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第3章 白と黒の狭間で

16.道を作る

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「……シロー先輩! そして、ベラ!」
「なんや!?」
「どうしたの~?」
「頼む! 少しの間、ミツバを食い止めてください! オレが、あの島までの道を作ります!」
 シロー先輩とベラがとまどうような声を出したのが聞こえた。だけどすぐに、
「……可愛い後輩の頼みや! やったるわ!」
「うん! やってみるの~!」
 二人は快く了承してくれた。
『すまんな! しばらく、あやつの相手を頼むぞい!』
 オレはすばやく後ろに飛び、ミツバから距離を取った! そして、海辺に向かって全力で走る!
「待てよ! 逃げるのか卑怯者!」
 ミツバが、ぶん、とこん棒を振る音が聞こえた!
「ベラ! ありったけの鳴力を注いだる! だから、思いっきり巨大化するんや!」
「了解なの~!」
 ごう、と風が吹く音が聞こえる。だが、オレの体に直撃することなかった。走りながら後ろをちらりと振り向くと、巨大化したベラがミツバの風を防いでくれているのが見えた。
「二宮! タリス! 今からオレがあの島までの道を作る! 二人は、あの島に行って二宮の姉さんを助けてくれ!」
「道を作る!? どうやってですか!?」
「こうするんだ!」
 オレは刀を強く握りしめ、天に掲げた! そして、イメージをする! 
 ――あの島まで続く、炎のトンネルを!
「うおおおおっ!」
『ばーにんぐじゃああぁぁぁ!』
 邪魔な海水を弾いて、蒸発させる! そして、二宮とタリスが通れるだけの小さなトンネルが作り出せればそれでいい!
「カズキさん! こんなの、絶対体に負担がかかりますよ!」
「大丈夫! オレはやると決めたらやる男だ!」
 よし! イメージ通り、島に繋がる炎のトンネルを作り出すことができた!
「さあ、走れ!」
『ワシらを信じるんじゃ!』
 体の力が抜けていくのを感じる! あまり、長くは保たない!
「分かりました! ……今のカズキさん、かっこいいですよ!」
 そう言った後、二宮は炎のトンネルの中を走り出した! 
 ……かっこいい、か。二宮にそう言われるのは、なんか嬉しいな。不思議と胸が熱くなる。
「道を作ってくれて、ありがとう。必ず、助けるから」
 タリスの体が紫色の光に包まれ、消えた。恐らく、紫の手袋に変身して二宮の両手に装着されたのだろう。
『ぐぬぬぬぬっ! ワシはあまり根性論は好きでは無いが、やっぱりここぞという時に根性は必要になるもんじゃな!』
「そうだな! でも、やるしかないと言ったのはシバだからな! 付き合ってもらうぞ!」
 油断したら気を失いそうだ! けど、二宮たちがあの島にたどり着くまでは絶対に倒れるものか!
「邪魔をするな! 僕はカズキを叩きのめす! そして僕の正しさを証明してやる!」
 ごうごうと風が吹く音がする! けど、巨大化したベラが風を防いでくれてるからオレの体は揺るがない!
「むむむっ、飛ばされてたまるかなの~!」
「正直しんどいけど、ここが踏ん張りどころやな! 後輩たちはワイらが守ってみせるで!」
 シロー先輩とベラもミツバの攻撃を食い止めてるんだ! みんなの頑張りを無駄にするわけにはいかない!
「カズキさーーーん! 島につきましたよーーー! もう炎を消していいですよーーー!!」
 二宮の声だ! もう島に着いたのか! あと、島からここまで大分距離があるはずなのに声がはっきりと聞こえる! 体力も声量もすごいなあいつ! さすがアイドル!
『やったのう! カズキ!』
「ああ。けど……」
 炎のトンネルを消した後、オレは砂浜に膝をついた。脚に力が入らない。どう考えても、鳴力の使いすぎだ。
「くそっ。ミツバをどうにかしないといけないのに……」
 立って、ミツバと戦わないと。そして、バグスピの正体をあばかないと。でなければ、何にもならない。
『ふム。ピンチのようだナ』
 突然、胸がカッと熱くなり、頭の中に声が響いた。
「この声は……ダンデか?」
『そうダ。ピンチの時は助ける約束だっただろウ。我の鳴力を分け与えよウ』
 全身に、熱が行き渡っていく。失った力が、戻っていくのを感じる。
『あたくしノ鳴力モ分ケテアゲルワ。大好キナカズキ様ノタメニネ』
 ダンデに続き、ユリの声も頭に響いた。また胸が熱くなり、全身に力がみなぎるのを感じる。
『これはありがたい! 力がわいてくるぞい!』
 力がみなぎっているのはシバも同じようだ。これなら、まだ立てる。……まだ、戦える!
『お主は友のために戦うのだろウ? 友愛もまた愛。愛のために生きる者を、我は全力で支えよウ』
『ジャア、あたくしハ愛ニ生キルカズキ様ニオマジナイヲカケルワ。友達ヘト想イガ届クオマジナイヲネ』
 愛とおまじない、か。ダンデとユリらしい応援の仕方だ。思わず、笑みがこぼれる。
「ありがとう。オレ、必ずみんなとラビリンスから脱出する。そして、ミツバと仲直りするよ! ……行くぞ、シバ!」
『ガッテン承知じゃ!』
 立ち上がり、オレは走る! 向かうのは、もちろんミツバがいる場所だ!
「ぐむむむ~! もう限界なの~!」
「くっ、これはちょっとあかんな……」
 トラックくらいの大きさになっていたベラが、もくもくとした煙を出しながら徐々に縮んでいっている! 多分、シロー先輩とベラの鳴力が少なくなっているんだ!
「ムダなあがきだったね! さあ、吹き飛べ!」
 ミツバが、こん棒を高く振り上げた!  
 ――まだ、ミツバがいる場所までは距離がある!
「させるかあああっ!!」
 オレは走りながら、刀を軽く横に振った! すると――
「つっ……!?」
 ミツバのすぐ前に小さな炎のカベが現れた! おかげでミツバがひるみ、こん棒を振り下ろすのを阻止することができたようだ!
「た、助かったの~」
「ありがとなカズキくん! あと、すまん! ワイらは、へとへとでしばらく動けんかもしれへん……」
「大丈夫! 先輩たちはゆっくり休んでください!」
 砂浜に倒れ込むシロー先輩たちにそう声をかけながら、オレはミツバの背後に素早く回り込む! 
 オレの存在に気づいたミツバが慌てて振り返り、こん棒を振り下ろそうとしてきたが遅い! オレは、刀でこん棒をしっかりと受け止めた! そしてそのまま体重をかけ、つば競り合いの状態に持ち込む! 
 二宮が目的を果たすまで、なるべく鳴力を温存しながら時間を稼がないと! 
「何だ、逃げたのかと思ったよ……!」
「オレはもう逃げない。むしろ、今逃げているのはお前の方なんじゃないか!?」
「逃げているだと? 僕が……!?」
「そうだ! 自分のイヤな部分を知る人間をラビリンスに閉じ込めて無かったことにしようなんて、逃げているとしか思えない!」
 かっこいい人間になりたいという気持ちは分かるし、他人にはかっこいいところだけ見せたいという気持ちも分かる。だけど、自分自身のイヤな部分を隠すために、誰かをラビリンスに閉じ込めるなんて絶対に良くないことだ。それだけは、認めるわけにいかない。
「じゃあ、どうすればいいんだ! 君だって、こんな僕はおかしいと思っているんだろう! あの時、確かにそう言ったじゃないか!」
 あの時――二年前。オレは好きなものから目をそらすため、ウソにウソを重ねてミツバに酷いことを言った。きっと、それは深くミツバを傷つけただろう。
「……あの時は、本当にごめん」
「えっ……?」
「やっと気づいたんだ。誰が何を好きであっても、おかしいことなんてないって。だからもう好きなものを隠さない。オレは花が好きだし、その気持ちを抱えたままかっこいい人間になりたい」
 気のせいだろうか。ミツバの力が少し緩んだ気がする。
『周りがどう思おうと、関係ない。好きなものは好き。ただそれだけでいいと、ワシは思うぞ』
 とても優しい声で、シバはそう言った。
 思えば、オレも周りのことを気にしすぎていたのかもしれないな。おかしい人間だと思われたくないから、花が好きという気持ちを必死に見ないふりをして二年間過ごしてきた。でも、好きなものを好きと言えずに過ごすのはとても苦しかった。
「なあ、ミツバ。オレと、仲直りしてくれないか? オレはまた、お前と友達になりたい。一緒に、好きなものを好きだと言い合える関係になりたいんだ」
「カズキ。僕は……」
 ミツバの手から、こん棒が滑り落ちる。もう、ミツバに戦う意思はないようだ。
「僕は僕のまま、胸を張って生きていいのかな……?」
 少し泣きそうな顔で、ミツバはそう呟いた。そんなミツバに、オレはこう言葉をかける。
「決めるのは、ミツバだぞ」
『おっ。どこかで聞いた感じの言葉じゃのう』
「バレたか」
 シバに指摘され、オレは思わず笑ってしまう。
 決めるのは自分自身。これは、二宮が昨日オレに言った言葉だ。誰が何と言おうと、最終的に決めるのは自分自身だ。それが、きっと大事なんだとオレは思う。
「……僕は、僕のままで胸を張って生きたい。僕にとって都合が悪いことを知る人をラビリンスに閉じ込めようなんて、卑怯なことだった。そんな卑怯な手を使うなんて、僕がなりたい僕じゃない……」
「なら、今からなりたい自分になればいいだろ。オレもなりたい自分になれるように頑張るからさ、一緒に進もうぜ」
 オレが右手を差し出すと、ミツバもゆっくりと手を伸ばしてきた。もうすぐ、手が届く。そう思った瞬間――
「おっと。あっしを置いていくつもりかい? そりゃいかんねぇ」
 ミツバが砂浜に落としたこん棒が、灰色の光を放った直後に消えた。代わりに現れたのは、ボロボロの黒いマントを身につけた、二足で立つ白いライオン。おそらく、こいつがこのラビリンスの主であるバグスピだ!
「くっ!」
「ミツバ!?」
 突然現れた白いライオンのバグスピは、大きな手でミツバの首を掴んだ! 鋭い爪が、ミツバの首元で光っている!
「せっかく、自分が何者なのか分からない仲間ができたと思ったんですがねぇ」
『なんじゃお前は! 丸く収まりそうだったのに、邪魔するでないわ!』
「邪魔してるのはあんさんらの方ですぜ。ミツバはあっしの相棒だ。相棒は、同じ境遇でなければならない。あっしと同じように、何者なのかを白黒はっきりつけられず、復讐の嵐に身を委ねる生き方をするべきでしょうが」
 まただ。また、白黒と復讐という言葉が出てきた。恐らく、これはバグスピの正体をあばくためのヒントだ。
「ぐっ、ううっ……」
「よせ! お前の正体は、オレがあばいてやる! だから、ミツバを離せ!」
「ほう? あんさんが、あっしの正体を知ってるんで? なら、早く教えてほしいねぇ。あっしが、何者なのかを」
 バグスピが、オレを見つめてきた。気のせいだろうか。その目は、不安そうに見えた。話し方は余裕そうだが、実際は余裕なんてないのかもしれない。けど、余裕がないのはオレも同じだ。バグスピの正体をあばく前に、二宮が二宮の姉さんをケージから出す必要がある。それに、バグスピの正体をあばくといったものの、オレはまだ正体を特定できていない。
「ちいっ。まさか、クラブに変身しとったバグスピがこんなごついやつとは思わんかった。ワイの力だと、力づくで引きはがすのは厳しそうやな……」
 砂浜の上に倒れていたシロー先輩がゆっくりと体を起こしながら、そう呟いたのが聞こえた。
 ……クラブ? そういえば、こん棒のことを英語でクラブって言うんだっけ。待てよ。確か、このクラブが語源の花があったような……。
「……シロー先輩! ナイス!」
「は? ワイ、何もしてへんけど……」
「いや。シロー先輩のおかげで、バグスピの正体が分かった!」
「なんやて!?」
 重要な言葉は、クラブと復讐。そして、シロとクロだ!
「カズキさあああぁん!! 無事、姉さんを助けられましたよおおおおおっ!!」
 島の方から、二宮の声がした! どうやら、無事に姉さんを助け出すことに成功したようだ!
『よし! カズキ! あいつの正体をあばいてやるのじゃ!』
「おう! ――告げる! お前の正体、それは……」
 クラブが語源。そして、復讐という花言葉を持ち、シロとクロという言葉が名前に入る白い花。その名は――。
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