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切り裂き誘拐事件
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「何者かが人を襲って行方不明になる事件が多発しているんだ」
「そうだったんだ、知らなかった」
「気にしない子も多いから落ち込まなくてもいいんだよ」
俺ってバカな事してたんだな、ボールを追いかけるのに夢中で周りを見ていなかった。
犯罪者が何処をうろついているのか分からない状態なのに。
少年は地面に落とした紙袋と中身が出てしまった果物や野菜を持ち上げる。
手にしていたナイフは器用に畳んでズボンのポケットに入れた。
彼は危険なのに買い物をしていたのか。
でも、納得も出来る…高速で襲ってきたボールを無傷で切り裂いたんだ。
同じ歳とは思えないほどに、強いんだろうな。
ジッと少年の顔を見つめていると、少年は俺の方に近付いてきた。
「これ、ボールを壊してしまった償いにはならないかもしれないけど、君にあげる」
「あ、ありがとう」
真っ赤に色付いた綺麗なリンゴを貰い、少年は歩いて行ってしまった。
俺は全然ボールが壊れた事は気にしていない。
むしろボールが暴れたせいで危ない目に遭わせてしまった。
謝るのは俺の方だ、もういなくなった少年が去った場所を見つめていた。
家に帰ろうと後ろを振り返ると、見知らぬ道が広がっていた。
追いかけていて、何処を歩いたか分からなくなっていた。
さっき少年が言っていた切り裂き誘拐事件を思い出して、背筋がひんやりと冷えた。
とりあえず、来た道を引き返して家が見えるまで歩こう。
大きな家だから、きっとすぐに見つかる筈だ。
ボールの皮を握りしめて、周りを警戒しながら早足で歩いた。
風に揺れてガサガサと音を立てる木の葉に驚いて身体が跳ねる。
誰かに聞いた方が早いと思い、大人が奥から歩いて来るのが見えた。
人見知りではないし、聞くだけなら簡単だ。
そう心で思っていても、声が思うように出ない。
通りすがる人一人一人が悪い人に見えてしまい、道を聞く事が出来ない。
人から離れながら歩いて早く家が見える事を祈った。
子供だからか、大人が建物を見るよりも大きくて怖いように見えた。
中身は大人なんだ、心まで子供になるわけにはいかない。
そうはいっても、今日中に家にたどり着けるか分からない不安がある。
日が落ちる前に見つけないと、暗がりで家を見つけるのは難しい。
早く見つけないと、早く家に帰らないと、そればかりが頭をよぎる。
焦っていると、見つかるものも見失ってしまう。
かなり歩いているように見えたのに、建物どころか街から離れているように感じた。
コンクリートの地面がなくなり、この先は土になっていた。
空もすっかりオレンジ色に染まっていて、引き返した。
まだ大丈夫だ、暗くないから前ははっきりと見える。
さっき曲がり角があったから、そこを曲がればきっと家が目の前にある筈だ。
歩いていると、地面が滑って頭から転けた。
幸いな事に、持っていたボールの皮と上着がクッションになって痛みはなかった。
リンゴも上着にくるんであるから無事で良かった。
気持ちが折れそうになったが、俺が折れたら一生帰る事が出来ない。
あの家で俺を心配する人は想像も出来ない。
お母様が心配してくれる時は、その日の特別授業を受けられない時だ。
今日の特別授業は終わったから、最悪明日まで待たないと捜索してくれない。
曲がり角を曲がって歩いていると、少ないとはいえさっきまで人とすれ違っていたのに、ここは誰もいない。
だんだん日が落ちてきて、俺の影が伸びていく。
大きくなって俺の意思とは関係なく、揺れている。
後ろを振り返ると、全身真っ暗な服を着た大男が立っていた。
深くフードを被っているから顔がよく分からない。
ただ男の両サイドに変なものが浮いていた。
俺が持っているボールにそっくりな丸い球体を囲うような円の形の刃物が高速で回っている。
切り裂き誘拐事件、まさかこの人が犯人なのか?
大男は指先で俺を指差すと、丸い球体が襲ってきた。
ボールの皮を投げつけただけで止められるわけもなく、刃物に弾かれた。
大男に背を向けて、走って無我夢中で逃げ出した。
家に帰ると、犯罪者も家に入ってきてしまうかもしれない。
誰かに助けを呼ばないと、この国に警察はいるのか?
後ろから気配がずっと追いかけてきていて、俺の体力がなくなりそうだ。
息を短く吸って吐いて、苦しくても止まらなかった。
もう自分が何処にいるのか分からない、家から離れている気がする。
でも今は、生きる事だけを考えなくては帰れるものも帰れなくなる。
視界に曲がり角が見えて、曲がるつもりだった。
頭を鈍器で殴られたかのように鈍い音と同時に心臓が揺さぶられた。
視界がぐにゃりと歪んで地面に転がり、壁に背中がぶつかった。
球体の刃物はなくなっていて、ボールのように俺の近くに転がっている。
金属で出来ていて、頭がぶつかれば無事では済まない。
なんで刃物がないのか分からないが、優しさではない事は分かる。
よろけながらも、足に力を入れて立ち上がろうとした。
突然腕を引っ張られて、鋭い痛みを感じた。
腕から血が流れていて、地面を赤く染めた。
球体から出てきた刃物に腕を軽く押し付けられて切られた。
すぐに球体の刃物は中におさまって、ただの丸い球体になっていた。
死ぬほどの深い傷ではない、ただ傷付けるためだけの怪我だ。
なんでこんな事をするんだ、なにが目的なんだ。
俺の身体は俺の意思とは関係なく、突然身体が浮いた。
驚いて上を見ると、大男がすぐ近くにいた。
そのまま俺を腰に担いだまま、何処かに向かって歩いていた。
「は、離せ!!」
「………」
俺の言葉が聞こえないかのように無視をして、進んでいく。
腕が痛いけど、両手足を大きく動かして暴れた。
どんなに強くても子供の力が大男に勝てるわけがない。
叫んでも誰もいないこの場所で俺の声が響くだけだった。
真っ暗な夜道を見て、俺の心も暗く落ち込む。
普通を目指していたのに、なんでこんな事になるんだ。
やっぱり普通から外れるとダメなんだ、ボールを追いかけなければこんな事にならなかった。
俺は普通がいい、こんな開始1分で死ぬ脇役は嫌だ。
大男は歩きを止めて、後ろを振り返っていた。
後悔と涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺も後ろを振り返った。
「そうだったんだ、知らなかった」
「気にしない子も多いから落ち込まなくてもいいんだよ」
俺ってバカな事してたんだな、ボールを追いかけるのに夢中で周りを見ていなかった。
犯罪者が何処をうろついているのか分からない状態なのに。
少年は地面に落とした紙袋と中身が出てしまった果物や野菜を持ち上げる。
手にしていたナイフは器用に畳んでズボンのポケットに入れた。
彼は危険なのに買い物をしていたのか。
でも、納得も出来る…高速で襲ってきたボールを無傷で切り裂いたんだ。
同じ歳とは思えないほどに、強いんだろうな。
ジッと少年の顔を見つめていると、少年は俺の方に近付いてきた。
「これ、ボールを壊してしまった償いにはならないかもしれないけど、君にあげる」
「あ、ありがとう」
真っ赤に色付いた綺麗なリンゴを貰い、少年は歩いて行ってしまった。
俺は全然ボールが壊れた事は気にしていない。
むしろボールが暴れたせいで危ない目に遭わせてしまった。
謝るのは俺の方だ、もういなくなった少年が去った場所を見つめていた。
家に帰ろうと後ろを振り返ると、見知らぬ道が広がっていた。
追いかけていて、何処を歩いたか分からなくなっていた。
さっき少年が言っていた切り裂き誘拐事件を思い出して、背筋がひんやりと冷えた。
とりあえず、来た道を引き返して家が見えるまで歩こう。
大きな家だから、きっとすぐに見つかる筈だ。
ボールの皮を握りしめて、周りを警戒しながら早足で歩いた。
風に揺れてガサガサと音を立てる木の葉に驚いて身体が跳ねる。
誰かに聞いた方が早いと思い、大人が奥から歩いて来るのが見えた。
人見知りではないし、聞くだけなら簡単だ。
そう心で思っていても、声が思うように出ない。
通りすがる人一人一人が悪い人に見えてしまい、道を聞く事が出来ない。
人から離れながら歩いて早く家が見える事を祈った。
子供だからか、大人が建物を見るよりも大きくて怖いように見えた。
中身は大人なんだ、心まで子供になるわけにはいかない。
そうはいっても、今日中に家にたどり着けるか分からない不安がある。
日が落ちる前に見つけないと、暗がりで家を見つけるのは難しい。
早く見つけないと、早く家に帰らないと、そればかりが頭をよぎる。
焦っていると、見つかるものも見失ってしまう。
かなり歩いているように見えたのに、建物どころか街から離れているように感じた。
コンクリートの地面がなくなり、この先は土になっていた。
空もすっかりオレンジ色に染まっていて、引き返した。
まだ大丈夫だ、暗くないから前ははっきりと見える。
さっき曲がり角があったから、そこを曲がればきっと家が目の前にある筈だ。
歩いていると、地面が滑って頭から転けた。
幸いな事に、持っていたボールの皮と上着がクッションになって痛みはなかった。
リンゴも上着にくるんであるから無事で良かった。
気持ちが折れそうになったが、俺が折れたら一生帰る事が出来ない。
あの家で俺を心配する人は想像も出来ない。
お母様が心配してくれる時は、その日の特別授業を受けられない時だ。
今日の特別授業は終わったから、最悪明日まで待たないと捜索してくれない。
曲がり角を曲がって歩いていると、少ないとはいえさっきまで人とすれ違っていたのに、ここは誰もいない。
だんだん日が落ちてきて、俺の影が伸びていく。
大きくなって俺の意思とは関係なく、揺れている。
後ろを振り返ると、全身真っ暗な服を着た大男が立っていた。
深くフードを被っているから顔がよく分からない。
ただ男の両サイドに変なものが浮いていた。
俺が持っているボールにそっくりな丸い球体を囲うような円の形の刃物が高速で回っている。
切り裂き誘拐事件、まさかこの人が犯人なのか?
大男は指先で俺を指差すと、丸い球体が襲ってきた。
ボールの皮を投げつけただけで止められるわけもなく、刃物に弾かれた。
大男に背を向けて、走って無我夢中で逃げ出した。
家に帰ると、犯罪者も家に入ってきてしまうかもしれない。
誰かに助けを呼ばないと、この国に警察はいるのか?
後ろから気配がずっと追いかけてきていて、俺の体力がなくなりそうだ。
息を短く吸って吐いて、苦しくても止まらなかった。
もう自分が何処にいるのか分からない、家から離れている気がする。
でも今は、生きる事だけを考えなくては帰れるものも帰れなくなる。
視界に曲がり角が見えて、曲がるつもりだった。
頭を鈍器で殴られたかのように鈍い音と同時に心臓が揺さぶられた。
視界がぐにゃりと歪んで地面に転がり、壁に背中がぶつかった。
球体の刃物はなくなっていて、ボールのように俺の近くに転がっている。
金属で出来ていて、頭がぶつかれば無事では済まない。
なんで刃物がないのか分からないが、優しさではない事は分かる。
よろけながらも、足に力を入れて立ち上がろうとした。
突然腕を引っ張られて、鋭い痛みを感じた。
腕から血が流れていて、地面を赤く染めた。
球体から出てきた刃物に腕を軽く押し付けられて切られた。
すぐに球体の刃物は中におさまって、ただの丸い球体になっていた。
死ぬほどの深い傷ではない、ただ傷付けるためだけの怪我だ。
なんでこんな事をするんだ、なにが目的なんだ。
俺の身体は俺の意思とは関係なく、突然身体が浮いた。
驚いて上を見ると、大男がすぐ近くにいた。
そのまま俺を腰に担いだまま、何処かに向かって歩いていた。
「は、離せ!!」
「………」
俺の言葉が聞こえないかのように無視をして、進んでいく。
腕が痛いけど、両手足を大きく動かして暴れた。
どんなに強くても子供の力が大男に勝てるわけがない。
叫んでも誰もいないこの場所で俺の声が響くだけだった。
真っ暗な夜道を見て、俺の心も暗く落ち込む。
普通を目指していたのに、なんでこんな事になるんだ。
やっぱり普通から外れるとダメなんだ、ボールを追いかけなければこんな事にならなかった。
俺は普通がいい、こんな開始1分で死ぬ脇役は嫌だ。
大男は歩きを止めて、後ろを振り返っていた。
後悔と涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺も後ろを振り返った。
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