライフ悠々自適という言葉が、俺にはあっているのだ。
 だが、そんな俺にも、転機が訪れようとしている。
 それは、彼女の存在だ。

 ──キャンディ姫……。

 なぜか分からないが、王都ペンライトのお姫様は、俺のことが好きなのだ。
 ワンチャン、彼女と結婚すれば、この俺が王様になれるかもしれない。
 だが、こんな女好きの俺のどこがいいのだろう?
 謎すぎるが、姫は勇者パーティに入ってきた。
 しかも、王様のコネを使い、キララとかいう小娘も一緒に連れて。
 俺は、空を飛ぶキャンディとキララのことを見つめた。 

 ──ていうか、キララってやつ、女子大生なのに風魔法も使えないのか?

 この子は、人から補助魔法を受けることに、慣れていないのだろう。
 マコのように、楽しく飛んでいない。
 どこか緊張して、身体が鉛のように硬くなっている。
 ちょっと、ほぐしてやるか……。 

「おい、キララ」
「は、はい!」
「おまえ、本当に魔法学校フロースの大学生か? 本当は中学生だろ?」
「ちゅ、中学生じゃありません! これでも大学生ですが、なにか?」
「なにか? じゃねぇよ。なぜ飛べない? 風魔法での飛行は、初歩的なことだろ?」
「あの、私、私……」
「ん?」
「……」

 この子、メンヘラか? 
 胸は小さいし、ずっと泣きそうな顔してやがる。
 顔はかなり可愛いけど、めんどくさそう。かまちょな女は勘弁。
 
「私、実は、呪われているんです」
「はぁ? 呪いって……なに?」
「よくわかりませんが、私の場合は、呪われて魔法が使えなくなっています」
「え? 風だけじゃなく、魔法ぜんぶ使えないの?」
「はい……残念ながら」
「おいおい、そんなんじゃクエストの足手まといだ」
「……あはは、そうですよねぇ」
「キャンディ、悪いがそのキララって子はうちには無理だ」

 おーほほほ、とキャンディは、いきなり笑い出した。
 ちょっと、怖いよ、この姫様。

「キララさんは、ベビードラゴンを肩に乗せていれば、しっかり魔法が使えるので大丈夫です」
「はあ? なんだそれ?」
「おそらく、ベビードラゴンの親が呪縛霊なのですわ」
「ふぅん、っていうかそれ、なんのドラゴン?」
「伝説の純白ドラゴンですわ」

 な、なんだって! 
 その魔獣の名前は、俺の夢だ。
 いつか純白ドラゴンを狩って、ドラゴンメイルとドラゴンソードをつくる。
 子どもの頃から、ずっと思い描いていた装備だ!

「キララ、純白ドラゴンはどこにいるんだ?」
「……死にましたよ、ソイーネの森で」
「は? し、死んだ?」
「はい、私が殺したようなものです。もっとはやく回復魔法してあげていれば、助かっていたかもしれないから……」

 キララさん、後悔しても過去は変えられませんわ、と言ってキャンディが慰めた。
 あはは、と苦笑いをするキララ。 
 この二人って仲が良いのか、悪いのか、わかりにくいな。

「呪術師によると、ベビードラゴンを育てれば、呪いは祓えるのですわね?」
「うん、そうだよ」
「おーほほほ、そうしましたら、わたくしも全力で応援いたしますわ」
「あ、ありがとう……」

 え? ちょっと待て……。
 ベビードラゴンって昼間に聖騎士に捕まっていた美少女が連れてた魔獣だな。
 となると、あの子が呪術師ってことか。
 よしよし、うまくいけばドラゴン装備が、簡単に手に入るかもしれないぞ。

「おい、キララ」
「なんですか? 勇者さん」
「だったら、そのベビードラゴンを連れて旅をすればいいじゃないか? ベビードラゴンはいまどこにいる?」
「呪術館にいますけど、ダメですよ。魔獣を連れて歩けるのは、テイマーの職に就いていないと法律違反です。王様にバレたら処刑されちゃう」
「あ、そっか……だからハヤテのやつは馬鹿みたいに、あの美少女を捕まえようとしてたのか……逃げれたかな、あの子」
「逃げれたって言うか、聖騎士を倒しましたよ」
「は? 嘘をつくな、ハヤテがいたんだぞ、倒せるわけがない。やつは勇者レベルの力があるんだから」

 倒してましたわ、と横からキャンディが言った。
 マジか……だとしたら、呪術師の力は侮れないな。
 美少女の仮面をかぶった、キングオークかもしれない。
 まあ、なんにしてもベビードラゴン、一度見てみたいものだ。

「勇者様ぁ、そろそろ降りるっすよー!」

 リクが、そう言って舞い下がっていく。
 マコとミイヒが、笑いながら手を振っている。
 ああ、と俺は答えると、彼女たちのあとを追うように落下していった。

 ──なかなか、楽しい旅になりそうだ……。
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