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 青年時代

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 王宮のなかは静寂に包まれていた。
 人の気配がない。むしろ、人払いされているかのようにも感じられた。ルージュは大きく息を吐くと、
 
「まずは、のぞきましょう」

 王子が楽しんでいるであろう部屋の扉を通過。
 隣の部屋の扉を開ける。
 ギィ、と音を響かせ入ったところは倉庫だ。
 真っ暗で、ルージュはたちまち動けなくなった。
 すると、シオンが腰に下げていた小さいランタンに火を点ける。
 ぼんやりと足下が照らされた。
 何とか歩けるようになったルージュだが、慣れない暗闇のなかで右往左往した。
 するとシオンはルージュの手を繋いで歩いた。
 二人の胸のうちは、バックンバックンに心臓が早鐘のように鳴っているが、なんとか平静を装う。シオンは自分の気持ちを必死に隠した。
 ルージュのことが好きだとバレたら、恥ずかしいを通り越して執事として失格。つまり、クビ。伯爵家から追放されるだろう。
 
「し、し、し、シオン、あなたはのぞいてはいけませんよ」
「お、お、お嬢様、ずるいですよぉ」

 震える唇を指で抑えながら、ルージュは片目を閉じて穴をのぞいた。
 ここの壁は薄く、女の喘ぎ声がよく聞こえた。したがって、シオンはどうしてものぞきたい衝動に駆られ、レイピアを鞘から抜いた。
 プスッ!
 針の糸を通すように一瞬で壁に穴を開ける。
 ルージュはシオンの動きを見ていない。それほど、隣の部屋で起きている光景に夢中になっている。口をあんぐりと開けて、見入っていたのだ。
 ごくりとシオンは生唾を飲みこんだ後、ゆっくりと穴をのぞいた。
 そこには!
 縄で縛られたヴァンがいた。
 さらに驚愕したのは、彼の目の前には裸の女が壁に手をついて尻を突き出している。そして、その女の尻を掴んで狂ったように腰を振る王子ノワールの姿があった。犯されている女の顔は、乱れるピンクの髪が垂れてよく見えない。

「うわっ!」

 とんでもない光景が目に飛びこんできて、思わずシオンは叫んだ。その瞬間、バシッと背中を手のひらで叩かれた。
 
「いたいっ!」
 
 手刀をつくっていたルージュが眉根を寄せて、
 
「うるさい、シオン……だから見ちゃダメっていったのに……しー」

 といいながら人差し指を唇に当てた。
 はい、と答えるシオンは、また穴をのぞく。
 そもそもシオンは女の裸を見たことがなかったので、びっくりした。女の裸というものは、こんなにも美しくて興奮するものなのか、と感動していたのだ。
 淫らにゆれるピンクの髪、あんあん、と喘ぐ女の声、男のごつい手で揉まれる大きな胸、ぱんぱんと肉と肉がぶつかる生々しい音が響く。妖艶に舞う男と女の姿を、シオンはじっと見つめていた。
 その光景はあまりにも野生的。シオンから見たら王子のやっていることは、とても人間の行動とは思えなかった。まさに雄と雌の獣じみた動きだったわけだが。

──男は女に、あんなことをするのか?

 とも思った。と同時に、俺もやってみたい、とも。
 身体が一気に熱くなり、血液が沸騰しているような、そんな感覚もあった。下半身が硬くなり、何だか動きづらい。これが、勃起というやつか。こんな状態で、お嬢様の隣にいるなんて……。
 
──俺はやばい! 頭がイカれちまいそうだ!
 
 とシオンは思いつつも、高鳴る胸が痛いほどに興奮していた。
 そんな彼の情熱とは裏腹に、ルージュはいたって冷静沈着で、ふぅー、と息を吐くと、
 
「どうやら、ヴァンの心を破壊させるつもりね」

 などと精神分析を始めた。
 
「王子ノワール、彼は人をムカつかせる天才ね、さてこれからヴァンがどうなるか……それを観察したいのでしょう」
「うわぁ……ノワールは最低なやつ。それにしても、お嬢様、なぜノワールはあんなふうに女をいじめるのですか?」
「シオン、勘違いしていますよ、あれはいじめているのではありません」
「え? だって、あんなに叫んでいるではないですか?」
「……シオン、女の顔をよく見てください」

 あ! シオンは目を剥いた。

「嘘だろ? なんであんなに嬉しそうなんだ……恋人の前で犯されているのに」
「シオン、不思議なもので、快楽に溺れた女はあのように淫らになってしまうのです。女は赤ちゃんを産むためなら強烈な痛みにも耐える。よってこのような屈辱的な痛みも快楽に変えてしまうのでしょう」
「バカな……そんなことがあってたまるか、あれじゃあヴァンが可哀想だ」
「ええ、そうね……」

 シオンは驚愕した。
 聞こえてくる王子の言葉がこの世のものとは思えないものだったからだ。シオンには呪文のようにも聞こえた。さらに、王子の唇が滑らかに動いている。
 
「おい、エレンヌ、気持ちいいか?」
「……うっ、うっ」
「なんとかいえよ、エレンヌ」
「……は、はい、気持ちいいですぅ、あんっ」

 アハハハ、とノワールは腹の底から嗤っていた。
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