上 下
2 / 16
プロローグ

2  話してみるか……

しおりを挟む

「しばらく、こいつと二人だけにしてくれ」
「わかりました」

 僕が命じると、ディーンは、他の騎士たちを連れて去っていく。
 そのなかの一人に、綺麗なお姉さんがいるのだが。
 彼女は、ニヤッと僕に微笑みかける。

「ねえ、この産廃、なかなかイケメンだねぇ」
「……バニラ? なんでまだいる?」
「えー、男と二人だけにしろ、なんてヒイロが命令するからさ、ホモ漁りにきたの!」
「じゃかしい! いけっ!」 

 はーい、と返事をしたバニラは、つまんなそうに蹴って歩いていく。
 ごめん、自分の過去のことは、あまり知られたくないんだわ。 
 それにしても、ヤバいな。
 異世界で君主となった僕は、同級生を死刑にできちゃう。  
 
 ──神にでもなった気分で草。

「さてと……ミツル、久しぶりだね」

 やっと、僕が口を開くと、ミツルは破顔して喜んだ。

「よかったぁぁ! 話してくれないかと思った……ううっ」
「落ち着けって……っていうか、オオタは? アイリちゃんはどこにいる?」
「ヒイロ……助けてくれ……」
「何があった?」
「マドリー王国は知っているよな?」
「ああ、最近、うちの国に移住してくる人が多い」
「だろうな……」
「何があった?」
「あの国、魔族に乗っ取られてさ、アイリが捕まっちまったんだ!」
「はあ? まじか……オオタは?」
「わからない。俺とここに来る途中ではぐれた……強い魔族がいたんだよ」
「……ったく、ちょっと見せろ」

 膝を曲げた俺は、ミツルの装備している腕輪に触れた。
 すると、静かな牢屋のなかに、ピロッと音が鳴り響く。
 青白い光の枠が、宙に浮かんでいる。

 ──ステータス 能力値が見える魔法道具

 ミツルの能力を見た。
 
『 職業 勇者 レベル 42 』

 使える魔法は、『ファイヤーボール』『アイスボール』など。
 どれも戦闘向きなものばかり。なんとも、好戦種族のミツルらしい。
 剣術のスキルは、ほぼ極めていた。大量の魔獣を倒したのだろう。
 つまりミツルは、ここらの魔獣や冒険者相手なら無双できる能力と言えた。
 だが知能レベルが高い『竜騎士』などの魔王軍直属の魔族が敵となると……。

 ──とても敵わないだろう。

 僕は、哀れなミツルを見つめた。
 結局こいつは、オオタやアイリの前で、見栄を張りたかっただけ。
 そしてミツルの味方をする、オオタも悪い。
 あいつらは、無理やりアイリちゃんを……。
 
 ──ああ、思い出しただけで、ムカついてきた!

「ヒイロ、あれから神は現れたか?」

 ミツルの質問に、いや、と僕は答え、さらに続けた。

「死んだら帰れないんだぞ、それなのに僕を追放するために、あんなことをするなんて!」
「……すまん、あのときは調子に乗ってた、あはは」
「何を笑ってる?」
「すまん、俺がバカだった、許してくれ、ヒイロ」
「はあ……今更、虫がよすぎるんじゃないか?」
「……すまん」
「おまえらに追放された僕は、死にかけたんだからな!」
「……すまん」
「まぁ、そのおかげで国をつくろうと気づけたから、よかったけどな」
「ううう、ヒイロはすごい、ヒイロはすごい。俺は素晴らしい友達を持ってよかった」

 ミツルは、泣きながら僕のことを褒め続ける。
 
 ──はあ、なんだこいつ?

 高校のころ、僕のことを虐めたくせに、自分が弱い立場になった瞬間……。
 
 ──僕を友達だと?

 カーッと、僕の頭に血がのぼってくる。
 思わず、正座するミツルを見下し、強くにらんだ。
 汚い男が牢屋に入っている、そう思った。
 すると、僕の心のなかにあるドス黒い腐ったものが、よくも、よくも、と吐き出されていく。

「よくも……僕を虐めたな……」
「……?」
「高校のころ、おまえが僕のことをクラス全員で無視するようにしたな?」
「……ゆるして」
「おまえ、無視され続けた人間の気持ちがわかるか?」
「……悪かったよ、あのときは」
「誰からも話しかけられない日が続くと、どうなると思う?」
「……」
「だんだん、心に穴が空いていくんだよ、ぽっかりな!」
「ごめんなさい……ううう」
「机やノートに、死ねって落書きしたのも、おまえだなミツル」
「許してください」
「おっと今、僕はこの国の君主だ。よってミツルを死刑にできちゃう……うーん、どうしようかな、ん?」
「あっぁあぁぁ、すいません、すいません、ヒイロぉぉ、なんでもするから許して……」

 ふんっ、と僕は鼻で笑った。

「なんでもするのか……じゃあ、牢屋に入ってろ!」

 僕はそう言うと、踵を返した。
 はあ、自分でも大人気ないとは思う。
 しかし、はいそうですか、と言って簡単に許せないのも事実だった。
 
 ──とりあえず、アイリちゃんを助けにいくか……。

 僕はそう思いながら、刑務所を出た。
 外は青い空が広がり、暗かった気持ちが、少しだけ明るくなる。
 その足で向かうのは、都内から離れた小高い山。
 見上げる先には、空に届きそうなほど大きな木がある。
 この異世界をぐるっと回ったが、やはり、この木が一番大きい。
 思い返すと、僕はこの木に出会って、ラッキーだと言える。
 異世界に来て、チート能力を授かる話はよく聞くが……。
 
 ──グランドツリー 精霊が宿る木
 
 僕にとっては、この木がチートだ!
 この大樹には、不思議な力がある。
 なんと、触れただけで、魔力も体力も全回復するからびっくり。
 そして、精神的にも落ちつく。
 まるで、母親に抱かれているような、そんな錯覚さえあった。
 僕が大樹に近づいて触れると、葉が風にゆれ、木霊が歌い始める。
 
 ラララ ラララ

 ラララ ラララ

 いい風の音色だ……。
 と、僕が微笑んでいると、ん?
 木の影から、ひょっこり何かが飛び出した。
 可愛らしい女の子。彼女は土の妖精──ノーム。
 葉っぱで作ったドレスを着ている。とても似合う。
 金髪の頭には、草で作った王冠をのせていた。
 
「ヒイロ、何かあったの?」
「……うう」

 僕は何も言わず、ぎゅっとノームに抱きついた。

「きゃっ、どうしたの?」
「ごめん、ちょっといろいろあって……ノーム、力をかしてくれないか?」
「いいよ」

 ノームの柔らかい手が、僕の頭をなでる。
 ぽっかり空いた心の冷たさが、だんだん温もりで埋まっていく。
 そうだ、あのときもこうやって、ノームを抱きしめていたな。
 
 ──この異世界に転移したあの日、僕は死にかけた……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...