14 / 84
第一部 春
12 かわいい弟系男子 シエル・デトワール
しおりを挟む
現実ではありえないことが起きる。それが乙女ゲームの世界。
こんなふうに突然、かわいい系のイケメン男子の声が聞こえてくることもある。耳を傾けると、言っているセリフが、ちょっとミステリアスで面白いから笑ってしまった。
「君はいらない……君もだ……君も君も……ああ、なぜ美しい価値のあるものには、いつも邪魔ものがはびこるのだろう。おお、神よ。なぜ美の追究は痛みをともなうのだろう?」
わたしはルナとロックの三人で顔を見合わせた。
声のするほうを見ると、少年が花壇で這いつくばって草をむしっていた。
その草は花に絡みついて絞め殺す悪い草。わたしも見つけたら、ぶちっと引っこ抜く。でも、こんな小さな双葉のうちから目を光らせることはしない。つまり、この少年は何か嫌なことがあって、その腹いせに草の駆除をしている。
まあ、何があったのかは、わたしには察しがついているから、あまり心配はしていない。
それよりも、なぜロックがいる状態で、このイベントが発生するのだろう。
わたしもいるし。うーん、解せない。
本来のシナリオであるならば、ルナが一人でいるときに発生するべきだ。でも、わたしは実際にゲームプレイしてないので、この軌道が間違っているのかどうかの判断がつかめない。もしかしたら、乙女ゲーム的には別にいいのかもしれない。うーん、なんともあやふやな、ふんわり感がある。まあ、とりあえず流れに身をまかせてみるとしよう。
「いらない、いらない……美しいもの以外、この世にいらない!」
少年はあいかわらず、草をぶちぶち引っこ抜く。
こんな謎めいたセリフをつぶやく少年は、この乙女ゲーに一人しかいない。
彼の名前はシエル・デトワール。
今年度から学園の仲間になった新一年生だ。
国家宗教プリエール教の教皇でもあるフーマ教皇の一人息子。
フルール学園高等部一年生として所属。
世間からは、なぜフーマ教皇の溺愛する一人息子が、普通科のパルテール学園に入学したのか誠に不思議でならない。シエルならプリエール宗教学校に行くべきだろうと噂されている影の実力者だ。例えるならば、東大理工学部に行くべき人が、京大文学部に行くようなものだ。
しかしながら、その事実を知っている者は少ない。
わたしの実家は花屋なので、教会の花飾りなどの仕事の手伝いをしていた。よって、シエルとわたしは、幼いころから家族ぐるみの付き合いだった。
十年前、初等部のころの話だ。
わたし、ソレイユ、ロック、シエルの四人でよく冒険の旅だとか豪語して遊んでいた。その冒険はとてもシンプルなもので、公園の裏手にある教会に行ってラスボスである神父さんのお尻を叩いてやっつけて、公園に凱旋するというものだ。
ソレイユは爽やか勇者、ロックは屈強な戦士、そして、わたしは魔法使いで、シエルは僧侶だった。でも、シエルは小さなときから少し変わっていて、僕は錬金術師がいいです。なんて難しいことを言っていた。そのたびに、ロックからうるせーな小僧は、などとなじられ、ソレイユからは博識ですね、なんて褒められてデレる幼児のシエルがいた。
結局、神父さんのお尻を叩いて怒られるのは、いつもシエルだから損な役回り。なぜなら神父はシエルの父親であり、十年後にはフーマ教皇になる人物なのだから驚いてしまう。まあ、この乙女ゲームはキャラの設定が深いところがあるので、やり込み要素は満点。さらに、わたしはシエルから意味深な告白を受けていたことを思い出した。
こんなふうに突然、かわいい系のイケメン男子の声が聞こえてくることもある。耳を傾けると、言っているセリフが、ちょっとミステリアスで面白いから笑ってしまった。
「君はいらない……君もだ……君も君も……ああ、なぜ美しい価値のあるものには、いつも邪魔ものがはびこるのだろう。おお、神よ。なぜ美の追究は痛みをともなうのだろう?」
わたしはルナとロックの三人で顔を見合わせた。
声のするほうを見ると、少年が花壇で這いつくばって草をむしっていた。
その草は花に絡みついて絞め殺す悪い草。わたしも見つけたら、ぶちっと引っこ抜く。でも、こんな小さな双葉のうちから目を光らせることはしない。つまり、この少年は何か嫌なことがあって、その腹いせに草の駆除をしている。
まあ、何があったのかは、わたしには察しがついているから、あまり心配はしていない。
それよりも、なぜロックがいる状態で、このイベントが発生するのだろう。
わたしもいるし。うーん、解せない。
本来のシナリオであるならば、ルナが一人でいるときに発生するべきだ。でも、わたしは実際にゲームプレイしてないので、この軌道が間違っているのかどうかの判断がつかめない。もしかしたら、乙女ゲーム的には別にいいのかもしれない。うーん、なんともあやふやな、ふんわり感がある。まあ、とりあえず流れに身をまかせてみるとしよう。
「いらない、いらない……美しいもの以外、この世にいらない!」
少年はあいかわらず、草をぶちぶち引っこ抜く。
こんな謎めいたセリフをつぶやく少年は、この乙女ゲーに一人しかいない。
彼の名前はシエル・デトワール。
今年度から学園の仲間になった新一年生だ。
国家宗教プリエール教の教皇でもあるフーマ教皇の一人息子。
フルール学園高等部一年生として所属。
世間からは、なぜフーマ教皇の溺愛する一人息子が、普通科のパルテール学園に入学したのか誠に不思議でならない。シエルならプリエール宗教学校に行くべきだろうと噂されている影の実力者だ。例えるならば、東大理工学部に行くべき人が、京大文学部に行くようなものだ。
しかしながら、その事実を知っている者は少ない。
わたしの実家は花屋なので、教会の花飾りなどの仕事の手伝いをしていた。よって、シエルとわたしは、幼いころから家族ぐるみの付き合いだった。
十年前、初等部のころの話だ。
わたし、ソレイユ、ロック、シエルの四人でよく冒険の旅だとか豪語して遊んでいた。その冒険はとてもシンプルなもので、公園の裏手にある教会に行ってラスボスである神父さんのお尻を叩いてやっつけて、公園に凱旋するというものだ。
ソレイユは爽やか勇者、ロックは屈強な戦士、そして、わたしは魔法使いで、シエルは僧侶だった。でも、シエルは小さなときから少し変わっていて、僕は錬金術師がいいです。なんて難しいことを言っていた。そのたびに、ロックからうるせーな小僧は、などとなじられ、ソレイユからは博識ですね、なんて褒められてデレる幼児のシエルがいた。
結局、神父さんのお尻を叩いて怒られるのは、いつもシエルだから損な役回り。なぜなら神父はシエルの父親であり、十年後にはフーマ教皇になる人物なのだから驚いてしまう。まあ、この乙女ゲームはキャラの設定が深いところがあるので、やり込み要素は満点。さらに、わたしはシエルから意味深な告白を受けていたことを思い出した。
1
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる