4 / 16
第一章 異世界転移
2 異世界に来ちゃった……
しおりを挟む「じゃあ、死なないように頑張ってね!」
女神は笑顔でそう言うと、手を振った。
すると、どうしたものか、次の瞬間には煙のように消えていく。
これも魔法なのだろうか? 少し違う気がするけど……。
「なあ、どうするミツル?」
そう言ったのはオオタだ。
彼は、身体のデカイわりに、何事も自分で判断ができない。
いつもミツルにくっついている、いわゆる金魚の糞だ。
当のミツルは、女神から『勇者』と言われて嬉しかったのだろう。
もらった腕輪──女神のブレスレットに触れては、ステータスを見ている。
「ふふん、俺は勇者か!」
すごいね、と言って横にアイリちゃんが立つ。
イケメンと美少女が、異世界の神秘的な空間で並んでいる。
美しく風にそよぐ草原が、二人を祝福しているようだ。
──やっぱりこの二人は、悔しいけどお似合いカップルだな。
「アイリ! おまえのステータスみせろよ!」
「あ、ダメ、恥ずかしいぃ……」
いいから、とミツルは言って、アイリちゃんの腕輪に触れた。
『 職業 僧侶 レベル5 』
『 魔法適性 光 』
どうやら、アイリちゃんは光魔法が得意のようだ。
もじもじしながらも、アイリちゃんは、今度は僕のほうに来る。
──え? 僕に話しかけてくれるのか? こんなことは初めてだ……。
アイリちゃんは、上目使いに俺を見つめ、
「ヒイロくん……異世界に転移しちゃったね」
と言って微笑んだ。
僕の胸は、ドキドキして、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
──やばい、やばい、やばい……。
「は、は、はい……」
と答えるので、僕は精一杯だった。
すると横から、おい、とミツルが声をあげる。
「アイリ、そんなやつと話すんじゃねぇ」
「……でも、ここは高校じゃないよ」
「はあ? どこでも同じだ。なあ、オオタ」
ガハハ、と笑うオオタは、両手に腰を当てた。
「ミツルは、昔から気に入らないやつをとことん虐めるからな」
「ああ、だってこいつキモいじゃん、女みたいな顔してさ」
「たしかに、身体も鍛えてないから、もやしみたいだ」
「あはは、もやしだって、オオタ、言うねぇ」
「でも、なんでヒイロくんがいるんだろ?」
「それな! いったいなんだよこいつ……ってか、異世界ってなんだ? くだらねぇ、さっさと地球に戻りたいぜ」
ミツルはそう言って、あたりに生えている草花を蹴った。
無常にも、花びらは散り、風に飛んでいく。
それを見つめるアイリの瞳が、どこか潤んで見える。
泣いているのだろうか。
「剣が欲しいな……」
ぼそっとミツルは言った。
その目線は冷たく、僕を見ている。
もしも今装備していたら、僕は試し切りされていたのかもしれない。
「ようし! 勇者パーテの出発だー!」
そう言ってミツルは、勢いよく歩き出した。
──いやいや、無謀すぎるだろう……。もっと作戦を練らないと。
僕は、さっと手を伸ばし、
「待って!」
と言った。だが、完全に無視され、ミツルとオオタの姿はどんどん小さくなっていく。
──ん?
なぜか、僕の横にいるアイリは、グッと唇を噛んでいた。
「おーい! アイリいくぞ!」
ミツルの大声が、草原に響く。
するとアイリちゃんは、ビクッと身体を震わせて、
「ねえ、お願い……ヒイロくんも来て……」
と言った。そして、ニッコリと笑う。
僕は心打たれてしまった。ドキドキが止まらない。
──きゅんでーす!
「ミツルはあんなこと言うけど、わたしはヒイロくんの顔、好きだよ」
うふふ、と微笑んだアイリは、さっそうと走っていく。
ふわりと揺れる黒髪が、美しく流れていた。
ここは異世界の草原、神秘的に光る花、ひらひらと蝶が舞っている。
彼女の姿が、どんどん小さくなっていく。
どうしようかな、このまま別行動するのも心配だ。
──とりあえず、ついていくか……。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる