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第一章 ドラゴンの呪い

10 ヌコマール『女に触れられた……』

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 あ……俺はまた気絶したようだな。
 ここは夢のなか。
 思い出すのは、母の笑顔。
 会話よりも鮮明に覚えている。

 ──俺にかけた呪いの言葉よりも鮮明だ。

 だが、母親はなぜこんな呪いをかけたのだろう。
 、こんな呪いを。
 はぁ、いつかこの呪いが祓えたらいいな。
 誰か、誰か、俺を好きになってくれよ!

 俺は、母と二人で暮らしていた。
 森と野原が広がる場所に、ぽつんと建てられた小屋。
 そこで育った。母は一人で、俺を産んだのだろう。
 父の姿は、どこにもなかった。
 物心ついたときの記憶。
 母は笑顔で、こう言った。

『ヌコマール、あなたは幸せになってね……』

 意味がわからなかった。
 俺は幸せだった。
 なぜなら、前世、地球という星の日本という国。
 そこで29歳だった俺は社畜で、働きすぎて死亡した。
 ストレスと性欲は、溜めてはいけない。
 それが、前世で学んだ教訓だ。
 食べて、寝て、好きな人とエッチをする。
 それをしないと、死亡する。
 どうやら前世で俺は、種を保存することをおこたったようだ。
 で、物心がつき始めた3歳のときのこと。
 
 ──と確信した。

 母がつくりだす魔法を、この目で見たからだ。
 手のひらで燃える──火魔法、ファイヤー。
 そいつで、よく肉や野菜を焼いていた。
 俺は、飛び上がって喜んだのを、今でも覚えている。
 
 母の笑顔は素敵だった。
 うちは貧乏だったけど、母はいつも笑っていた。
 それだけでよかった。 
 でも、母は病気で亡くなった。俺が4歳のときだ。
 いま思えば、なぜ魔法で病気を治さなかったのか?
 と考えるが、お金がなければ、高度な回復魔法は施せない。
 魔法病院で働く、いわゆる賢者レベルの医者はみんな、金の亡者だ。
 この異世界は狂っている。いや、この異世界も、か。
 前世の日本もかなり狂っていたが、この異世界の比じゃない。
 魔法が使えるだけあって、余計にめちゃくちゃだ。
 魔力がある者だけが楽しめる、そんな異世界。
 魔力がない者は、クズだ。
 で、クズはクズなりに、反社会勢力となって徒党を組む。
 本当に腐った異世界だ。
 そんな異世界で、俺は母に呪いをかけられた。
 
 ──呪い、それは霊となったものが、生きているものを縛ること。

 で、俺は呪いを祓うため、呪術師になることにした。
 呪われたせいで、呪術が使えるようになっていたのだ。
 俺は魔法は使えないが、前世の知識があったので、それをフルに活用した。
 まず生まれ育ったクソ田舎から脱出し、都会を目指した。
 その距離ざっと100キロ。
 当時4歳の子どもの体力で、よく頑張ったと思う。
 喉が渇いたら川の水を飲み、腹が空いたら魚を釣った。
 木の枝と草の実で、釣竿とルアーを作った。
 魚は面白いように釣れた。
 前世、ボーイスカウトでサバイバル技術を学んでおいてよかった。
 魚は焼いて食べた。
 
 ──魔法道具、チャッカマン着火男

 男性のシンボルのような棒で、ボタンを押すと火が出るのだ。
 旅に出る前に、小屋から持ってきたものだ。
 この異世界には、魔法道具と呼ばれるものが存在する。
 魔法が使えない者のために、作られた物。
 その値段は高い。
 なぜなら、魔法道具が普及すれば、魔法が使える者が不要になる。
 つまり、現在、魔法が使える偉い人が邪魔をしているのだ。
 魔法道具が発展しないように、お金をばらまいて。
 そんななかで、母は魔法道具を買った。
 お金を自分の治療に当てるのではなく、俺にくれたのだ。
 自分が死んだあと、俺がうまく旅立てるように。
 ああ、そう思いたい。幼い俺は、チャッカマンを握りしめた。

 ──ん?

 そろそろ、体が動きそうだ。
 とりあえず、目を開けてみよう……ん? 女の人がいるな……。
 
「え? お母さん?」

 目の前には、母の笑顔が花のように咲いていた。
 もっと、もっと笑っていてくれ。
 ああ、大好きだよ、お母さん……。

「あっ! 起きた! よかったー!」
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