30 / 42
第六章 ロック
6 4月7日 18:15──
しおりを挟む「ぬこくんに手を出さないでっ!」
ロックは、目をむいて驚いた。
「な、なんで、たまちゃんがここに?」
ふふふ、と不敵に笑うたまちゃんは、腕を組んだ。
「仮想探偵を舐めてもらっちゃ困るわ」
「はあ?」
ロックは、いぶかしむ。
ぬこくんのあとを追いかけていたのよ、とたまちゃんは自信満々にいった。
え? なんで? とぬこくんが訊くと、たまちゃんは、もじもじと内股に身をよじらせる。なんとも乙女らしい。
「いっしょに帰ろうと思って……それでずっとぬこくんを尾行していたの」
ストーカーかよっ! とロックがツッコミを入れた。
あんたにいわれたくないっ! たまちゃんが拳をつくって怒鳴った。
「ロック、あなたがやっていることは犯罪よ! 脅迫、盗撮、それと強姦!」
あの……と沙織がいった。
「誰がロック先輩を訴えているのでしょうか?」
「え? 誰ってあなたが……あれ、違うの?」
クスクスっと沙織は笑った。
「あたしは訴えませんよ。ロック先輩の役に立てるなら、それでよき」
「ななな、なにをいってるの? あなた? エッチな動画取られちゃってるんでしょ?」
「あのぉ、いまどきエッチ動画ぐらい誰でも撮られるんじゃないですか?」
「はい?」
「私は自分の裸を誰に見られようが恥ずかしくないし、むしろどうでもいいっていうか、気持ちよければそれでよき」
あ、あたおか? と、たまちゃんは小さな声でいった。
「と、とにかく! ぬこくん、こっちに来て!」
うん、とうなずいたぬこくんは、ゆっくりと歩きだした。
ロックは両腕を頭で組むと、「あ~あ~」といって目を細めた。
「ぬこ~童貞卒業できなくて残念だったね」
いや、とぬこくんは否定した。
「好きな人じゃないから……」
すたすた、ぬこくんは倉庫から出ていく。眉間にしわがより、暗い影を落としていた。さすがに怒っているのだろう。彼の歩幅は大きくて、とても速い。
「あ! 待って~」
たまちゃんが追いかけていく。
ロックは、ぐっと悔しそうに唇を噛んだ。
沙織は、じっと物欲しそうにロックを見つめ、ワイシャツのボタンを外しはじめた。だが、ロックは腕を伸ばし、ボタンをとめていく。
「やめろ」
え? 沙織は目を丸くした。
ロックは指先を沙織に顎にあて、グイッと押しあげる。
「もう帰れ!」
「え? 先輩……してほしい……」
沙織は、上目使いでおねだりした。
ロックは、目を閉じると首を振った。
「ダメだ……」
「……」
沙織をただ黙って倉庫から出ていった。
ひとりになったロックは、跳び箱の上段にある白いマットを、ギッとにらみ、
「くそっ! くそっ! ぬこーー!」
と叫び、殴りつづけた。
ロックの怒り狂った声が、まるで獣物のように体育館倉庫に響いている。夜の闇が、とっぷりと校舎を包み込んでいた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
シグナルグリーンの天使たち
聖
ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。
店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました
応援ありがとうございました!
全話統合PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613
長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる