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第六章 ロック
1 4月6日 17:45──
しおりを挟むロックは、廊下の窓に映る自分の姿に見惚れていた。
灰桜のマッシュヘアを指先でかきあげ、ふぅ、とため息を吐く。その髪をつくるためには、美容院『chisel』で三万円ほどかかっていた。彼を担当する美容師のお兄さんは、いつもこのような確認をとっている。
『高校生なのに、こんな色にしていいのか?』
ロックは自分の目を見つめ、こくりとうなずいた。
高校二年生、十七歳の彼は、じつは地下で活躍するインディーズバンドのヴォーカルで、そのライブ映像の動画配信はなんと、十万回以上再生されている人気ぶりだ。
ギターをかき鳴らしながら、灰桜の髪をゆらして歌う少年の姿は、少女たちのハートをマシンガンのごとく撃ち抜くもよう。
必然的に彼が校内を歩くと、とてもいい香りがするのも手伝い、女子生徒たちから、きゃー! という歓喜の声があがるから、見ているこっちは面白い。
「ロック様~」
「かっこいい~」
「ライブ見にいきます~」
しかしロックは、なにごともなかったかのように歩き去る。
──あいかわらず、クールな男ね……。
その表情は、有象無象に興味なし、といった様子で冷ややかな視線を女子生徒に送るのみ。だが、それがまたいいのか、女子生徒たちは、きゃー! といって手を叩く。
──ツンデレかな?
彼は、基本的に人に媚を売ることはしないタイプで、特定の女と交際した経験はない。いや、正確にいうと去年の夏に、わたしに付き合ってほしい、と告白してきた。
その姿を監視カメラがとらえていたのだが……。
──うーん、消去したい。
緑風に吹かれて揺れる葉桜の木の下で、ひとり取り残されたロックは、カラカラと風化する蝉の抜け殻のように、ただ呆然と立ち尽くしていた。さすがにわたしも、彼のことを哀れに思う。
──皮肉なものだ。
多数の女子にいくらモテたところで、自分が一番好きな女にはモテないのだから。
ところで、ロックは神楽校長の息子だから、学校のセキュリティには詳しいはず。それなのに、監視カメラに告白映像を撮られるなんて凡ミスをした。なんとも滑稽である。恋をするとまわりが見えず、盲目になるとは、よくいったものだ。
それにしても、学校一番の人気者のロックを、わたしは一蹴してしまったわけだが、思えばこの頃かもしれない。陽キャたちのわたしを見る目が、悪意に満ちてきたのは……。
結果、わたしはタナトスの誘惑に負け、蝶のように舞った。
──空を泳いで、彷徨って、浮いて……瞼を開いたら精神病棟で寝かされ、隔離されていた。自殺に失敗した? いや、ぬこくんが助けてくれたのだ、わたしを抱きしめて……。
この因果関係は、ここからスタートしているのだとしたら、ロックの告白動画は貴重な証拠だろう。わたしの記憶のアーカイブに保存しておこう。
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