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第一章 異世界転移

1  過去、異世界転移した日

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「ごめんね、君たちを異世界に飛ばしちゃった……えへへ」

 そう言って、ぺこりと頭をさげる、巨乳のお姉さん。
 金髪に青い瞳、雪のように白い肌。まるでハリウッド女優かよ。
 目のやり場に困るくらい、透け感のあるドレスを着ていた。
 
「……あの、あなたは何者ですか?」
 
 僕は、勇気を出して聞いてみた。
 お姉さんは、うふふ、微笑んで、

「私は女神だよ」

 と言った。

 ──あ、そうなんだ。あはは、こんなこと本当にあるんだ。

 彼女は、その美しい金髪をふわりとかきあげた。
 ここは草原のなかで、爽やかな風が吹いている。
 東には昇る太陽、西には、ありえんほど大きな木が見えた。
 この星を守る木なのだろう。
 とてつもないオーラを感じる。
 そして、青空のなかには、いかつい翼を広げた鳥が、雄叫びをあげて飛んでゆく。
 
 ──あれは恐竜? 魔獣と言えばいいのかな?
 
 近くにいる同級生、アイリ、オオタ、そしてミツル。
 みんな、ありえない超常現象にびっくりして、

「ああっぁぁぁぁああ‼︎」

 と言って腰を抜かしている。
 まあ、無理もない。
 学校から帰る途中、いきなり異世界に転移したんだからな。
 といっても、俺はたまたま、三人の後ろにいただけなんだが……。

「な、なんだここは?」とミツル。
「……え、ええええ?」とアイリ。
「うわぁ、お姉さんおっぱいでかい!」とオオタ。

 ねぇ、オオタ、他に言うことあるだろ?

「……」


 僕は、冷静に身の回りを観察した。
 あれ? カバンがなくなってる?
 不思議なことに、みんなの荷物もない。
 制服のポケットに手を入れてみても、スマホもなければ財布もない。 
 
 ──でも、裸じゃなくてよかった……。

 まぁ、そんな感じで、少年少女がそろいまして異世界転移か。
 よくあるラノベの展開だと思い、僕は微笑んだ。
 にしてもこの女神、やけにあっさりしてるな……。
 もっと僕たちに謝罪して、圧倒的な加護をくれてもいいのに。
 いや、してくれなきゃ、僕たちは異世界で死んでしまうよ。

「地球の花を転移させようとしたら、間違えちゃった……ごめんね」

 女神は、さらに謝る。だが、まったく反省していないようだ。
 じゃあね、と笑顔で言うと、さっさと立ち去ろうとする。
 笑って、何もかも誤魔化すタイプなのだろう。

「あ、まってください!」

 慌てて僕は、女神に手を伸ばし、その肩に触れた。
  
 ──温もりがある……。

 ふつうの人間の肌をしていた。彼女は本当に女神なのか?

「あの、何かスキルとか、特別なものをプレゼントしてくれないのですか?」
「……ちょ、なんなのこの子? 女神に触れるなんて冒涜ぼうとく……あなた名前は?」
「ヒイロです」
「ヒイロくん……いい名前ね」
「ありがとうございます」
「それと、あなただけ妙に落ち着いているわね、なぜ?」
「はい、僕は異世界の小説を読んだことありますから、こういう展開はなんとなく理解できます」
「なるほど……それは面白い」
「あのー、せめてこの異世界の言語や文字の理解能力は、加護してくれませんか?」
「では、これを君たちに授けよう」

 女神が、僕たちに渡したのは、鈍い光を放つ銀色の腕輪だった。

 ──女神のブレスレッド あらゆる情報が蓄積された魔法道具

 うふふ、と微笑む女神は、さらに続ける。

「これを装備していれば、読み書き、聞き取り、会話は日本語で大丈夫だよ。わたしとも話せてるでしょ?」
「そ、そうですね、不思議……」
「あと、指先で触れると自分の能力が見えるよ」

 試しに僕たちは、腕輪を左手首に装備してみる。
 するとその瞬間、腕輪は縮み、皮膚にピタッと密着した。
 安易には取れない仕組みなのだろう。
 そして、指で触れてみた。
 ピコッと音が鳴ると、宙に光る枠が浮いているではないか。
 びっくりした同級生たちは、また腰を抜かしている。
 
 ──あ、アイリちゃん、パンツ丸見え……白か……。

「これは、ステータスですね?」

 と僕が言うと、女神は微笑んだ。

「ご名答! ヒイロくん、あなたもしかして二周目?」
「二周目? なんですか、それ?」
「いや、なんでもないない」
「……?」
「まあ、これあげるから、なんとか頑張ってみてよ」
「あの、何を頑張るのですか?」
「死なないように……だよ」
「死ぬとどうなるのですか?」
「地球には戻れなくなる」
「え? 逆に地球に戻れるのですか?」

 うん、と女神はうなずいた。
 少しだけ希望の光りが見えたので、僕は微笑んだ。
 すると、ミツルが横から、おい、と言って女神に話しかける。 

「お姉さん、女神かなんか知らねえけど、早く俺たちを地球に戻してくれよ」
「……すぐは無理だよ」
「じゃあ、いつだよ」
「まあ、数年くらいは見といてもらえるかな? いろいろ神の世界にも事情があるからさ」
「おいおい、俺たち高校二年なんだぜ! 卒業しちゃうよ」
「あら~安心して、この異世界で何年経っても、地球の時間は数秒しか経過していないから」
「え、そうなの? すご……」

 でも、と言ってアイリが口をはさむ。

「わたしたちの身体は、歳をとってしまいますか? 女神様?」
「それも心配しなくてもいいよ」
「なぜですか?」
「魔法の力で若返ってから、戻ればいい」
「え? どういうことですか?」
「あのね、この異世界は、魔法が使えるの!」
「魔法って? なに?」
「お答えしましょー!」

 すると、突然、メガネをかけた女神は、説明をはじめた。
 どこからともなく光の枠が現れ、

『魔法ってな~に?』

 と表記されている。僕らは学生か?
 で、女神は、まるで美人女教師みたい。
 胸の開いたドレスが、目のやり場に困る。

「長い話は嫌なので、難しい原理は割愛するね」
「……」
「この異世界には、水、火、風、土、光、無、の六種類の魔法があるの」
「……」
「でね、それぞれ適性があって、得意な魔法は、ガンガン覚えることができるってわけ」
「……」
「どれ、みんなの適性はどう? ステータスを見て」

 女神にそう言われ、僕たちは自分のステータスを見つめた。
 ふむふむ、どうやら僕は──土魔法が得意らしい。

『 職業 土魔道士 レベル18 』

『 適性魔法 土 』

 ステータス上に茶色の宝石みたいなものが、きらきらと輝いている。
 ふと、女神がミツルのステータスを覗きこんで、おお、と歓喜の声をあげた。

『 職業 勇者 レベル12 』

『 適性魔法 火 光 無 』

「これは珍しい、いろいろな魔法の適性があるね。君の職業は勇者だ」
「え? 俺って勇者なの! スッゲェ!」

 すると、「わぁ!」と言ってオオタが騒いだ。

『 職業 武道家 レベル8 』

『 適性魔法 無 』

「わい、魔法の適性が、無し、になってる」
「あ、それ無属性魔法ね」

 と女神が説明した。

「無属性は、筋力など、身体の構造に魔力を加えることができるよ」
「へー、なんかわからんけど、わいは強そうだ! ガハハ」
「うん、君の職業は武道家だね」

 あざっす、と言ったオオタは、満面の笑みでサイドチェストした。
 それが面白かったのか、アイリちゃんが、くすくすと笑う。
 まじで可愛い。
 というのも、アイリちゃんは僕の憧れの存在であり、学校のアイドル。
 インスタのフォロワーが一万人を超え、芸能界からスカウトがあるらしい。
 さらさらの黒髪ボブヘア、雪のような白い肌、スタイル抜群のプロポーション。
 
 ──ああ、尊い、尊いよ、アイリちゃん……。

 と、僕は思っているのだが、秘めることしかできない。
 なぜなら、僕は地味なぼっち男子。いわゆる陰キャ。
 高校では虐められ、誰からも話しかけられず一日が終わる。
 うーん、思い出すとつらい……。
 よって、僕なんかがアイリちゃんに告るなんてできない。
 それに、アイリちゃんにはミツルがいる。
 二人は高校のなかで、公認カップル状態なのだ。
 たしかに、ミツルはイケメンだ。
 身長もあるし、さわやか、おまけにスポーツ万能。
 お似合いのカップルだと、悔しいけど僕も思う。

 ──まったく、ぼっちに恋は難しい……。

 一方、オオタはどういう存在かというと、二人の幼馴染らしい。
 つまり、三人は小中と同じ学校だったのだ。
 で、僕だけが違う学校から入学してきた、いじめられっ子的な存在である。
 どうしてそうなったかと言うと……。
 ミツルが影で同級生たちを操っているのは、言うまでもない。
 
『ヒイロと話したらおまえを虐める』

 そのような悪魔の囁きで、同級生たちを脅しているのだろう。 

 ──異世界に転移しても続けるのかな?

 ミツルは、まともに僕と目を合わさなかった。
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