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プロローグ

2 わたしには未来が見える

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 わたしは……。

 わたしは高嶺真理絵たかみねまりえという日本の女子高生だった。
 年齢は十六歳。
 友達から借りた乙女ゲーム『パルテール学園~告白は伝説の花壇で~』通称パル学をプレイするまえに、公式ファンブックを読破していたことを思い出した。
 
 ぱっと視界がはっきりと見えてくる。
 頭がものすごくクリアで冴えている。ふと、首を振ってあたりを見まわす。
 
 今日は始業式。
 黄金色に輝いているステージは、豪華絢爛に花が飾られていて、式典にいるみんなの顔がよく見えた。いや、それだけではない。呼吸の音さえ聞こえてくる。香水や整髪料の匂いも鼻につく。視覚、聴覚、嗅覚……あらゆる感覚器官が研ぎ澄まされていく。
 
「見える、聞こえる、香る……す、すごい……」

 学園の全生徒、先生たち、学園長、来賓の偉人たち、王太子ソレイユ、そして転校生ルナスタシアの顔が、わたしの脳内へと機械的にインプットされていく。
 
「な……なんなのこれ? ヤダ……」
 
 今までのわたしじゃないみたい。
 頭脳がフル回転してる。
 す、すごい。
 自分のことが俯瞰して見える。
 つまり、鳥のような目線で客観的に自分を眺めている達観した状態。ヤダ、なにこれ? しっかりしなさい。マリ・フローレンス、あなたはいま始業式に出席してる。キョロキョロとみんなのことばかり見ないほうがいい。変な行動をすると目立つからやめておきなさい。あなたはそんなキャラじゃないはず。

 つづいてステージのうえでは、生徒たちお待ちかね、新任教師の紹介コーナーになっていた。美人女教師が登場すると、「うおぉぉぉ!」なんて歓喜する男子生徒がたちいるかと思えば、イケメン教師の登場に女子生徒たちの、「きゃあああ!」なんて黄色い声もあがる。パルテール学園の始業式、本日一番の盛り上がりを見せていた。
 
 美人教師はニコル・シュピオンと名のり、お辞儀をした。ハーフアップの綺麗にまとまった髪がふわりと流れ、男子たちにはたまらない大人の色気をかもしている。

 イケメン教師はデューレ・クリスタッロと名のった。彼は深みのある紳士的な声で、女子生徒たちの心を奪った。ピンク色したハートがふわふわ浮いて、うっとりする女子生徒たちの顔が並んでいる。
 
 でも、わたしの心境はそれどころではない。
 
 わたしはじわじわと高嶺真理絵の記憶を思い出しつつあった。例えるなら、高嶺真理絵の記憶のダウンロードが完了して、あとはマリエンヌ・フローレンスの身体にインストールするだけという進捗状況だった。残りあと数パーセントって感じ。すべての記憶を取り戻したら……わたしどうなっちゃうんだろう? 正直、情緒不安定……。
 
 それでも、そのおかげでルナスタシアとソレイユの恋の物語が、この日からはじまる! ということを察知していた。おそらく、全校生徒、先生たち、学園長、来賓の偉人さんたち、みんな知らないだろう。でも、わたしにはわかる。

 しかも、それだけではない。

 この乙女ゲームの佳境にはバッドエンドが隠されていて、ヒロインのルナスタシアがひとつ選択を間違えると残酷な悲劇が訪れることになる。さらには、愛する男性を一人に絞るという究極の選択をしなくてはならないこともわかっている。
 
 そうよ、わたしには……。
 
 未来が見える!
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