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第3章 作曲編

4 指先からのメッセージ

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  青い瞳をじっとみつめていると、透き通る水の中に吸い込まれていくようだ。
  
  全身の毛は白くふわふわしており、なでてやると気持ち良さそうに丸まっていく。
  
  猫を見ているソフィアは、
  
「癒される~」

  と、目の中がハートになるほど甘い声を漏らした。
  
  青い目の猫は、目が青いから青く見えるのではない。
  
  これは、レイリー散乱と呼ばれる色彩のメカニズムから生まれている。
  
  正確にいうと、瞳孔の大きさと網膜に入る光の量を調整する組織に含まれているメラニン色素が、光の中にある波長を吸収することで起こる反応である。
  
  メラニン色素が少ないと、赤い光は吸収され青い光だけが反射される。
  
  その青い光だけが人の目で観察できるから青く見えるのだ。
  
  それは空も同じことである。人間だから青く見えるのだ。
  
  猫からは空は何色に見えているのだろう。
  
  ソフィアは猫の青い瞳をみつめながら、
  
「わたしと一緒だね……」

  と、猫と同じような神秘的な青い瞳を輝かせ感傷に浸った。
  
「このまま好きなままで終わっちゃうのかな……」

  心の奥にあった想いと一緒に猫の毛並みをなでる。
  
「気持ちいい?」
  
  猫は眠たそうに黙って幸せそうにしている。
  
  しばらくなでているとソフィアも眠たくなってきた。
  
  壁時計の針をみると時刻は23:04だった。
  
  ソフィアは白いシルクのパジャマに着替えていた。
  
  寝る前のまどろみの時間に猫と戯れるのが好きなのだ。
  
  リゾートホテルから帰宅してもう二日経っていた。
  
  ミサオからの連絡は未だにない。
  
  メールを開いて確認する。
  
  だが、友達グループの通知が2桁を超えて賑わっていただけだ。
  
「はあ……」

  ため息をつくソフィアの横を猫がすり抜けて、ドーム型のふわもこっとした素材の寝床に潜り込んでいく。
  
  猫は暗くて狭いところが好きだ。
  
  ソフィアは寝床に入った猫に、
  
「おやすみ」

  と、いうとスマホを片手に自室へいこうとした。
  
  その時、
  
  ピロン!
  
  スマホの電子音が鳴った。
  
  メールが送信されたらしい。
  
  スマホの画面をみてみる。
  
  送信者はミサオであった。
  
「あ、きた!」

  ソフィアは歓喜の声をあげる。

  だが、すぐにメールを開きたい気持ちとは裏腹に一息つく。
  
  自室へと歩いていった。
  
  すぐにメールを開いて既読になってしまっては、まるでずっとメールを待っていることがミサオに悟られてしまうような気がして、
  
「まてまて!」
  
  と、メールを開かないまま、自室のベッドへ潜り込んだ。
  
  その様子は、ふわもこっと巣穴へ潜り込んだ猫と似ていた。
  
  すると、ぽふっと、掛け布団からソフィアの頭だけが出てくる。
  
  艶のあるブロンドヘアの毛先は緩くウエーブがかかっている。
  
  前髪がサイドと同じくらい長く肩まであった。
  
  真ん中で分けられた髪の間から見えるおでこがなんとも可愛らしい。
  
  ソフィアは、ベッドサイドの照明のつまみに手を伸ばし光を調整する。
  
  暖色の淡い光がベッドを包み込んでいった。
  
  そして、改めてスマホを手に持ってメールを開いた。
  
  ミサオからのメールの内容はこうだった。
  
  
  
  ソフィア、連絡遅れてごめんなさい。
  
  デートに誘おうと思って色々と計画をしてたんだ。
  
  今週土曜日の夜はあいてないかな?
  
  ソフィアは微笑みながらメールを打ち込んでいく。
  
  こんばんは。
  
  土曜日の夜なら空いてるよ。
  
  と、送信すると、すぐに既読がついた。
  
  お!  と、驚いたソフィアはそのままアプリを開きながら、
  
  ミサオ、電話してもいいかしら?
  
  と、さらにメールを打ち込む。
  
  既読つけ、既読つけ、既読つけ!
  
  ついた!
  
  そして、ミサオから電話がかかってくる。
  
「どうしよう、どうしよう、ってわたしが電話に誘ったのに緊張しちゃう」

  覚悟を決めて通話ボタンをクリックする。
  
「もしもし、ソフィア?」

  ミサオの優しい声に緊張の糸が途切れたソフィアの頬が赤く染まる。
  
  つい一週間前に、ピアノコンクールで競い合った仲間というだけでも興奮するものがあるのに、さらにキスをしてしまっているものだから、
  
「ミ、ミ、ミサオ、こんばんは……」

  と、まるで片言しか話せない外国人のようになった。
  
  緊張しているソフィアの状態を察してか、
  
「久しぶりだねソフィア、元気だった?」

  ミサオは、すぐには本題のデートには触れずに何気ない会話をする。
  
「は、はい、元気です。ミサオは?」

「ぼくは元気だよ。連絡遅れてごめんね」

「ううん、いいの。今電話してるから、もういいの」

「電話したかったの?」

「うん、電話したかったです」

「そっか、あはは」

「うふふ」

  情熱的な見えない電話回線が二人をつないだこの時、
  
  ん?  なんだこの感情は?
  
  と、ソフィアもミサオも思った。
  
  胸が熱くなっていく。
  
  ……。
  
「もしもし、ミサオ?」

「あ、ああソフィア!  そうだ、今週の土曜日だけど駅前のカフェに18時くらいに待ち合わせでどうかな?
  
「OK!  いいですよ」
  
「ありがとう!  今音楽を製作中で、その日に聞かせてあげようと思ってさ」
  
「え!  ミサオが音楽を作ってるのですか?」

「うん、まあね」

「どのような音楽ですか?」

「それはデートの時まで秘密だよ」

「えー!  わかりました。楽しみにしてます」

「うん」
  
「ミサオはクラシック以外の音楽も聞くのですね」

「まあね、例えば……」

  二人の会話が弾んでいく。
  
  笑ったり、驚いたり、うなづいたり、離れた二人をつないでいる通話時間は気がつけば、
  
「あ!  もう1時間も話しているね」

  と、ミサオは驚いた。

「え!  もうこんな時間なんですね」

  ソフィアはベッドサイドの置き時計をみると、時刻は0時をちょうど回るところだった。
  
「じゃあ、おやすみソフィア」

「おやすみさない、ミサオ……」

  二人の指先は、通話終了のボタンを押していた。
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