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第1章

6.金メダル?

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 §

「うむ。皆、無事に帰って何よりだ」
 正午になった瞬間、オレたちの身体は紫色の光に包まれ、気がついたら学校のグラウンドに戻っていた。ゲートに飛ばされた時と同じように、魔王が転移の魔法を使ったのだろう。
 オレたちだけではなく、モンスターを倒した後に入手した魔素結晶もしっかり転移されている。それと、他のクラスメイトもちゃんと戻っていた。よく見てみると、みんな疲れた顔をしているな。
「よく頑張ったわねみんな。みんなの頑張りは遠見の魔法で見てたわよ」
 満面の笑みを浮かべながらテルン先生はそう言ったが、遠見の魔法って何だろう?
「この世界のものに例えると、監視カメラみたいな役割をする魔法だよ。対象者の姿を水鏡に映す、水属性のかなり難しい魔法」
 オレが疑問に思ったことを勘づいたのだろう。ナハトが耳元でこっそりと説明してくれた。
「えっ、それ普通に嫌じゃない? 知らない内に見られてたってことじゃん」
「まあね。でも多分、今回は私たちの安全を確保するために遠見の魔法を使ってたんだと思うよ。もし私たちがかなり危険な状況になったら、いつでも魔王様が助けられるようにしてたんじゃないかな」
「魔王がそこまで考えてるかなあ……?」
 対象者を水鏡に映す遠見の魔法か。プライバシーが守られないから嫌だな。その魔法を使う難易度は高いようだから、使用者が限られてくるのが幸いか。
「ふむ。集めた魔素結晶の数が一番多い班は、勇者、ナハト、ヴォルフの班のようだな」
 周りのクラスメイトが少しざわついている。
 それも当然か。オレは魔法を使えるようになって日が浅いし、ヴォルフともケンカばかりしていた。いくら優等生のナハトがいるとはいえ、こんな結果を出せる班になるとは誰も予想できなかっただろう。当事者であるオレ自身もびっくりしてるし。
「では、約束通り三人には褒美をやらねばな。我の元に来るがよい」
「何だろうな! 早くいこーぜ! クオン! ナハト!」
「分かった分かった! 行くから引っ張るなヴォルフ!」
 ヴォルフが、オレとナハトの手を引いて、全速力で魔王の元に走り始めた。
 周りのクラスメイトがさらにざわついた気がする。ヴォルフが誰かの手を引いて走るなんて今まで無かったからな。ナハトもちょっと驚きながら、笑顔を浮かべている。
「それで、褒美って何だよ魔王」
「ふふ、これが褒美だ。受け取るが良い」
 尖った歯を見せ、魔王が笑う。そして、オレたちに何かを手渡してきた。渡されたものをまじまじと見て、オレの口からつい出てきてしまったのは、
「何だこれ」
 という言葉だった。
「人間は、優れた結果を出した者に金目鯛というものを贈るのだろう?」
 金目鯛。名前に鯛って付いているから鯛の仲間と思われがちだが、実は違う魚種の深海魚だったはずだ。
 いや、深海魚を貰っても困るし、今、オレの手元にある物はどう見ても魚じゃない!
 とすれば、この金色の物体は――――
「……金メダルって言いたいのか?」
「うむ。それだ。金メダルだ」
 なるほど。金メダルか。どう見てもぐしゃぐしゃに丸めた金の折り紙に紐を付けたようにしか見えないけど、これは金メダルのつもりで作ったのか。
 ちらりとナハトとヴォルフに視線を向けると、絶句していた。そりゃそうだ。
「あ、ありがとうございます?」
 ナハトは魔王に向けてお礼を言ったが、困惑している様子が伝わってくる声色だった。
「う、うん。気持ちはこもってると思う。正直いらないけどいらないって言ったら失礼だよな。うん、ありがとう魔王」
「勇者よ。ここまで心がこもってない礼を言われたのは生まれて始めてだぞ」
「ごめん。でも予想のナナメ下の物が出されたからつい……」
「いいじゃねえか! オレ様たちが一番モンスター退治が上手かったって事実は残るしな!」
 ヴォルフは晴れ晴れとした笑みを浮かべながら、金メダルという名の丸めた折り紙をそっとポケットにしまった。
「確かにヴォルフの言う通りか」
 あまり豪華な物を貰ったら、他のクラスメイトが良い気分にはならないだろうし、これで良かったんだ。きっと。
 それに、ナハトとヴォルフと仲良くなれた。それが何よりのご褒美だ。
「あっ……」
 突如、辺りに間の抜けた音が響いた。
 音がした方向に目を向けると、お腹を両手で押さえたナハトの姿があった。どうやらナハトの腹の虫が鳴いた音だったようだ。
 そういえば、今は正午過ぎだな。お腹が空くのも当然だ。
「ぶっ、がはははは!」
「笑わないでよヴォルフくん! 魔法を沢山使ったからお腹が空くのも当然でしょ!」
「それにしても音がでかすぎだろ!」
 腹を抱えてヴォルフに釣られて、周りのクラスメイトも笑う。勿論、オレも。
 顔を赤くして恥ずかしがるナハトはちょっと可哀想だが、どうしても笑いが出てしまう。
「ふふっ。さ、みんな疲れたでしょ。教室に戻ってご飯にしましょうよ。今日の給食はみんな大好きなカレーよ」
 テルン先生の言葉にみんなが歓喜の声を上げる。
 給食で食べるカレーって、とても美味しく感じるよな。家で食べるカレーも美味しいけど給食のカレーはまた一味違って美味しい気がするから不思議だ。
 クラスのみんなが、駆け足で教室に戻っていく。動いた後のカレーは格別に美味しいだろうな。
「勇者くん! ヴォルフくん! 早く戻って一緒にカレーを食べよう!」
「おう! ナハトほどじゃねえけど、オレ様も腹ペコだ!」
「そうだな。でもちょっと魔王と話したいことがあるから、二人は先に戻ってて。すぐにオレも行くから」
「分かった! 早く来いよ! 早くこねえとお前の分もオレ様が食っちまうからな!」
「いや、それだけはやめろ! もし食べたら覚悟しとけよ! 火あぶりの刑だからな!」
 他のクラスメイトに続くように、二人も駆け足で教室に戻っていった。
 オレのカレーをヴォルフに食べられてしまう前に戻らねば。だけど、その前に気になったことがあるのでまだグラウンドに残っていた魔王に少し尋ねてみる。
「なあ魔王」
「どうした勇者よ」
「オレたちが集めた魔素結晶をどうするのかって思ってさ」
 クラスのみんながモンスターを退治して集めた魔素結晶がグラウンドに散乱している。それをどうするのか、オレはちょっと気になった。
「ふふ。案ずるな。悪用はしない。これは、近い内に皆のために使うと誓おう」
「オレたちのために?」
「うむ。楽しみにしてるがよい」
 耳をピコピコと動かしながら魔王が笑う。半年間一緒に暮らして分かったことだが、魔王が耳をピコピコと動かす時は何かを企んでいる時だ。ちょっと不安を感じる。
「さて、我も校長室に戻ってカレーを貪るとするか。勇者も早く教室に戻ってたんと貪るが良い。そして早く成長して、我と互角に戦えるくらいに強くなるといい」
「そういえば、オレを倒してこの世界を支配するのがお前の目的だったな」
「そうだ。勇者を倒す。それが、魔王として生まれた我の『役割』だからな」

 オレを倒すのが役割か。それなら、勇者と呼ばれるオレは魔王を倒すのが役割だったりするのかな。そもそも、勇者と呼ばれる理由も分からないし、自分自身を勇者とも思えないからいまいちピンとこないが。

 §

「ごちそう様でした」
 疲れた後に食べる給食のカレーはとっても美味しかった。ほどほどの辛さが疲れを吹き飛ばしてくれた。
 満腹になった後は、まったりとした空気が流れる。そうなると、自然と雑談が始まるものだ。
「そうだ。勇者くんとヴォルフくんは明日暇?」
 少しぬるくなった牛乳をストローで啜っていると、ナハトが話を切り出してきた。
「オレは暇だよ」
 明日と明後日は土日だから学校は休みだ。
 そういえば、土日で十月も終わって来週の月曜日からは十一月だ。最近ちょっと肌寒くなってきて、冬が近づいていると感じる。
「オレ様も特に予定はねえな。どうしたんだ?」
「来週の水曜日は文化祭でしょ。私、文化祭の買い出しを任されてるんだよね。良かったら買い物に付き合ってくれないかなと思って」
 文化祭までもう一週間を切っている。不足している物を買いそろえるなら今週末が最後のチャンスだろう。
「いいよ。焼きそば屋をやるのはどうかって提案したのはオレだし、言い出しっぺが仕事しないとな」
「お前らには助けてもらった借りがあるしな。オレ様も付き合ってやるよ」
「ありがとう! じゃあ、明日はよろしくね!」
 こうして、オレの明日の予定は埋まったのであった。
 今日は早く寝て、明日に備えないとな。
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