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第一章 ドラゴンの呪い
14 キララ『オノちゃん』
しおりを挟む「このお嬢さんが怪我してるのかい? ヌコさん」
「ああ、魔法道具で治してくれよ、オノちゃん」
オッケー、と言ったのは、ヌコさんが連れてきた……。
男の人? あれ、魔族?
その見た目は、すらっと背が高くて顔も中世的。
お尻には、まるで鞭のような尻尾が生えている。この人って、まさか……。
──吸血鬼、ヴァンパイア、魔族に分類。
「オノちゃんは、うちの呪術館の執事であり魔法道具の研究者なんだ」
と、ヌコさんが説明してくれた。
するとオノちゃんは、急に踊り出した。え? なんで?
まるで、歌劇団の男役で出演してそうな立ち振る舞いで、私のもとに片膝をつく。
ヌコさんは、顔だけ出してこちらを見ている。
なに? なに? この呪術館にいる人たちって、みんな変なんだけどぉ!
「どれ、最新作の魔法道具を試してあげよう」
「何それ?」
「これは──ヒーリングスティック」
「どういう効果があるんだ?」
「あれ、ヌコさんに言ってなかった? この枝をエクストラポーションに漬けといた」
「どのくらい?」
「一ヶ月くらい」
「どうなるの?」
「うふふ、わからない。だから実験台としてちょうどよかったよ、サンキュー、ヌコさん」
「……?」
ああ、と言ったヌコさんは、ほっぺたをかいた。
え、何このオノちゃんってヴァンパイア、不信感しかない。
ってか男なのにオノちゃん? ちゃん?
いったい、私の身体で何を試すのだろう。こわ……。
その手に持っているのは、小さな木の枝だった。
「どこが痛いの? お嬢さん」
「あばらの骨が折れたみたいです」
「笑いすぎたの?」
「いえ、ドラゴンにやられました」
「へー、ここ? ここが痛いの?」
「あっ、いや……そこはおっぱいです、あんっ」
「あ、ごめん、小さくてわからなかった」
「……ぶっ、ぶっ殺す」
「え? 何?」
「なんでもないです……あっ、いたい」
「ここ?」
「あっ、はい……そこが痛い」
ここね、と言ったオノちゃんは、手に持っている枝を、私にあてた。
すると、ボワッと枝が輝きだす。回復魔法みたいな白い光に、あたりは包まれ……。
──あ、あったかいんだから~。
「え、うそ……痛くない! もう痛くない!」
私は、飛びあがって喜んだ。
それを見ていたヌコさんが、ほっと胸をなでおろす。
「オノちゃん、ありがとう」
「いいえ~、あ、そうだヌコさんこれ欲しい? ヒーリングスティック」
「その名前、長いな。小枝って呼んでいいなら、もらう」
「こえだ……べつにかまわないけど、ださっ」
「ダサくない! 小枝はチョコのお菓子のなかでも美味いんだぞ」
「何それ? また前世の話?」
「ああ、モリナガのお菓子は神だ」
はいはい、と言ったオノちゃんは小枝をヌコさんに渡した。
元気になった私は、速攻で駆け出す。
「じゃあ、ソイーネの森に行ってきまーす」
だけど、そのとき。
待て! と、ヌコさんに呼び止められ、私は急ブレーキ。
んもう、いったいなに?
「走っていくつもりか? ソイーネの森まで」
「はい、なんですか?」
駆け足体制のまま、私は怪訝な顔。
もう、察してよね、はやくしないと日が暮れちゃう。
魔力を復活させて、学校に戻らなくちゃ!
「やれやれ、ソイーネ地方まで王都からだと徒歩で半日かかるんだぞ」
「はい、だから走って……」
「キララ、頭を使えよ、飛んでいけばいいだろう」
「あの、お言葉ですが、いまの私は魔法が使えないんです、わかりますか? ただの一般庶民なんですよっ、私はっ!」
「……ふぅ」
ため息を吐くヌコさん。いや、こっちがため息だよ。
すると、横にいたオノちゃんが、ははっと笑った。
「そのために魔法道具があるんだよ、お嬢さん」
「……え?」
「ほら、これを使って」
「……はあ?」
渡されたのは、箒、だった。
「あの、私、掃除している暇はないんですが?」
「違う違う、そうじゃない」
首を振るオノちゃん。ヌコさんは、ぽんと手を叩き、
「魔女の宅急便だ! あはは、そうか、あははは」
と笑いながら言った。なんじゃその魔女の宅急便って、ださっ!
しかし、オノちゃんは自信たっぷりな顔で、やおら口を開く。
「ヌコさんあたり! 前世の話をしてくれただろ。たしか魔女に関する物語。それをマネしてみたのさ」
「さすが、オノちゃん。セクシーなだけじゃないね」
「やめてヌコさ~ん。褒めてもなにも出ないよ? うふふ」
あのぉ、と私は横から口を挟み、
「なんでヴァンパイアなのにオノちゃんなんですか? ヌコさんも美少女なのに、さんって呼ばれて、なんか変ですよ、あなたたち……」
と聞いてみた。私は疑問に思ったことは、ストレートに聞くタイプ。
どんなことでも悩んでないで、レッツゴー! なのだ。
ぽりぽり、と頭をかきながらヌコさんは、口を開いた。
「オノちゃんは、ヴァンパイアじゃなくてサキュバス」
「え? サキュバスって女の吸血鬼じゃん」
「そうだよ、だから俺の血が欲しいから近くにいるんだよ……まったく」
いいじゃん、ちょっと吸わせてくれよ、とオノちゃんがヌコさんに肉薄する。
「やめろ、近いって」
「いいじゃん、いいじゃん」
待って、と言った私は、目を大きく開いた。
「ってことは、ヌコさんって男の子なの?」
オノちゃんを手で押しのけるヌコさんは、ああ、と答えた。
「俺は男だよ、立派なものがついている」
──まじか!
よくお母さんから、人は見た目で判断してはいけません、って言われてた。
だけど、これはおかしいよ。ヌコさんは美少女だし、オノちゃんはイケメン。
もう、この第一印象は、なかなか変えられない。
「……ってか、この箒、どう使うの? 飛べるの?」
「俺が先に飛んでやろう」
そう言ったヌコさんは、どこから持ってきたのか、もう一本、箒を手にしていた。
そして、おもむろに箒にまたがった。まるで馬に乗るみたいに。
「こうやって乗るんだ。で、この緑のボタンを押すと……」
なっ! と言ったヌコさんは、なんと宙に浮いている。
おほん、と咳払いしたオノちゃんは、箒を指さした。
──ウィッチブルーム
「ウィッチの森に群生するヤシの木で作った箒に、長時間、風魔法ウィンドプレスをあてていると、その魔力を蓄えていることが研究でわかったんだよ」
「へー、すごいね、オノちゃん」
「えへへ、降りるときは、そこの赤いボタンを押してね、ヌコさん」
「わかった」
「どういたしまして~」
ヌコさんに褒められて嬉しいのだろう。
オノちゃんは、満更でもなく喜んでいる。
「では、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
手を振るヌコさんは、高く空に舞い上がった。
私も、追いつこうと緑のボタンを押す。
すると、ふわふわと身体ごと浮かび上がっていくではないか……。
「すごっ! これがあれば魔法を使わなくてもひとっ飛びじゃん」
そうだよ、と言ったオノちゃんは、笑いながら続けた。
「このような魔法道具、そしてゆくゆくは魔法機械が発展すれば、魔力があるってだけで偉そうにのさばっている奴らに、天罰がくだるかもね」
「え? オノちゃん、それってどういうこと?」
「まあ、未来の話だよ」
「……?」
「さあ、行ってらっしゃい。ご安全に!」
「はい、行ってきます! よっしゃー!」
気合を入れた私は、飛び立っていく。
太陽が傾きつつある西の空には、気の早いコウモリが、二、三匹ほど飛んでいた。
──急がなくちゃ……日が暮れちゃう……。
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