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第一章 ドラゴンの呪い
13 キララ『魔獣を飼うのは法律違反です』
しおりを挟む「赤ちゃんを育てよう、キララ」
「えっと……ヌコさん、そのセリフだけだと大語弊」
「あ、そっか」
「はい、ドラゴンの赤ちゃんですよね……」
「そうだ、呪縛霊となったドラゴンの願いなんだ」
「ああっ!」
倒れたままの私は、頭を抱えた。ヌコさんは、心配そうに見つめている。
──やっぱり、あのままではいけなかった……。
思い出すのは、ソイーネの森。
荒れ狂う鳥、グリフォンを追っ払った私は、赤ちゃんをそのまま……ああっ!
「どうした? キララ」
「私、私……」
「何があったんだ?」
「ソイーネの森で、ベビードラゴンを……」
「ん? ちょっと待て、この呪縛霊はお母さんドラゴンってことか?」
「はい、お母さんドラゴンはグリフォンとの戦いで深傷を負っていたようで……」
「え、まじか」
「はい、私がグリフォンを追っ払っているときに、死んでしまいました」
「……なるほど」
「で、生き残っていたベビードラゴンなんですが、私の足に寄り添ってくるので……」
「拾ってきたのか?」
「いいえ、突き放しました」
はあ? と、ヌコさんがあきれた声をもらす。
「キララ、なぜそんなことを?」
「だって魔獣を飼うのは王都では禁じられてますし、私は学校の寮に住んでるんですよ、育てるなんて無理」
「うーん、だからって赤ちゃんを放置するなんて」
「私だって王都に連れて帰りたかったですよ、でも、でも……」
「おい、泣くなよ」
「だって、だって……魔獣は自然のなかでないとダメだもん……ぴえん」
「まあ、そうだけどさ、赤ちゃんならバレないだろ?」
法律違反はダメですっ! と、私は大声で否定した。
ヌコさんは、ビクッと驚いたあと、ふぅ、とため息を吐いた。
私が融通の効かないバカ真面目だから、呆れたのだろう。
べつにいいもん、私は間違ったことはしてない。
「魔獣を飼育するには、テイマーという職業についている人でないといけません」
「……でも、赤ちゃんならいいだろ?」
「ダメです。法律違反は処刑されます」
「たしかに、ペンライトの王様は厳しいからな」
「はい。王様のことを笑っただけで処刑されたメイドもいました」
「まじか……本当にこの異世界は腐ってるぜ」
「異世界? ヌコさん、なんですかそれ?」
「いや、なんでもない。でもさ、赤ちゃんを放置したらやばくないか?」
「え?」
「いまごろ、そのグリフォンに食べられているかも……」
キャァァァ! と叫んだ私は、さらに頭を抱えてしまう。
──私のしたことって、法律違反じゃないけど、人として間違ってる?
キララ、とヌコさんが私の名前を優しく呼んだ。
顔をあげようとしたが、無理だった。涙が止まらないから。
「キララ、きみが呪われた原因、わかったかい?」
「……」
「お母さんドラゴンは、キララを呪うことによって気づいて欲しかったのさ」
「……」
「赤ちゃんのことをよろしく頼むって」
「……」
「その願いは、ベビードラゴンが立派に育つことだ……」
「……」
「おい、聞いているのか? キララ?」
ヌコさん! と、突然、私は叫んで顔をあげた。
泣きべそを見られたってかまわない。今はそれどころじゃない。
「私、ソイーネの森に行ってきます!」
「お、おお」
「ベビードラゴンを助けないとっ!」
そう言って立ち上がった私だったが、
「いったーいぃぃ!」
折れたあばら骨に激痛が走った。
私は、うずくまって転げまわる。くそー!
いつもならこんな怪我、回復魔法ですぐ治療できるのに、もうやだ。
ふっ、とヌコさんが鼻で笑ってる。この呪術師、ちょっと性格悪いかも。
「おーい! タマちゃーん!」
ヌコさんが声をあげた。メイドのタマちゃんを呼んだのだろう。
するとすぐに、にゃにゃ、と言いながらタマちゃんが現れた。
手には鍋のふたを持っている。料理していたようだ。
「なんにゃんヌコさん? ……って、キララちゃん大丈夫?」
「ああ、ちょっと怪我しちゃってな、ポーションってない? できたらハイポーション」
「にゃ~、いまないにゃ」
「じゃあ、魔法道具を持ってきてくれないか? オノちゃんのとこに行って」
「えー、いまビーフシチューを作ってるにゃー」
「おお、まじか! 晩飯が楽しみっ! わーいわーい」
「だから、ヌコさん行ってきて」
「わかったー」
ちょっと待ってろよ、と言ったヌコさんは、私にウィンクした。
──やだ、かっこいい……。
なんか、ヌコさんって不思議。
見た目は女の子なのに、なんだか男の子みたいでかっこいい。
まるで、物語に出てくる王子様みたい。
さらさらと流れるヴァイオレットの髪、真剣な横顔。
怪我をした私のために走っている。
その後ろ姿を、私はいつまでも見つめていた。
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