上 下
22 / 54
第二章 ヴァンパイアの呪い

5  キララ『いきなり実戦か』

しおりを挟む

「勇者様ぁ!」

 スタッと地面に着地した瞬間、キャンディはそう言って走り出す。
 私は、いきなりキャンディから手を離されたので、宙で一回転してバランスをとり、スタッと片膝をついて着地した。
 
 ──おや? 

 街道には、人だかりができている。
 民から注目されている先には、勇者パーティーと、それに……。
 
「え? ハヤテ!」

 赤い鎧の正義の味方。数人の聖騎士団が集まっていた。
 リーダーはもちろん団長のハヤテ。ああ、いつ見てもかっこいい……。
 
「おい! ハヤテ! このヴァンパイアは俺たちが先に見つけたんだ」
「……だが、見習いの新人が逃走するヴァンパイアに足を引っ掛けて転がしたのを、私はこの目で見た」

 団長のハヤテは、さわやかにそう言った。
 嘘はつくはずがない。おそらく、聖騎士がミイヒに加勢したのだろう。
 
「はあ? ミイヒ! どうなってんだこれ?」

 勇者クラリスの問いに、ミイヒは真剣な表情で答える。

「わたしがヴァンパイアを追いかけていたら、あの子が物凄いスピードで走り抜けて、ヴァンパイアを蹴り倒したんです」

 そう言ったミイヒの手元は、ピッカピカに光り輝いている。
 
 ──光魔法 フラッシュライト閃光
 
 目が眩んでいるヴァンパイアは、意識が朦朧として、フラフラだ。
 光りに弱いのだろう。立っていられず、倒れてしまった。

 ──ん?

 そぐそばに立っているのは、黒髪の可憐な美少女。
 赤い鎧を装備し、腰には短めの聖剣をたずさえている。
 え? ええ!? こんなところで会えるなんて!
 
「バニーちゃん!」
「キララ様ぁぁ!」
「えっ、えっ!? 何してるの?」
「今日から聖騎士のお仕事体験してまして、今、王都のパトロールしていたところだったんです」
「へー、すごい……ってか、鎧、似合ってるぅ」
「そ、そうですかぁ? バニーにはちょっと重いんですけど、まあ、なんとかやってます」

 よきよき、と褒めながら私は鎧を、ぺたぺた触る。
 羨ましすぎて、おっと、よだれが垂れてきちゃう、やば……。
 
「ハヤテ! このようにトドメを刺したのは、うちのミイヒだ」
「……うむ」
「あーははは! こいつにサインしろ! で、この結婚詐欺師を処刑するがいい」
「……だが、バニーくんがいなかったら逃していただろう?」
「あ? 細かいことはいいんだよ。そいつは新人だろ? まだ正式な聖騎士じゃない」
「……たしかに、だが」
「あーんもう、おまえは昔っから融通が効かないな」
「すまん、クラリス……公務は公平でないと」
「ちっ、じゃあ、もういい。こいつはギルド館で捕らえてもらう」
「待て待て、そういうわけにはいかん」
「あ? やんのか?」

 クラリスはハヤテの顔に、きつくガンを飛ばす。
 すると、横から手を伸ばしてクラリスのことを抑える、マコとリク。
 仲間の女の子たちに世話を焼かせるなんて、クラリスって男は、ぜんぜん周りが見えていない。私はこの男が嫌いだ。たしかに甘いマスクで顔はいい。魔力も剣の実力もそこそこあるのだろう。
 だけど、なんていうのかな。彼からは、安心感というか、包容力というか、そういった落ち着くものが、何も感じられない。
 一方、ハヤテ団長の方は、どうだろう。
 憧れている存在、ではある。だけど、馬に乗せてもらったとき、落ち着くものは感じなかった。緊張感から、何を話したのかあまり覚えていない。気づいたら、馬から下ろされて、バイバイ、された。ハヤテは私のことを、子ども、だと思っていたのだろう。
 思えば、落ち着くものを感じた男性は、彼だけだ。
 
 ──美少女みたいな、変なやつ……。

 それにしても、クラリスとハヤテは因縁の相手なのだろうか。
 どちらかと言うと、クラリスの方がハヤテに突っかかっているように見えた。
 この二人に、いったい何があったのだろう。ちょっとだけ、気になる。
 
「キララさんの憧れは団長のハヤテさん。わたくしの憧れは勇者様。なんだか面白い戦いですわね、おーほほほ」
「……何言ってんの、キャンディ? 笑ってんじゃないわよ、こんなときに」

 隣で、高らかに笑うキャンディ。本当にこの姫は、緊張感がない。
 クスクスっと小さく笑うバニーちゃんは、姫の背後から膝に足を入れて、カックンした。
 
「きゃー! 何するのっバニーさん」
「キャハハ、デカ姫! やってくれましたね。キララ様を勇者パーティに入れるなんて」
「おーほほほ! 魔法が使えなくなったキララさんに社会教育をしてあげようと思っているのですわ」
「余計なことをしなくてもいいのです。キララ様は最強ですからっ」
「あなたこそ、余計な正義感を振りかざすから、こんな大変なことになってるんですわよ」
「逃げるヴァンパイアを捕らえるのは、聖騎士の務めですぅ」
「あらあら、チビ助バニーさんのくせに、生意気ですわ」
「キャハハ、文句があるならバニーに勝ってから言って欲しいです、デカ姫っ!」
「いいですわよ。先日やった水晶玉の魔力測定、あんなものではなく。やはりバトルで魔力は計測すべきだと、思っていましたもの」
「その点についてだけは、同感ですぅ」
 
 ねぇ、二人ともやめなよっ! と私が叫んだ。そのとき。
 人だかりの間から、ぬるっと一人の美少女が出てきた。
 その肩には、魔獣を乗せている。紫色の長髪、青い瞳、雪のように白い肌……。
 
 ──ん? あれは……ヌコさん!
 
「キララー! 探したぞー」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

処理中です...