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第2章 恐怖のラビリンス

8.悪霊退散

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「悪霊退散!! 悪霊退散っっ!!」
『落ち着くのじゃ! カズキ!!』

 オレは、かっこいいものが好きだ。可愛いものも、キライではない。
 ――けど、こわいものは大ッッキライだ!!

 今、オレは夜の墓地に居た。いや。正確に言えば、夜の墓地の見た目をしたラビリンスの中に居る。
 そして、ラビリンスの中でオレは顔がない人形の大群に囲まれていた! 
 顔がない人形の群れが、カタカタと音を鳴らしてオレに迫ってくる! だからオレは刀に変身したシバをひたすらに振った! 
 刀から放たれた炎の柱が、人形の群れを包み込む!

『考えなしに鳴力を使うのはやめるんじゃ! このままだと体力が尽きるぞい!』
 しまった、と思った時にはもう遅い。オレの体がカタカタと震え、力が抜けていく。
 大量の顔なし人形を燃やし尽くしたが、それを上回る勢いで顔なし人形は増えている。
 どうにかしないといけないけど、鳴力を使いすぎて刀を握るのも厳しくなってきた。

 ――ああ。どうして、こんなことになったんだっけ。

 §

 四月九日。火曜日の放課後。オレは、校舎の二階にある園芸部の部室に居た。
「園芸部の部長であるひふみんの救出。そして、バグスピ関連事件を引き起こしている可能性がある仮面の女子の正体をあばく。とりあえず、それが今のワイらの目標やな」
 そう言いながら、シロー先輩がホワイトボードに文字を書いていく。どうやら、シロー先輩は園芸部の部長をひふみんというあだ名で呼んでいるらしい。
「で、その目標を達成するためにはカズキくんとシバくんの力が必要不可欠なんや」
 シロー先輩がオレにペン先を突きつけてきた。急に話を振られたオレはつい慌ててしまう。
「何でですか?」
「昨日、分かったやろ。ワイもニナちゃんも、戦闘向きの鳴力を持ってないんや。もし、昨日カズキくんが戦闘向きの鳴力に目覚めなかったらやばかったなあ」
「それと、お花が大好きなカズキさんは花言葉とかにも詳しいみたいなので、バグスピの正体をあばくためにも必要な存在ですね」
 シロー先輩と二宮がうんうんと頷きながらそう言った。
「いいか。オレは花が好きとは言ってない。キライではないだけだ。あと、昨日も思ったけど、二人ともオレに丸投げしすぎじゃないか? 今まではどうしてたんだよ」
「私の姉さんが戦闘向きの鳴力を持ってて、お花にも詳しかったんですよ。なので、バグスピの攻撃をしのいだり正体をあばく係は姉さんでした」
「なるほど……」
 昨日、ラビリンスの中でオレがやったようなことを二宮のお姉さんがやっていたわけか。大変だっただろうなあ。
「ちなみにワイらの鳴力は戦闘向きではないけどラビリンスの外でも大活躍やで。条件はあるけど、ラビリンスの気配を現実で察知することができるんや」
「条件って?」
「それはな、夕方にしかラビリンスの気配を察知できないということや。そもそも、ラビリンスの入口が夕方にしか出現しないもんやからなあ」
 ラビリンスの入口が夕方にしか出現しない? それは、一体どうしてだろう。
「ラビリンスの入口が夕方にしか出現しないのは、一体どうしてだろうって顔をしてますね。カズキさん」
「お前はエスパーか何かか?」
「違います。ただのアイドルです」
 このアイドル、怖い。どうしてオレが考えていることが分かったんだ。ひょっとしてオレ、表情に考えてることが出やすいのか?
「なあカズキくん。逢魔が時おうまがときって言葉を、知ってるか?」
「おーまがとき……。聞いたことがあるような、無いような……」
「簡単に言えば、不吉なことが起こりそうな時間ってことや。詳しい理屈は分からんが、バグスピは逢魔が時――つまり、夕方に活動が活発になる。そして、ラビリンスの入口が出現することがある。まさに、不吉なことが起こりやすいわけや」
 不吉なことが起こりやすい時間。それが、逢魔が時か。バグスピやラビリンスが出現しやすいなんて、確かに不吉な時間だな。
「むむっ! 大変なの~!」
 部室のすみっこに居たベラが、突然そう叫んだ。急にどうしたんだろう。
「ラビリンスの気配を感じるの~!」
「なんやて!? 噂をすればなんとやらってヤツやな! 二日続けてラビリンスが現れるなんて、きついわぁ……。で、場所は?」
「花守駅方面なの~」
「よし、早速向かうで!」
 シロー先輩はオレの肩をバシッと叩いた後、ベラを抱き抱え、駆け足で部室を飛び出した。恐らく、花守駅に向かうのだろう。
「さあ、行きましょう! カズキさん!」
「あのなあ。まだ入部すらしてないし協力するとも言ってないんだけど。オレ」
「行かないんですか?」
 二宮がちょっと悲しそうな顔をした。思わず、オレの口から「うっ」と声が漏れる。
「……はあ。行くよ。困ってる人やバグスピが居るのに見て見ぬふりするなんて、カッコ悪いことはできないからな」
「そうこなくっちゃです!」
「うむ! それでこそカズキじゃ! さあ、行くぞい!」
 シバがオレの背中に飛び乗ってそう叫んだ。ひょっとして、背負ったまま走れということか? まあ、シバは軽いからいいけどさ。
「あ。ベラに駅まで乗せてもらうのはダメかな」
 廊下をやや早足で進む途中、オレは二宮にそう聞いてみた。すると二宮は首を横に振りながら、
「忘れたんですか? 一般の人はフラスピを見ることができません。つまり、巨大化したベラさんに乗って移動したら、私たちは空中に浮いたまま高速で移動する変な集団としてニュースに出ちゃいますよ」
「うっ。嫌すぎる……」
「でしょう? だから自転車で駅まで行きますよ!」
 花守駅は、ここから自転車で十分程走った場所にある。近くには色んな食べ物屋さんがあったりして、田舎の中の都会と言った感じの場所なんだよな。こんな状況でなければ買い食いしたい。
 ……って、そんなことを考えてる場合じゃないな! 急ごう!
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