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第一章 異世界転移

2  異世界に来ちゃった……

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「じゃあ、死なないように頑張ってね!」

 女神は笑顔でそう言うと、手を振った。
 すると、どうしたものか、次の瞬間には煙のように消えていく。
 これも魔法なのだろうか? 少し違う気がするけど……。

「なあ、どうするミツル?」

 そう言ったのはオオタだ。
 彼は、身体のデカイわりに、何事も自分で判断ができない。
 いつもミツルにくっついている、いわゆる金魚のフンだ。
 当のミツルは、女神から『勇者』と言われて嬉しかったのだろう。
 もらった腕輪──女神のブレスレットに触れては、ステータスを見ている。

「ふふん、俺は勇者か!」

 すごいね、と言って横にアイリちゃんが立つ。
 イケメンと美少女が、異世界の神秘的な空間で並んでいる。
 美しく風にそよぐ草原が、二人を祝福しているようだ。

 ──やっぱりこの二人は、悔しいけどお似合いカップルだな。

「アイリ! おまえのステータスみせろよ!」
「あ、ダメ、恥ずかしいぃ……」

 いいから、とミツルは言って、アイリちゃんの腕輪に触れた。
 
 『 職業 僧侶 レベル5 』
 
 『 魔法適性 光 』
 
 どうやら、アイリちゃんは光魔法が得意のようだ。
 もじもじしながらも、アイリちゃんは、今度は僕のほうに来る。
 
 ──え? 僕に話しかけてくれるのか? こんなことは初めてだ……。

 アイリちゃんは、上目使いに俺を見つめ、

「ヒイロくん……異世界に転移しちゃったね」

 と言って微笑んだ。
 僕の胸は、ドキドキして、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
 
 ──やばい、やばい、やばい……。

「は、は、はい……」

 と答えるので、僕は精一杯だった。
 すると横から、おい、とミツルが声をあげる。

「アイリ、そんなやつと話すんじゃねぇ」
「……でも、ここは高校じゃないよ」
「はあ? どこでも同じだ。なあ、オオタ」

 ガハハ、と笑うオオタは、両手に腰を当てた。

「ミツルは、昔から気に入らないやつをとことん虐めるからな」
「ああ、だってこいつキモいじゃん、女みたいな顔してさ」
「たしかに、身体も鍛えてないから、もやしみたいだ」
「あはは、もやしだって、オオタ、言うねぇ」
「でも、なんでヒイロくんがいるんだろ?」
「それな! いったいなんだよこいつ……ってか、異世界ってなんだ? くだらねぇ、さっさと地球に戻りたいぜ」 

 ミツルはそう言って、あたりに生えている草花を蹴った。
 無常にも、花びらは散り、風に飛んでいく。
 それを見つめるアイリの瞳が、どこか潤んで見える。
 泣いているのだろうか。

「剣が欲しいな……」

 ぼそっとミツルは言った。
 その目線は冷たく、僕を見ている。
 もしも今装備していたら、僕は試し切りされていたのかもしれない。

「ようし! 勇者パーテの出発だー!」

 そう言ってミツルは、勢いよく歩き出した。
 
 ──いやいや、無謀すぎるだろう……。もっと作戦を練らないと。

 僕は、さっと手を伸ばし、

「待って!」

 と言った。だが、完全に無視され、ミツルとオオタの姿はどんどん小さくなっていく。
 
 ──ん?
 
 なぜか、僕の横にいるアイリは、グッと唇を噛んでいた。

「おーい! アイリいくぞ!」

 ミツルの大声が、草原に響く。
 するとアイリちゃんは、ビクッと身体を震わせて、

「ねえ、お願い……ヒイロくんも来て……」

 と言った。そして、ニッコリと笑う。
 僕は心打たれてしまった。ドキドキが止まらない。

 ──きゅんでーす!

「ミツルはあんなこと言うけど、わたしはヒイロくんの顔、好きだよ」
  
 うふふ、と微笑んだアイリは、さっそうと走っていく。
 ふわりと揺れる黒髪が、美しく流れていた。
 ここは異世界の草原、神秘的に光る花、ひらひらと蝶が舞っている。
 彼女の姿が、どんどん小さくなっていく。
 どうしようかな、このまま別行動するのも心配だ。

 ──とりあえず、ついていくか……。
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