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上巻

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  坊主頭の正体は、フクさんの高校時代の同級生、マッキーだった。
  
  マッキーは俺とフクさんを見つけると、勢いよく駆け寄って来た。
  
「ぅいーす!  あちーすね」

「ああ、熱いな!  なあ、マッキー、チケット買っといてくれたか?」

「うっす」

  フクさんの一声で、マッキーはチケットをフクさんと俺に手渡した。
  
「え……いくらですか?」と俺はマッキーに言った。

  マッキーは「いいよいいよ」と手を横に降るだけだった。
  
  俺はペコリと頭を下げる。マッキーは照れ臭そうに顔を赤らめていた。
  
  俺たちは早速、更衣室で水着に着替えた。
  
「うおお!  美少年の裸はヤバイっすね!」

  マッキーは着替える俺の方を見ながら興奮している。何がヤバイのだろうか。まったく意味不明だった。
  
  俺は首をかしげながらフクさんを見た。
  
  いやいや、本当ににヤバイのはこっちだろう。
  
  フクさんの鍛え抜かれた筋肉美の方がよっぽどヤバイよなあ。
  
  なんであんなに腹筋が割れて……あの腕どうなってるんだ……どう見たってフクさんの裸の方が女は興奮するだろうに……。
  
  フクさんは涼しげな表情でマッキーに指令を出した。
  
「おい、マッキー、バカなこと言ってないで、さっさと浮き輪に空気入れてプールで浮いてこい!」
  
  マッキーは敬礼すると「へい!  隊長!」とか言ってプールサイドに消えた。
  
「なんなんすかね?  俺なんてぜんぜん筋肉ないからダメダメなのに……」

  フクさんが俺の方をチラッと見て笑った。
  
「ああ、マッキーが言っているのは、女から見たらヤバイってことさ」

「え?  女?」

「ああ、サカは典型的な細マッチョだ、しかも顔がジャニーズ系だから、もう美少年好きな女子からしたら、おまえの体は舐め回したくなるレベルだぞ」

「……え?  舐め回すってなんですか?  女って男を舐めるんですか?」

「あはは、そっか、サカは童貞だからわかんないか、すまんすまん、あははは」

  フクさんは腹を抱えて笑っていた。
  
  俺はどこかの道端に転がった石ころのような気分になった。
  
  女が俺を舐め回す?
  
  そんなことが現実の世界でありえるのだろうか?
  
  たしかに、AVやエッチな漫画とかアニメでそんなシーンがあったけど、それはあくまでもファンタジーの世界であって、俺にとっては本当に未知なる世界だった。
  
  現実の女がどんなものか……まったくと言っていいほどわからなかった。
  
  フクさんは水着の紐を縛ると、颯爽とシャワーを浴びてプールサイドに出た。
  
  素足でぴょんぴょん跳ねながら駆けていく。
  
  地面のタイルが太陽の照射で熱くなっているのだろう。
  
  健康的に焼けたフクさんの体が揺れていた。
  
  フクさんの方がよっぽど女からモテそうだけどなあ……。
  
  俺はそんなことを思いながらフクさんの後についていく。
  
  照りつける太陽の日差し、弾ける水しぶき、きらめくプールの水面には、きゃっきゃしながらはしゃいでいる人の笑顔が泳いでいた。
  
  その中に、坊主頭のマッキーがぷかぷかと浮き輪に乗っかって流れていた。
  
「わ!  あいつ、もうあんなところに!」

  驚いたようにフクさんはそう言うと、するするとマッキーに気づかれないように移動していた。
  
  すると、何かに目星をつけたような鋭い目つきになった。
  
  まるでハンターが野生の動物を狩るような前触れであった。
  
  その目線の先には、お姉さんたち2人組が泳いでいた。
  
  お姉さんたちの特徴は完全にギャルって感じだった。
  
  パリピと言っても過言ではなかった。
  
  茶髪でマツエクのきらきらメイク、可愛らしいネイルもばっちりしていた。
  
  水面の下でゆらぐ艶かしい水着姿は、どんなものか期待せざるを得ない。
  
  そして、フクさんは狙いを定めていた。
  
  じり、じりとマッキーとギャルが上手いこと重なりあった瞬間!
  
  そいつらめがけてプールに飛び込んだ。
  
  バシャーン!
  
  飛び込みはもちろん禁止だ。
  
  しかし監視員のバイトたちは、うだるような暑さにやられていて、いちいち注意することはなかった。
  
  そもそも、監視員の人数は明らかに少なかった。
  
  プールで泳いでいるお客さんの人数も中に入ってみると、そんなにいなかった。
  
  だから、どうしても水着の女の子たちに目を奪われがちになる。
  
  圧倒的に子どもが多かったが、中高生やお姉さんたちもいた。
  
  水着姿がまぶしかった。
  
  なぜなら、俺からしたら女の子の水着なんて、ブラとかパンツのような下着の類と同じものであった。
  
  だからプールにいる女の子たちは、下着で歩いているようなものだった。
  
  肩にかけられた水着の紐に下には、ぷるんとおっぱいが揺れている。
  
  おっぱいたちが、流れるプールにぷかぷか浮いているようなものだ。
  
  そのバリエーションは豊富だった。
  
  ピンク色の水着は、まるで桃のようで、どんぶらこっこっと流れている。
  
  緑色の水着は、まるでマスクメロンのようで、かぶりつきたい衝動に駆られた。
  
「おーい!  サカ!  おまえもこい!」

  きらめくプールからフクさんが俺を手招きしている。
  
  俺は体にかけ水をしてからゆっくりとプールに入った。
  
  フクさんはそれを見て「お風呂かよ」って笑った。
  
  マッキーはフクさんの飛び込みを食らってひっくり返っていた。
  
  泳げないのであろうか?
  
  すると、マッキーが慌てた拍子で近くにいたギャルにぶつかってしまった。
  
「きゃあ!」



  ギャルはなんとも可愛らしい声で叫んだ。
  
  連れのギャルはそれを見てゲラゲラ笑っていた。
  
  フクさんはマッキーにぶつかってよろめくギャルの肩をそっと支えてあげた。
  
  その行動がなんとも自然で当たり前な仕草で、なんの違和感も感じなかった。
  
  フクさんがギャルの耳もとでささやいた。
  
「大丈夫?」
  
  ギャルは「……あ」と小さな声をあげながら下を向いた。
  
「ありがとう……」

  とギャルが顔をあげて感謝すると、フクさんはニッコリと笑った。
  
  ここでそんなさわやかな笑顔をされたら女の子はひとたまりもないだろう。
  
  先日のレンタル屋のお姉さんでそのことは確認済みだった。
  
  フクさんの強面からのさわやかな笑顔は犬みたいに可愛いのだ。
  
  もう一人のお姉さんは、その景色が羨ましかったのか、ぼーっとフクさんを見つめていた。
  
  マッキーはやっと体制を整えると浮き輪につかまりながらギャルに声をかける。
  
「俺、泳げないんすよ!  あはははは」

  すかさずフクさんがつっこみをいれる。
  
「あははじゃねえよ!  ちゃんとお姉さんに謝れ!」

  ギャルたちは、きゃははと笑っていた。
  
  俺はフクさんが華麗なステップで女の子たちと笑いあっていることに度肝を抜かれて、ただ、ぷかぷかと水面に浮いていることしかできなかった。
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