26 / 40
青年時代
20
しおりを挟む王宮のなかは静寂に包まれていた。
人の気配がない。むしろ、人払いされているかのようにも感じられた。ルージュは大きく息を吐くと、
「まずは、のぞきましょう」
王子が楽しんでいるであろう部屋の扉を通過。
隣の部屋の扉を開ける。
ギィ、と音を響かせ入ったところは倉庫だ。
真っ暗で、ルージュはたちまち動けなくなった。
すると、シオンが腰に下げていた小さいランタンに火を点ける。
ぼんやりと足下が照らされた。
何とか歩けるようになったルージュだが、慣れない暗闇のなかで右往左往した。
するとシオンはルージュの手を繋いで歩いた。
二人の胸のうちは、バックンバックンに心臓が早鐘のように鳴っているが、なんとか平静を装う。シオンは自分の気持ちを必死に隠した。
ルージュのことが好きだとバレたら、恥ずかしいを通り越して執事として失格。つまり、クビ。伯爵家から追放されるだろう。
「し、し、し、シオン、あなたはのぞいてはいけませんよ」
「お、お、お嬢様、ずるいですよぉ」
震える唇を指で抑えながら、ルージュは片目を閉じて穴をのぞいた。
ここの壁は薄く、女の喘ぎ声がよく聞こえた。したがって、シオンはどうしてものぞきたい衝動に駆られ、レイピアを鞘から抜いた。
プスッ!
針の糸を通すように一瞬で壁に穴を開ける。
ルージュはシオンの動きを見ていない。それほど、隣の部屋で起きている光景に夢中になっている。口をあんぐりと開けて、見入っていたのだ。
ごくりとシオンは生唾を飲みこんだ後、ゆっくりと穴をのぞいた。
そこには!
縄で縛られたヴァンがいた。
さらに驚愕したのは、彼の目の前には裸の女が壁に手をついて尻を突き出している。そして、その女の尻を掴んで狂ったように腰を振る王子ノワールの姿があった。犯されている女の顔は、乱れるピンクの髪が垂れてよく見えない。
「うわっ!」
とんでもない光景が目に飛びこんできて、思わずシオンは叫んだ。その瞬間、バシッと背中を手のひらで叩かれた。
「いたいっ!」
手刀をつくっていたルージュが眉根を寄せて、
「うるさい、シオン……だから見ちゃダメっていったのに……しー」
といいながら人差し指を唇に当てた。
はい、と答えるシオンは、また穴をのぞく。
そもそもシオンは女の裸を見たことがなかったので、びっくりした。女の裸というものは、こんなにも美しくて興奮するものなのか、と感動していたのだ。
淫らにゆれるピンクの髪、あんあん、と喘ぐ女の声、男のごつい手で揉まれる大きな胸、ぱんぱんと肉と肉がぶつかる生々しい音が響く。妖艶に舞う男と女の姿を、シオンはじっと見つめていた。
その光景はあまりにも野生的。シオンから見たら王子のやっていることは、とても人間の行動とは思えなかった。まさに雄と雌の獣じみた動きだったわけだが。
──男は女に、あんなことをするのか?
とも思った。と同時に、俺もやってみたい、とも。
身体が一気に熱くなり、血液が沸騰しているような、そんな感覚もあった。下半身が硬くなり、何だか動きづらい。これが、勃起というやつか。こんな状態で、お嬢様の隣にいるなんて……。
──俺はやばい! 頭がイカれちまいそうだ!
とシオンは思いつつも、高鳴る胸が痛いほどに興奮していた。
そんな彼の情熱とは裏腹に、ルージュはいたって冷静沈着で、ふぅー、と息を吐くと、
「どうやら、ヴァンの心を破壊させるつもりね」
などと精神分析を始めた。
「王子ノワール、彼は人をムカつかせる天才ね、さてこれからヴァンがどうなるか……それを観察したいのでしょう」
「うわぁ……ノワールは最低なやつ。それにしても、お嬢様、なぜノワールはあんなふうに女をいじめるのですか?」
「シオン、勘違いしていますよ、あれはいじめているのではありません」
「え? だって、あんなに叫んでいるではないですか?」
「……シオン、女の顔をよく見てください」
あ! シオンは目を剥いた。
「嘘だろ? なんであんなに嬉しそうなんだ……恋人の前で犯されているのに」
「シオン、不思議なもので、快楽に溺れた女はあのように淫らになってしまうのです。女は赤ちゃんを産むためなら強烈な痛みにも耐える。よってこのような屈辱的な痛みも快楽に変えてしまうのでしょう」
「バカな……そんなことがあってたまるか、あれじゃあヴァンが可哀想だ」
「ええ、そうね……」
シオンは驚愕した。
聞こえてくる王子の言葉がこの世のものとは思えないものだったからだ。シオンには呪文のようにも聞こえた。さらに、王子の唇が滑らかに動いている。
「おい、エレンヌ、気持ちいいか?」
「……うっ、うっ」
「なんとかいえよ、エレンヌ」
「……は、はい、気持ちいいですぅ、あんっ」
アハハハ、とノワールは腹の底から嗤っていた。
1
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました
ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。
リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』
R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる