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昔話
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「…る、アル…起きなさい」
「ぅ…」
耳元で大声で話しかけられて、眉を寄せる。
うるさいな、誰だよ…もう少し寝かせ…
俺の脳内に少年が顔が浮かび上がり、勢いよく起き上がった。
俺の周りにいるのは、白衣を着た男達だった。
硬い金属の台の上に寝かされていた。
耳元で喋っていたのは、父親だったようだ。
そうだ、俺は変な薬を入れられて眠らされたんだ。
首筋に触れると、ガーゼのようなものが貼られていた。
「安心しなさい、身体に害はない薬だから」
「それを信じろと?」
「当然だ、血が悪くなるだろ」
父親は笑みを浮かべて近くにあった椅子に座った。
血ってなんだ?何の話をしてるんだ?
そういえば、監視の機械を壊す度に俺の血を抜いていた。
死ぬほどの量ではないが、何に使っているのか分からない。
まるで吸血鬼のようだけど、この世界にそんな人外がいるのか?
切り裂き誘拐事件も知らなかった俺が、外の話を知っているわけがなかった。
父親は他の白衣の男達に仕事に戻るよう手で合図した。
それぞれ机に向かって作業を始めてしまい、俺と父親だけがこの場に残された。
「あの人達をどうするつもりなんだ」
「我々のために協力してもらうだけだよ」
「協力…?」
「我が一族は、代々と続く武器商人なんだよ」
父親が語り出したその話は信じられないものだった。
俺の一族は有名な武器商人だった。
国の騎士や一般市民の護身用、いろいろなありとあらゆる武器を作り売っていた。
品質もよく、高級武器として売れてここまで地位を広げる事が出来た。
100年ほど前、一人の男が訪ねてきた。
名前は名乗らなかったが、とある武器のレシピを渡してきた。
作り方は普通の武器とほとんど変わらないが、そこに特殊な調合をした血を混ぜると書かれていた。
そんな発想はなく、健康な人間の血なら何でも良いので家族や使用人達の血を集めて、武器を作った。
滑らかな触り心地の刃が光り輝き、血を混ぜたからか赤黒く変わっていた。
軽く一振りするだけで、壁に切れ目が出来た。
素晴らしい武器に魅入られた一族の者は、どんどん血で出来た武器を作った。
しかし、一つの武器を作るのに多くの血が必要になる。
それも、致死量の血が…
「武器を作るためだけに、誘拐を…?」
「仕方ないだろ、素晴らしい武器を作るためには犠牲が必要だ」
「そんな事して、誰も武器なんて買ってくれないしすぐに犯人だって気付かれる」
「この国は材料調達だ、売るのは別の国…この国のライバル国なら金を多く出してくれる」
「…酷い、人を人と思っていないなんて…」
今までずっとそんな事をしていたなんて知らなかった。
呑気に過ごしている下では、大勢の人が苦しんでいたんだ。
下を向いて、悔しさで拳を強く握りしめていた。
俺の目の前に大きな影が重なり、見上げると父親が見下ろしていた。
嫌な笑みを浮かべていて、鳥肌が立った。
俺も武器にするのか…俺一人の血を犠牲にしても、父親は満足しない。
それなら俺はどうすればいい?
俺しか出来ない事、なにかないのか?
「何故、お前にこの話をしたか分かるか?」
「……」
「お前に特殊な勉強をさせたのも、全てお前に跡を継がせるためだ」
「俺が…?」
「一人でここまで来るなんて度胸がある、お前には一族を背負う才能がある」
父親の言葉を否定したかったが、言葉を飲み込んだ。
俺の口からは、真逆の言葉が出ていた。
「お父様の仕事を手伝いたい」と伝えると、より笑みを深くしていた。
俺が欲しいのは、一族の名声でもおかねでもない。
お父様が腰にぶら下げている鍵の束がほしい。
きっとそれがあったら、何処でも開けれる気がした。
人々が閉じ込められている牢屋もきっと…
手伝う気はさらさらないが、鍵の束を手にするくらいには信用されなければいけない。
そのためなら、俺は人を傷付ける事以外だったらなんだってする。
「なら早速、奥の部屋にいたアルと年齢が近い子供の食事を運んでもらおうか」
「…少年ってクリーム色の髪の綺麗な少年?」
「材料になる者の顔は覚えていないが、そうなんじゃないか?」
「………」
「料理を一切口にしないんだ、武器に入るほど成長させないと足りないからな、あのままだと血も悪くなる」
お父様…いや、この男は人を血としてしか見ていないようだ。
血は置いといて、少年の体調は気になっていた。
ずっと慌ただしかったから、ゆっくり話をしてみたくて頷いた。
「ぅ…」
耳元で大声で話しかけられて、眉を寄せる。
うるさいな、誰だよ…もう少し寝かせ…
俺の脳内に少年が顔が浮かび上がり、勢いよく起き上がった。
俺の周りにいるのは、白衣を着た男達だった。
硬い金属の台の上に寝かされていた。
耳元で喋っていたのは、父親だったようだ。
そうだ、俺は変な薬を入れられて眠らされたんだ。
首筋に触れると、ガーゼのようなものが貼られていた。
「安心しなさい、身体に害はない薬だから」
「それを信じろと?」
「当然だ、血が悪くなるだろ」
父親は笑みを浮かべて近くにあった椅子に座った。
血ってなんだ?何の話をしてるんだ?
そういえば、監視の機械を壊す度に俺の血を抜いていた。
死ぬほどの量ではないが、何に使っているのか分からない。
まるで吸血鬼のようだけど、この世界にそんな人外がいるのか?
切り裂き誘拐事件も知らなかった俺が、外の話を知っているわけがなかった。
父親は他の白衣の男達に仕事に戻るよう手で合図した。
それぞれ机に向かって作業を始めてしまい、俺と父親だけがこの場に残された。
「あの人達をどうするつもりなんだ」
「我々のために協力してもらうだけだよ」
「協力…?」
「我が一族は、代々と続く武器商人なんだよ」
父親が語り出したその話は信じられないものだった。
俺の一族は有名な武器商人だった。
国の騎士や一般市民の護身用、いろいろなありとあらゆる武器を作り売っていた。
品質もよく、高級武器として売れてここまで地位を広げる事が出来た。
100年ほど前、一人の男が訪ねてきた。
名前は名乗らなかったが、とある武器のレシピを渡してきた。
作り方は普通の武器とほとんど変わらないが、そこに特殊な調合をした血を混ぜると書かれていた。
そんな発想はなく、健康な人間の血なら何でも良いので家族や使用人達の血を集めて、武器を作った。
滑らかな触り心地の刃が光り輝き、血を混ぜたからか赤黒く変わっていた。
軽く一振りするだけで、壁に切れ目が出来た。
素晴らしい武器に魅入られた一族の者は、どんどん血で出来た武器を作った。
しかし、一つの武器を作るのに多くの血が必要になる。
それも、致死量の血が…
「武器を作るためだけに、誘拐を…?」
「仕方ないだろ、素晴らしい武器を作るためには犠牲が必要だ」
「そんな事して、誰も武器なんて買ってくれないしすぐに犯人だって気付かれる」
「この国は材料調達だ、売るのは別の国…この国のライバル国なら金を多く出してくれる」
「…酷い、人を人と思っていないなんて…」
今までずっとそんな事をしていたなんて知らなかった。
呑気に過ごしている下では、大勢の人が苦しんでいたんだ。
下を向いて、悔しさで拳を強く握りしめていた。
俺の目の前に大きな影が重なり、見上げると父親が見下ろしていた。
嫌な笑みを浮かべていて、鳥肌が立った。
俺も武器にするのか…俺一人の血を犠牲にしても、父親は満足しない。
それなら俺はどうすればいい?
俺しか出来ない事、なにかないのか?
「何故、お前にこの話をしたか分かるか?」
「……」
「お前に特殊な勉強をさせたのも、全てお前に跡を継がせるためだ」
「俺が…?」
「一人でここまで来るなんて度胸がある、お前には一族を背負う才能がある」
父親の言葉を否定したかったが、言葉を飲み込んだ。
俺の口からは、真逆の言葉が出ていた。
「お父様の仕事を手伝いたい」と伝えると、より笑みを深くしていた。
俺が欲しいのは、一族の名声でもおかねでもない。
お父様が腰にぶら下げている鍵の束がほしい。
きっとそれがあったら、何処でも開けれる気がした。
人々が閉じ込められている牢屋もきっと…
手伝う気はさらさらないが、鍵の束を手にするくらいには信用されなければいけない。
そのためなら、俺は人を傷付ける事以外だったらなんだってする。
「なら早速、奥の部屋にいたアルと年齢が近い子供の食事を運んでもらおうか」
「…少年ってクリーム色の髪の綺麗な少年?」
「材料になる者の顔は覚えていないが、そうなんじゃないか?」
「………」
「料理を一切口にしないんだ、武器に入るほど成長させないと足りないからな、あのままだと血も悪くなる」
お父様…いや、この男は人を血としてしか見ていないようだ。
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