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第二章 ヴァンパイアの呪い

8  キララ『街中で魔法は目立っちゃう』

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「ごめんね、バニーちゃん」
「あ、別に大丈夫ですよ、バニーはまだ見習いですから」
「そうだよねぇ」
「はい。もともと聖騎士になるのはキララ様ですから」
「あはは、でも頑張ってよバニーちゃん、私の代わりにさ」
「はい! できる限りやってみます」
「うんうん」
「じゃあまたね~キララ様ぁ」

 そう言ってニコッと笑うバニーちゃんは、踵を返した。
 聖騎士団のところへ行き、

 ──水魔法、アクアボール

 を落として、団長ハヤテに水をぶっかけている。
 しかも何回も、何回も……。
 きっとヌコさんが、水を飲むことを勧めたから、ああしているのだろう。
 にゃはは、と笑うヌコさん。 

「まあ、ここは目立ちすぎるな……」

 そう言ったヌコさんの言う通り、民たちがこちらを注目している。
 その目はほぼ、キャンディ一点であった。
 王都ペンライトの姫が、街を歩いている。
 民にとっては、けっこうなイベントなのだろう。
 子どもたちは、はしゃぐし、大人も手を叩いて喜んでいる。
 姫の美しさとナイスバディは、国民的アイドルであり、王都ペンライトが平和である象徴なのだ。
 
「じゃあ、ギルド館のなかにある、特訓場に行きましょう」
「ああ、そこならいいね」

 キャンディのアイデアに同意し、私はヌコさんを連れてギルド館におもむく。
 ソイーネは、服のなかに隠した。
 そして、ふと通りかかった道具屋のガラス窓。
 そこに映った自分が、なんだか巨乳に見えて、ちょっと嬉しい。
 
「おーほほほ、おっぱいが大きくなる魔法があったらいいですわね」
「ねぇ、キャンディ、そんな魔法ないよ。ぶっ殺すよ」

 あら、怖い怖い、とキャンディは言いながら歩く。
 後ろから、ふふっ、とぬこさんが鼻で笑った。
 
 ──ああ、恥ずかしい。

 自分でも顔が赤いのがわかる。
 しばらくして、ギルド館に着くと、さっそく特訓場に向かった。
 そこは屋外にある、だだっ広い空間だ。
 そのなかでは、すでに数人の冒険者がいて、それぞれ戦闘の技術を磨いている。
 ファイヤーボールで、遠くにある人形を燃やす、お兄さん。
 風魔法で、丸いボールを浮かす、お姉さん。
 ん? あれは何? 
 座禅を組んで瞑想しているおじさんもいる。まぁ、寝ているだけかも。
 
「キララ、魔法を使ってみろよ」

 わかった、と言った私は、ソイーネを肩に乗せて、詠唱を始めた。
 みるみるうちに、私の身体のまわりに幾何学模様の魔法陣が浮かんで舞う。
 その色は白色で、光魔法の特色をしていた。私の基本魔法はこれ。
 キタキタキター! この感覚だ。

「ちょっと、久しぶりにファイヤーボールしていい?」

 あ、特大のやつ? とキャンディが聞いてくる。
 こくり、と私はうなずいた。
 回転する魔法陣の色が、きらきらと炎の赤に変わっていく。
 
「うぉぉぉぉ!」

 気合を入れた私は、両手を伸ばす。
 狙うのは、そう、遠くにある人形だ。
 ちょうど冒険者のお兄さんが狙っていたけど、気にしない。
 私の魔法は、復活した! もう誰にも止められない!
 
「ファイヤーボール!」

 ブォン! と爆風をあげた火の玉が飛んでいく。
 その大きさは……あ、いけない!
 調子にのって、街を粉砕するほどの大きさをつくってしまった。
 とうぜん、人形はあっというまに燃えつきる。
 そして火球の勢い衰えることなく、特訓場の壁を目指して飛んでいく。
 
「あーあ……あの壁、大丈夫?」

 と、ヌコさんが両手を頭の後で組んで、俺、知らねって顔をしてる。

「街がふっ飛びますわね……」

 とキャンディが、ぼそっと言った瞬間、私は飛んだ。
 文字通り、ひとっ飛びだ。
 肩にのせるソイーネが、必死にしがみつく。
 そして、自分で出した火球を追っかけて、先回りする。
 あれ? 飛行速度もアップしたようだ。
 ぐんぐん、スピードがあがる。
 今ならバニーちゃんに勝てるかも。
 
アイスフォール氷の壁!」

 私は、巨大な氷の壁を、魔法で建造した。我ながらいい出来だ。
 次の瞬間には、ファイヤーボールとぶつかって、相殺されていく。
 プシューと蒸気があがり、特訓場が、まるで温泉のような湯煙に包まれている。
 私は、久しぶりに魔法が使えて、嬉しみが深い。
 ふわりと飛んで、みんなのところに戻った。
 
「おお! キララ、すごいな」

 パチパチ、と拍手するヌコさん。
 
「……キララさん、さらに強くなってますわよ」
「あはは、だよね、自分でも感じた」

 おそらく、と言ったヌコさんは目を閉じる。まつげ、ながい……。
 
「ドラゴンの呪いが願いと変わり、守護となったな」
「へー、やったぁ」

 ガッツポーズをする私に向かって、ヌコさんはにらむ。

「やったぁ、じゃない! キララ」
「え?」
「ソイーネ、ちゃんと育てろよ!」
「えっと、それってずっと一緒にいないといけないの?」
「あたりまえだ! 昨日だってソイーネを寝かせるの大変だったんだからな。飯もいっぱい食うし、俺のおかわりするビーフシチューをぜんぶ食っちまいやがった、こいつ」

 キュキュ、と笑うソイーネ。
 この魔獣は、なんと伝説の純白ドラゴン。
 だけど、今は赤ちゃんだから、トカゲにしか見えない。
 私の服の中に隠れて、もぞもぞする。ちょ、くすぐったいよぉ。
 人肌の温もりが好きなのだろう。
 顔だけひょっこり出して、ヌコさんを見ている。
 
「くそ……女の服の中に入るなんて、羨ましいことを」
「あはは、ヌコさんもそういうことがしたいんだ?」
「……うるさい」
 
 ねぇ、と横から口を挟むキャンディは笑っていた。
 
「二人って付き合っているの?」

 付き合ってない! 私とヌコさんは同時に言った。
 
「「あ!」」

 驚いて見つめ合う、ヌコさんと私。
 また、ハモってしまった。なんでこんなに気が合うんだろう。
 
 ──昨日、会ったばかりなのに……

 もしかしたら、運命の人なのかな?
 なんて、まさかね。うふふ。
 
「とにかく、ソイーネを育てることだ! じゃあな」
「あ、まってよヌコさん!」
「ん?」
「育てるのはいいけど、昼間は預かってて」
「はあ?」
「だって、魔獣と一緖に行動はできないもん」
「……たしかに、あそこまで騒動になるとは思わなかったなぁ」
「そりゃあ、ヌコさんはいいよ。最強の聖騎士だって子ども扱いしちゃうくらい強いんだもん。でも、私は違う、王都に住む、普通の女子大生なんだからさ」
「わかった、じゃあ、昼はうちで預かろう」
「ありがとう」
「でも、夜になったらうちにこいよ。呪術館に」
「え? それって……」
「ああ、うちに住め」
「むりむりむり! 一緒に住むとか、絶対むりだって!」

 キララさん、焦りすぎですわ、と横からキャンディが言う。
 私は、両手をブンブンふって否定する。
 
「これが焦らずにいられる? 男の子から、一緒に住もう、なんて……」
「はい?」
「これって告白じゃん」
「……あらぁ、でも、寮の家賃とか払わなくてすむんじゃなくって?」
「おおっ、たしかに!」
「仕送りしてくださってるキララさんのお父さんもお母さんも、さぞお喜びになるでしょうねぇ」
「……ママ、パパ」
「不束者のキララさんですが、よろしくお願いします」

 そう言ったキャンディが、ヌコさんに向かって頭を下げる。
 キャンディやめて! 結婚するみたいな、ノリになってるから!
 おや? でも満更でもなく、ぽっと顔を赤くするヌコさん。
 ああん、美少年の恥じらい、尊い、尊いよぉ……。
 
「じゃあ、そういうことで……」
「うん」
「昼間は、魔法が使えない……気をつけろよ、キララ」
 
 うん、と私は笑顔で答えた。
 同じように笑顔で返してくれたヌコさんは、特訓場を去っていく。
 彼の肩には、ちょこんとソイーネが乗っている。
 キュキュ、と可愛らしい鳴き声が、いつまでも響いていた。
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